第2話【パチンコ店の黒い影】1
翌日大学で瞳に会うと
「聞いてよ咲耶!橘くんに連絡先教えてもらっちゃった!」
と満面の笑みで報告してくれた。
「おお!凄いね!」
私は瞳の行動力に素直に驚いた。
「今度二人で遊べるかも♪」
瞳は楽しそうにスキップして去っていった。
その日の午後、瞳が興奮した様子で私の席に駆け寄ってきた。
「どうしたの?」
私は瞳の顔を覗き込むように尋ねた。
「橘くんからメール返ってきた!週末デートしてくれるって!」
瞳の目は輝いていた。
「本当!?やったね!」
私は両手を挙げ瞳とハイタッチした。
「ありがと咲耶。でも条件があって・・・一緒に早朝からパチンコ屋さんに並んでって言われたの」
瞳の表情が曇る。
「え?パチンコ屋さん?」
私は混乱した。初のデートでパチンコ屋さん?
「うん・・・その日はちょうど設定?がいい日みたい」
瞳は困った様子で肩を落とした。
「設定がいい日って・・・どんな日?」
私は理解できないまま質問する。
「私にもよくわからないんだけどね。機械の出玉の設定が高くて当たる確率が高い日?らしいよ」
瞳は複雑な表情で説明してくれた。
「なるほど。でもデートでパチンコって・・・」
「う~ん。でもせっかくのチャンスだしな。それに橘くんのこと好きになりそうだし・・・」
瞳は頬を赤らめながら照れている。
「そっか。だったら楽しんできてね!」
私は励ますように微笑んだ。
「ありがとう咲耶!私、頑張るね!」
瞳は勇気づけられた様子で教室を出て行った。
その日の夜、私はベッドの上で瞳とメールしていた。
『橘くんとデート決定!でもパチンコ屋さんに早朝並ぶの!ちょっと複雑だけど頑張る!』
『パチンコ屋さんか~。なんか想像できないな。でも彼なりの楽しみ方なのかもね。今度話を聞かせてよ!』
『了解!絶対話すね!』
瞳は楽しそうな絵文字を送ってきた。
週末になり瞳からメールが届いた。
『パチンコ屋さんに向かってる。緊張する・・・』
『頑張ってね!うまくいくといいね!』
私はエールを送った。
数時間後瞳から再びメールが来た。
『まだ並んでる・・・外でずっと』
彼女のメッセージには疲労感が滲んでいる。
『大丈夫?寒くない?』
私は心配になり尋ねる。
『平気だよ。橘くんが暖かい缶コーヒー買ってくれた』
瞳の返信は少し明るくなっていた。
『よかった!あとどれくらい待つの?』
『あと2時間くらいみたい・・・』
瞳のメッセージには嘆きが見え隠れする。
さらに数時間後
『やっと中に入れたよ!席が確保できた!』
瞳からのメッセージには安堵の色が見える。
『よかった!楽しんでね!』
『ありがとう咲耶!頑張るね!』
瞳は元気を取り戻した様子だ。
更に数時間後
『咲耶、時間あるかな?良い台が空いたから咲耶にも来てほしいって橘君が・・・』
瞳から急な誘いが来た。
『え?私パチンコしたことないよ?』
『大丈夫!橘くんが教えてくれるって。それにお金も出してくれるって!』
『う~ん。仕方ないなぁ・・・橘くんには助けて貰ったし・・・行ってみるよ』
私は半ば諦めたように承諾した。
『やった!待ってるね!』
瞳のメッセージには喜びが溢れている。
指定されたパチンコ店は地下鉄からすぐの所だった。到着すると店内は独特の熱気に包まれている。目いっぱいにおしゃれをしたミニスカート姿の瞳が手を振って呼び止めてくれた。北海道の朝は春であれ、早朝の外をこの姿で待つのはは寒かったであろう。瞳に深く同情した。
「橘くん!咲耶、連れてきたよ!」
「こんにちは木花さん。突然呼び出してごめんね」
橘くんは丁寧にお辞儀をする。
今日もパーカーにジーンズでじゃらじゃらと数珠をつけている。
「いえいえ・・・パチンコ全く分からないんだけど大丈夫かな?」
私は不安げに尋ねる。
「大丈夫。最初は俺が教えるから」
橘くんは優しく微笑んだ。
私たちは指定された台の前に移動した。そこには一台のスロットマシンがあった。
「この札がスロット台の上の棚に刺さっているのが良い台なんだ」
札と呼んだ物にはサメとエビとアンコウの絵が描かれている何の意味があるのだろうか?
