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4.【理性を奪うタトゥー】




修司「えええええぇ!?!?」


竜二「痛い痛い痛い! !刺さってる、足首に刺さってる!!」



竜二さんは慌てて足を振るがまち針が刺さったらしい。


2人は顔を見合わせ、目を見開いて俺を凝視した。


何かおかしなことを言っただろうかと俺が首を傾げると、修司さんが急に声を張り上げる。



修司「わ、わかった、わかった! 一旦いくはその荷物

置いて服着替えてから茶入れてや! いくのばあちゃん

とこのお茶、俺めっちゃ好きやねん、な?」


郁巳「えっ……あ、はい……」



開店までまだ40分あるし、まあいいかと俺は奥の

スペースに荷物を置きに行く。


俺がこのバイトを始めたきっかけは修司さんみたいな

ものだもんな……。


実は修司さんが俺のばあちゃんの店のお茶を気に入っていて、よく二階堂さんがお使いに行かされていたらしい。


サボりがてらあの店前のベンチで二階堂さんがお茶を

飲んで帰るのがルーティンだったとか。



で、そこで俺がうっかりお茶をぶちまけて……。



あの時二階堂さんは「熱かったけど大丈夫」と笑って

立ち去ろうとしたけど俺は動転して必死で引き止めたのを思い出す。


火傷したに違いないと心臓が喉元で脈打つ中、タオルを握りしめ濡れた身体を拭おうとしたその瞬間、二階堂さんが面倒くさそうにシャツを脱ぎ捨てた。



現れたのは、目が眩むような鮮烈な色彩____



彼の全身を彩る無数のタトゥーだった。



赤、青、紫の花や鳥。



喉元の蜘蛛だけじゃなくたくさんの渦巻く模様が肌に

刻まれ、まるで生きているかのように躍動していた。


お茶をかけたこととは別の衝撃と動揺が胸の中で絡み合い、血が沸騰するような熱が全身を駆け巡った。



目が離せなかった。



彼の存在そのものが、俺の理性を飲み込む特別な光の

ようで俺の心は一瞬にして奪われた。


それを掴みたくて思わず手を伸ばした俺は指先が二階堂さんの脇腹に咲く一輪の花のタトゥーに触れた瞬間、熱い肌の感触と激しい衝動が交錯した。



『これが気に入ったの?』


『え?……あ!?いや!!ご、ご、ごめんなさい!!すみませんでした!!』



慌てて謝る俺の声はどこか震えていたけど、心の奥では別の声が響いた。



もっと彼を知りたい。



この鮮やかな謎に満ちた彼の、すべてを___



『いいよ』



我に返ると二階堂さんはわずかに目を細め、口元に微かな笑みを浮かべた。


その表情が、俺の胸をさらに掻き乱した。


お詫びの気持ちと、もっとこの人を知りたいという衝動は止まらず………。


ばあちゃんから近い服屋で働いてるって情報だけを頼りに、俺は大須の店を一軒一軒店を回ったのを思い出す。


そしてようやく『Para_Kid』で二階堂さんを見つけた時は、心臓が飛び出しそうだった。


お詫びの品を渡した後、ふと店内に貼ってあったバイト募集のチラシが目に入り、思わず「ここで働かせてください!」と勢いで頼み込んで……。


今思い出してもあの時の自分は有り得ないくらい積極的でめちゃくちゃ必死だった。


どうしても二階堂さんと繋がりが欲しかったんだ。



修司「今日そのセットアップ着やねー」


郁巳「はーい」



半年前を懐かしみながら俺は頷き、今日の修司さんの

コーディネートに目を移す。


店員なら『Para_Kid』のスタイルを体現するべきと修司さんが毎日3人の手がけたものをコーディネートしてくれるのだ。


二階堂さんが手掛けた黒のセットアップは反骨精神と

セクシーさが共存し、まるで彼の魂が宿っているかのよう。



郁巳「……こういうの着たことなかったからな」



ハンガーにかかった深みのあるチャコールグレーの

ジャケットは、ヴィンテージデニムを解体再構築したようなラフな質感でその肩には細かなスタッズが光を反射し鋭く輝いている。


フロントはアシンメトリーなジップデザインで片側がやや長めに垂れる遊び心のあるシルエット。


ジャケットと対になるテーパードパンツは裾に向かって細くなるラインが動きに合わせて軽やかに揺れ、サイドには二階堂さんらしいこだわりの黒のレザーパッチが不規則なステッチで縫い付けられている。


毎日修司さんが俺にあった服やアクセサリー、靴から

全部選んでくれてそれに見合うように意識してはいるけど……。


何せハイセンスだから着こなせてるかはちょっと不安。



郁巳「着替えました。今お茶入れますね……」


修司「お、ええ感じやん! そのセットアップ、ニカの

こだわりがバッチリ出てるわ。着こなしで客引き寄せなあかんぞ!」



修司さんがニヤッと笑いながら俺の肩を叩く。


確かに二階堂さんの服は着るだけで自分にはないオーラを身に纏ったように思える。


何か特別な存在になれる気がして、二階堂さんの世界観に身を委ねていると彼の不在が少しだけ埋まる気もした。


だけどどんなに格好いい服を着ても二階堂さんからの

連絡がない事実は変わらない。



郁巳「……どうして……」



いいよ、とだけ言って微笑んだ二階堂さんの顔が脳裏に浮かぶ。


胸の奥が、またチクリと痛んだ。






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