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恋鬼  作者: 有月 悠
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四、後悔の物忌み

 それから三日間、亮澄は出仕もせずに物忌みと称して家で寝ついていた。

 自分がしたことを後悔していた。

 あんな大胆なことなんでしてしまったんだろう・・・。

 でもあの時は体が動いた、としか言いようがない。

 よりにもよってあんな大勢の前で今様を舞ってしまうなんて・・・。

 思い出すだに身がよじれる。

 うまくもない即興の歌に練習もしてない舞とか・・・。

 左大臣様は褒めてくれたけど、きっと自分に恥をかかせないようにそう言ってくれたんだろう。あの時の自分の姿はいったいどうだったんだろう?産まれたばかりの蛾がぎこちなくじたばたと羽を動かしているようなものだったろう。

 はぁ、と大きくため息をついてまた寝がえりをうつ。

「坊ちゃま、お加減はいかがですかな?」

「ん・・・、んん・・・」

 光雄にも生返事しかできない。光雄には何も言ってない。

「雅透様がお見舞いにいらしましたが・・・」

「そう・・・」

 会いたくはないが・・・。

「おーい、亮澄、何やってんだよ」

 繊細な亮澄とは違い豪放な質の雅透は自分の許しなく勝手に邸に入ってきていた。

 いつものことだが。

 自分も、雅透ほど肝が据わっていたなら、こんなにくよくよ思い悩むこともないだろうに。

「大丈夫かーって、お前どうしたんだその顔!」

「顔?」

 顔なんてここ三日ろくにのぞいてない。

「光雄・・・」

「は、はい」

 光雄が鏡を取ってきてくれる」

「う、わ・・・」

 なんだこれ。しばらくろくに食べてなかったとはいえ、ひどいやつれようだ。それに、なんというか・・・。

「はー、色っぺー・・・。いったいどうしたんだよ、この変わりようは」

「うん・・・」

「黙ってちゃ分かんないって。左大臣様も心配してわざわざ俺んとこまでお前のこと聞きに来たんだぞ」

「は?左大臣様が?なんで?」

「なんでって・・・。お前この間の宴で左大臣様に気に入られたじゃないか」

「気・・・に入られた?私が・・・?」

「そうだぜー。宴の次の日は得意顔になって内裏に出てくるかと思ってたら物忌みだとかいって3日もこないし。あ、まさか紫苑姫のとこに通って・・・」

「ば、馬鹿んなこと・・・」

「まぁ早く元気になって出仕して紫苑姫のとこに文を出せよ。美男美女カップルの誕生だって言われてるぜ」

「・・・」

 いったい、何がどうなってるんだろう。雅透の話は本当なんだろうか。

 自分が、左大臣様も認める紫苑姫の婿になれる・・・?

「あの、失礼します、先ほどの話本当なんでしょうか?」

 光雄が遠慮がちに雅透に聞いた。

「えー、光雄何も知らないの?教えてやるぜー!こいつな、あの宴でいきなり今様を歌いながらそれはもう見事な舞を披露して左大臣様を感激させて、今や宮中でも噂の左大臣家の婿がねなんだぜ!」

「ぼ、坊ちゃま!ほ、本当なんですか・・・?左大臣様に・・・」

 こうもあからさまに言われちゃうなずくしかない。

「で、でも歌ったっていっても下手くそな即興だし、舞だって・・・」

「お前なー、自分の顔をよーくみておけよ。お前ほどの美男なら、ちょっとぐらい下手くそだってよく見えるもんなんだって。そうじゃなくてもお前の舞も歌もよかったよ」

「ほ、本当か!?」

「本当だって。明日ちゃんと出仕するんだぞ。そうしたら分かるから」

「う、うん・・・」

「じゃ、今日はたくさん食べてよく寝とけ。うちの荘園の芋とか後で持ってきてやるよ」

「あ、ありがとう」

「じゃな」

 雅透は亮澄の肩をぽんぽんと叩いて出て行った。

「ぼ、坊ちゃま・・・」

 ぎくっとして振り向くと目に涙を浮かべた光雄が肩を震わせていた。

「坊ちゃまが、左大臣家の婿に・・・。な、何故爺に何も言ってくれなかったんですか・・・」

「いや、こんなことになっているなんて思わなくて・・・」

「爺は、爺は嬉しいですぞー!父君がお亡くなりになってから苦節十数年・・・」

「わ、分かった、分かったからそれはもういいよ・・・」

「とりあえず雅透様も仰られていたようにたくさん食べていただかなければ!勢いがなくなったとはいえ平城の御代から続く由緒ある橘氏の男がこうも痩せているなどっ。左大臣家に笑われてしまうっ」

 光雄は立ちあがると台盤所へ向かって走っていった。

 五十過ぎとはとても思えない元気さだなぁ・・・。

 その後光雄は本当に山ほどのご飯を用意してくれた。雅透の所から早速芋も届けられたようで甘蔓煮の芋がこれまた山ほど膳に出た。 

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