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第4話【犬神】4

 私はハッと頭を上げる。不思議そうな顔で全員が私の顔を見ている。


「木花?まさか寝てたわけじゃないよな?」

橘くんが小声で私にささやきかける。


「違うよ!祝詞が終わったら声が聞こえて、ご加護を下さるって」

慌てて説明するが、橘くんは訝しんだ目で私を見た。


「本当だって、信じてよ」

そう言っても橘くんは訝しんだ目を辞めない。嘘なんて言ってないのに失礼な人だ。


「その話は後でゆっくり聞くとして、配置について対策を始めましょう。ご両親は私とリビングに待機、標的にされていると思われる由依さんは木花さんと自室で待機、橘くんは屋外で“犬”がきたら追い払って下さい。橘くん、可能なら消滅させてもかまいません。」

私と橘くんの諍いを遮るように小早川さんが次の指示をだした。


「はい」

そう言って私たちは持ち場に移動する。立ち上がった際に橘くんと目が合い睨みつけると、目を反らして速足で玄関に向かい歩いて行った。これは後で凜さんに言いつけて何とかしてもらおう。


 私は由依ちゃんの後を付いて階段を昇る。自室の前に着くと由依ちゃんは不思議そうな顔でドアに吊るされたフクロウの爪と、床に置かれたフクロウの置物を見ている。


「それはフクロウの爪と置物だよ。フクロウは犬を食べちゃうから怖がって近づかなくなるんだって。あと、このフクロウのネックレスを着けておいてね」

私はそう言って木彫りでフクロウを模ったペンダントトップが付いたペンダントを渡す。その際に長谷川さんのほほ笑みをイメージしてほほ笑んでみる。


 なぜ長谷川さんかと言うと、長谷川さんのほほ笑みは万物を癒すと前のバイト先のレストラン内では信じられていたからだ。私が失敗する度に『大丈夫だよ。咲耶ちゃん』とほほ笑みかけられて救われてきた。今の由依ちゃんを少しでも安心させてあげたい。出来る出来ないじゃないやるんだという思いだった。


「あ、はい・・・」

由依ちゃんは半身半疑といった感じだ。私のほほ笑みでは癒されていないようだ。まだまだ長谷川さんへの道は遠いようだ。


 由依ちゃんに案内され部屋に入る。由依ちゃんの部屋は正方形の7畳間で、左奥にベッド、右奥には勉強机と本棚が置かれ、入口ドアの横にテレビが置かれ、部屋の真ん中に円形のローテーブルとそれを囲むようにクッションが置いてある。ベッドと勉強机の間に1.5mほどの窓があり隣家が見えている。全体的にピンクと白を基調とした女の子らしい部屋で部屋の所々に『鋼の錬金術師』の人形やポスターが張られ、本棚には『鋼の錬金術師』の漫画や少女漫画が並んでいる。

 

「座って下さい・・・」

由依ちゃんに促されクッションの上に腰を下ろす。


「改めまして、私は木花 咲耶、20歳の大学生で、この探偵事務所で普段は事務の仕事をしているよ。中学生の女の子が男の人と二人っきりは抵抗あるだろうから、私も一緒に来たの」ここも長谷川さんスマイルで大人として由依ちゃんを安心させなくては。


「大学生なんですね。私より少し上の高校生くらいだと思ってました」

中学生にとって高校生は大人に見えるからね。低身長の私が子供に見えたわけじゃないと思うよ。


「よく言われるんだよ。私としては大人のレディを目指して日々精進してるんだけどね」

由依ちゃんの表情が少し緩んだ。


「“犬”の鳴き声が聞こえて不安だと思うけど、大丈夫だよ。前に私、真っ黒い影みたいなのに襲われそうになったんだけど、金髪の橘くんっていたでしょ?あの人が『破ぁ!!』ってパンチしたら消えちゃったんだよ。だから今回もすぐに“犬”も追い払ってくれるよ。」

私はパンチングポーズをする。


「そういう不思議な事ってやっぱりあるんですね・・・」

由依ちゃんは何か含みのある言い方で言う。何か気になる事でもあるのだろうか。


「うん。でも小早川さんのお祓いと橘くんがいれば平気だよ。そんな事よりお菓子でも食べない?」

私は自分のバッグからスナック菓子とチョコレート、オレンジジュースと紙コップを取り出した。決して自分のお腹がすいたからではない。場を和ませるために準備したものだ。


「はい・・・」

由依ちゃんの表情は依然として硬い。


「ところで由依ちゃんも『鋼の錬金術師』好きなんだね。私も好き。マスタング大佐、カッコいいよね」

そう言うと由依ちゃんの表情が緩んだ。相手の心を開かせる第一歩は相手に寄り添い共感することがまず必要なのだ。


「そうなんですよ!冷たいようで優しくて、渋い大人の男性って感じですよね!」


 そうして少しだけ心を開いてくれた由依ちゃんとお菓子を食べながらアニメや漫画の話をする。所々笑顔も見えて少し不安も解消していってくれている様子だ。


「所で、木花さん?少しワイルドで少年のような橘さんとクールで冷静な大人の魅力溢れる小早川さん、どっちもカッコいいけど木花さんはどちらと付き合ってるんですか?」

由依ちゃんがニコニコしながら訊ねてくる。女子中学生は三度の飯より他人の恋バナが好きなのである。私も自分の事になると黙りこくるのに同級生の話には耳を大きくして聞いていた方なので気持ちはわかる。


「そんなのじゃないよ。前に話した怪奇現象にあった時から色々な物が見えるようになっちゃって、見えているのに何の自衛も出来ないから探偵事務所で働きながら保護してもらってるんだよ」

それを聞いた由依ちゃんは少し暗い顔をして、私は「どうしたの?」と尋ねる。


「私と同じグループに錦川にしきがわさんって子がいたんですけど、その子が所謂霊感少女で、駅のホームや学校で『黒いのが動いてる』って言うから、最初は聞き流してたんですけど田中さんって女子と一緒に『その嘘、気持ち悪いから辞めた方が良いよ。私達の気を引きたいなら別の方法考えたら?』って言っちゃんたんです。それ以来その子とは疎遠になっちゃって・・・。嘘だって決めつけてあんな酷い事言っちゃった罰が当たったんですかね」

由依ちゃんは苦笑いをしながら話してくれた。


「今の状況が解決して学校に行ったら謝らないとね」

私はほほ笑みながらいった。


 その話が終わってすぐに遠くの方から犬の遠吠えが聞こえてきた。遠吠えは屋外から聞こえているはずなのだがまるで遮蔽物など無いようにクリアに聞こえる。その遠吠えはどんどん家に近づいてくるのが分かると、由依ちゃんはベッドで布団に潜り震えている。私は布団ごと由依ちゃんを抱き寄せ『大丈夫だよ』と耳元で静かに言った。

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