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第5話【冥府へ渡るもの】4

 当日待ち合わせに現れた祥吾も「可愛らしいと思っていたけど、化粧をすると大人っぽい美女だね」と褒めてくれた。デート自体も映画を見て感想を言い合いながらフレンチレストランで食事をする。私には無縁だと思っていたお洒落な世界に眩暈がしたがすごく楽しかった。後に祥吾が「本当の自分を見て欲しいとか言いながら、実は僕も背伸びして大人の男性を演じてたんだよね。あんなお洒落なレストラン行った事なかったし」と言っていて2人で笑い合った。


 その後は毎週のようにデートを重ね。嫌な顔1つしないで服や小物を貸してくれたり、使っていない物をくれたりした女性スタッフの協力もあって祥吾との仲はどんどん近づいていった。しかし、私は祥吾に伝えなければいけないことがあった。


「わ、私、実は放置子で親の顔も見たこと無くて・・・児童養護施設育ちなの・・・隠していてごめんなさい」

私が意を決し話すと


「別に恥ずかしいことじゃないし謝ることでもないよ。舞が苦労しているのは何となく分かってたからね。交際や結婚に支障があるんじゃないかと思っているんなら少し心外かな。そんな事で気持ちが変わるほど僕は狭量じゃないよ」

ほほ笑みながら祥吾が言ってくれた言葉に涙が溢れた。

 

 祥吾の実家に初めて遊びに行った際、祥吾の両親に同じ事を伝えると

「大変だったわね。私たちのことは本当の親だと思って甘えていいのよ」

と言って抱きしめてくれた。


 幸せで暖かい日々はあっと言う間に過ぎて私の高校の卒業式が近づき、事務員としての就職が決まっていた私はレストランのアルバイトを辞めることになり、店長や女性スタッフが中心となり私の送別会を開いてくれることとなった。そこで挨拶をする私は大変な世話を焼いてくれた職場の人たちに隠し事をしたまま別れるのが嫌だと思った。


「このような席を設けていただいてありがとうございます。私、皆さんに隠していた事がありまして・・・実は私、親の顔も見たことがない児童相談所育ちなんです。隠していてすいませんでした」

それを聞いていた全員がキョトンとした顔で私を見ている。この人たちに嫌われるのは嫌だな・・・


「舞ちゃんがバイトで入ってくる時に店長が『児童養護施設で育って苦労してる子だから優しくしてあげてね』って言ってたから皆知ってるよ」

それを聞いた私は泣きながらテーブルに突っ伏した。


「嫌われたと思ってびっくりしたー」


「そんなことで嫌うわけないでしょ」

女性スタッフ・・・もとい世話焼きの大学生、新藤しんどう あかね


「ほんとうに舞はすぐ泣くんだから」

女性スタッフ・・・もとい気の強い大学生、宮島みやじま 愛子あいこ


「せっかくお化粧したのに崩れちゃったから、後で直そうね」

女性スタッフ・・・もといお洒落な大学生、堂場どうば さち


 そう言うと3人で私の事を抱きしめてくれた。本当に優しくて大好きなお姉さん達だ。


 最初からみんな優しかった。自分の境遇を恨み、恵まれた家庭環境だからと相手を妬んで自分を閉ざして相手に関わらなかった私こそが軽蔑されるべき人間だった。しかし、お姉さん達3人を含め全員が暖かく見守ってくれていたんだ。そう思うと涙が止めどなく溢れて声を出してわんわん泣いた。


 卒業式が終わると卒業証書を持って祥吾のアパートの扉の前で祥吾が帰宅するのを待っていた。定時で仕事を終えた祥吾が急ぎ足で帰ってくるのが見えて、筒から証書を取り出し到着した祥吾の顔の前で広げる。


「おっ、舞、卒業おめでとう」


「祥吾さん、私まだ祥吾さんのこと好きなんだけな~」

私はいたずらっぽく笑う。


「それでは、ウンウン、僕と結婚を前提にお付き合いして下さい」

祥吾は咳払いをして片膝を付き演技っぽく言って、ほほ笑んだ。


「もー、それって感情こもってるの?」

私はいじけるような素振りをしたが、内心は本当に嬉しかった。


 その後は晴れて彼氏、彼女として交際を続けて、19歳になりたての頃に祥吾から『結婚しよう』とプロポーズを受けたが、戸籍を調べると私の両親はすでに他界しており、養護施設長と弁護士が後見人になれば結婚が可能で、それでも良いと祥吾は言ってくれたが負担を掛けたくなかった私は20歳の誕生日に結婚することを決めた。


 結婚の準備は忙しく1年あるからと思っていたが、あっと言う間に過ぎて行った。

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