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5.【出会い】




俺の心は初めて二階堂さんと出会った春へと遡る。


大須の商店街を柔らかな光が包む季節、桜の花びらが

風に舞い街中に春の匂いが漂っていた。


あれから季節は駆け足で巡り今はもう8月の終わり。


蝉の声も次第に遠ざかるだろうがまだまだ名古屋は

暑かった。


ケトルでお湯を沸かして竜二さんと修司さんのお茶を

入れながらいまここにはいない二階堂さんを思い浮かべる。


二階堂さんは洗練された大人の色気を纏う男だった。


軽くウェーブした短い髪に額に落ちる一房が鋭い眼差しを際立たせ、瞳は闇で光る琥珀のように見る者の心を

絡めとる。


自作のシャツから覗くタトゥーは謎めいた深みを添え、計算された仕草の1つ1つがが刹那的な色香を放っていた。


静かでいて圧倒的な存在感は周囲の空気を一変させ、

お客さんの中なも熱烈なファンが多い。


誰もがそのオーラに引き込まれたがもちろん俺もその1人で、店の手伝いの合間に彼を盗み見るたび胸がざわついた。


二階堂さんの星屑のような輝きに心を奪われ、目が

合う度に時間が止まる。


心が波に溺れるような感覚にこれが恋でなくて何だと

俺は震えた。


子供の頃から芸能界を目指しレッスンに明け暮れた俺は誰かと心を通わせたことなんて一度もない。


それなのに、なぜ男の二階堂さんがこんなにも心を揺さぶるのか。


分からなかったけど、ただ、心の奥で響く直感がこの人だと囁き続けた。



___ある春の夕暮れ、店に2人きりの瞬間が訪れた。



震える声で呼びかけると二階堂さんが振り返り、心臓が飛び出そうだったがカウンターに手をついて思い切って頭を下げた。




『あ、あの、俺と付き合ってください!!』




空気が一瞬、止まった。


俺の心は早鐘のように鳴り響く中、二階堂さんはしばらく黙ったまま俺を見ていた。



『いいよ』



やがて形のいい唇からこぼれた一言に、俺の胸は熱い波に一気に飲み込まれた。


まるで夜空の星を全て手に入れたような高揚感、興奮と初めて感じる幸福にその夜は一睡もできなかった。



………が、しかし。



その喜びはあまりにも儚かった。


付き合い始めてわずか1週間もしないうちに二階堂さんは何の言葉もなく仕事でパリへ旅立った。


心にぽっかりと穴が空いたがいくら待っても電話もメールも届かない。


忙しさで連絡ができないだけだと自分を慰めたが胸の奥のざわめきは消えず、竜二さんには電話をかけていると知ったとき心が一層重くなった。



郁巳「……付き合ってるんだから、連絡くらいくれてもいいと思いませんか?」



レジカウンターに立ち気恥ずかしさに頬を染めながら、俺は修司さんと竜二さんに馴れ初めを聞かれたので全てを答えた。


ついでにどうにもならない気持ちをお茶を渡しながら呟くが、自分で口にした言葉なのにまるで熱い湯気のように顔が火照る。


2人は何も言わず顔を合わせてるのがやっぱり気恥しくて、俺はごまかすようにそのままレジの金の確認をするふりをして視線を落とした。


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