「なるほど・・・」
私はよくわからないまま頷いた。
「じゃあまずこの下皿に俺の出したコインを入れるね。コインを3枚入れてこのレバーを叩くと1回まわせるから」
橘くんはコインの入った箱をスロット台の下皿と呼ばれる場所に傾けコインを入れる。
橘くんの顔が近づきムスク系の香水の匂いがして、少しドキリとした。
「う、うん」
やはり良くわからないが頷いた。
「そして、ここのランプが光れば当たり。光ったりコインが無くなったりしたら呼んでね」
橘くんの指示に従い作業を開始した。
「わかった。ありがとう」
「よし、頑張ろう咲耶!」
となりの台に座っている瞳が応援してくれる。瞳の手元を見るとすでに下皿にコインが溜まっていて、台の上の箱にもコインが入っていた。
「凄いね。瞳ちゃん!」
私はよくわからないが驚いてみせた。
「うん!橘くんの教え方が上手いから。これだけで2万円くらいになるみたい」
瞳は笑顔で言った。その笑顔は少し紅潮していて興奮している様子だ。
「じゃあ咲耶も頑張ってね!」
瞳は自分の台に向き合った。
しばらく橘くんに言われた手順でレバーを叩いていると突然ランプがピカッと光った。
「あ!光ったよ!」
「お!早いね!」
橘くんがそう言って私の台を見た。
「どうすればいいの?」
私は戸惑いながら尋ねる。
橘くんは一枚だけコインを入れるとトントントンと7図柄を揃えた。
「おっ、BIGだったね。後は適当に回してたらコインが出るから。また光ったら呼んで。」
橘くんは説明するとすぐに自分の台に戻っていった。
その後、私と瞳は橘くんの指示通りにスロット台を回して順調にコインを増やしていった。
「お腹すいた~。ご飯食べにいこうよ♪」
私の台の7図柄を揃えに来た橘くんに瞳が少し上目遣いで言った。
「じゃあ、店の横にあるラーメン屋に行く?俺がおごるよ。」
橘くんは得意げに言ったがそれを聞いた瞳の顔は少し引きつっていた。外に食べに行くものと思っていたのだろう、
「じゃあ行こうか」
と先頭を歩く橘くんの後ろから二人でついていく。
「パチンコを止めて、外でデートしたいって意味だったのに」
パチンコ店の喧騒の中で瞳の呟いた言葉が聞こえた。
私は苦笑いを浮かべるしかなかった。
ふと横を見ると札が刺さっているのに空いている台が見えた。なんでだろうか少し気になったが食欲が勝りすぐに二人の背中を追った。
そのままパチンコ店にあるラーメン屋へ。店内もパチンコ店の客層と同じく中年の男性と派手な格好の若い男性ばかりだ。
「何食べようか?」
橘くんが尋ねる。
「う~ん・・・醤油ラーメンにするよ」
瞳は迷った末に決めた。
「私は味噌ラーメンにする」
私はメニューを指差して言った。
「じゃあ俺はチャーシュー麺にしようかな」
橘くんはいつも通りという感じで注文した。
「そういえば橘くんのパーカーってエイプだよね?」
瞳はふと気づいて言った。
「よくわかったね!古着屋で安く売られててね。新品よりも安いから即買いしたよ」
橘くんは嬉しそうに答える。
「いいな~。私もレディースがあれば欲しいかも」
瞳は羨ましそうな表情を浮かべる。
「今度一緒に行こうよ!俺のオススメの店教えてあげる」
橘くんは得意げに言った。
「わ~い!楽しみだな♪」
瞳は嬉しそうに言った。
その後私たちは談笑しながらラーメンを食べ、橘くんが会計を行う。
「ごちそうさまでした♪」
次のデートを取り付けた瞳は少しご機嫌だ。




