第4話【犬神】6
私達が小林宅にお邪魔してから5日が経つが、小林さんと毎日連絡を取っている小早川さんによるとあの日以来“犬神”は現れてはいないそうだ。“犬神”はどこにいったのだろうか?少しだけモヤモヤする物を感じていた。
私にはそれと同じくらいモヤモヤすることがある。小林宅に行って以来、橘くんに避けられているのだ。挨拶程度はするのだが、たまに目が合うと気まずそうな顔をして目を反らす。ちょうど凜さんが遊びに来ていたので、小林宅での件を報告するついでに相談してみた。
「そっか・・・そんな事があったんだね。それに咲耶ちゃんはご加護を頂いたんだ。それにしたってあの子は全く・・・。ごめんね咲耶ちゃん。ちーちゃんは年の近い子にどう接したら良いか分からないんだと思うの」
凜さんは真剣な眼差しで姿勢を正す。
「どう接すれば良いか・・・ですか?」
「あの子は物心付いたころからお祖父ちゃんが亡くなるまでの間ずっと修行だけの毎日だったから友達なんて作れなかったの。小中高はギリギリの出席日数で日本各地の霊山で山籠もりしたり、放課後はお祖父ちゃんの個人指導で空手や柔術の練習や写経をしたりしてて自分の時間なんてほとんどなかったと思う」
凜さんは俯きながら話す。
「橘くんにすごい力があるのは分かるんですけど、何でそんな修行を行う必要があったんですか?」
「ちーちゃんが産まれる少し前に清祓協会の偉い占い師さんが『北の地の寺にて強い験力を持ち衆生の救済を成す者が産まれる』って占いが出て、清祓協会の会員が北海道と東北の寺に産まれた全ての子供を調べたみたい。そうして見つかっちゃったの。それ以来、お祖父ちゃんは住職をお父さんに譲って付きっ切りでちーちゃんを鍛えていたの。そのお祖父ちゃんも高齢なのにちーちゃんと一緒に山籠もりして無理をし過ぎちゃったのか一昨年の冬に死んじゃった。修行から解放された今のちーちゃんは反動なのか大学にも行かず金髪にして1人でパチンコばかり打っているのです」
凜さんは少し苦笑いを浮かべる。
「そんな感じで心配な弟の為に姉としての教育が必要なわけだね。そういえば、デートに誘ったつもりがパチンコ屋さんに連れて行かれた咲耶ちゃんの友達の瞳ちゃんとはあの後きちんとデート出来たのかな?」
「それなんですけど・・・待ち合わせして回転寿司に行ったみたいなんですけど、お寿司を食べて即解散したみたいです。教えるって言ってた古着屋さんは、道中に『あっ、ここ前に言ってた古着屋』って言って素通りしたみたいです」
「かぁー。あの子は・・・」
そう言って凜さんは頭を抱える。
トントン
「戻りました」
そう言って橘くんが帰ってきた。
橘くんがドアを開けると仁王立ちの凜さんが詰め寄る。
「ちーちゃん、咲耶ちゃんを嘘つき呼ばわりして謝って無いんだってね。それが気まずくて避けてるなんてひどい事して、お姉ちゃんは悲しいよ」
「木花、姉ちゃんにチクったな!!」
焦る橘くんに向けて私は舌を出す。
「とりあえず、『嘘つき呼ばわりしてすいませんでした』でしょ」
そう言って凜さんは橘くんの後ろに回り込み後頭部を掴む。
「チッ、嘘つき呼ばわりしてすいませんでした。これでいいんだろ」
すごく不本意だという顔で橘くんは言った。
「舌打ちが聞こえたし、あまり誠意が伝わらないんだよなー」
私は腰と顎に手を当て考え込む仕草をする。
「噓つき呼ばわりしてすいませんでした」
橘くんはさっきより丁寧に謝罪する。
「しょうがないなー。今回だけだよ。次は無いと思いたまえよ」
私は腕を組み偉そうに言った。
「ふっ、分かったよ」
橘くんは少し吹き出し笑いしながら言った。
「さて、次は女心についての講習だ。移動するよ。」
そう言って凜さんは橘くんを奥の部屋に引っ張っていく。
「木花、また余計な事言ったな!」
引きずられて行く橘くんへ手を振りながら長谷川スマイルで見送る。
ガチャリとドアを開けて小早川さんが戻ってきた。午前中に事務所に戻ってくるのは会計事務所の方が来る時と依頼者が来る時だ。事前に連絡を受けていないということは後者なのだろう。
「おはようございます。木花さん。急なんですが今から琴教寺さんの紹介で依頼者が来ます。お名前は錦川さん、中学生の娘さんについての相談と言っていました」
錦川と言えば由依ちゃんと同じグループにいたという子と同じ苗字だ。小早川さんには由依ちゃんが錦川という子と喧嘩したということは報告してある。
「まだ依頼内容を詳しくは聞いていませんが“犬神”に関係しているかもしれませんね。ところで、凜がまた騒いでいるのですね」
そう言うと小早川さんは奥の部屋のドアに近づいた。
「凜、今から依頼者の方が来ます。静かに出来ないなら事務所の外に行って下さい」
ドアの外から小早川さんが呼びかける。
「いっちゃん帰って来てたんだ。わかった静かにしてる。ちーちゃんがごちゃごちゃ言うから怒られたじゃない」
それを聞いた小早川さんは片手で頭を抱える。




