一
その村には習わしがあった。
村は背後を山に、前方を広い平野に囲まれていた。
平野には水田が連なり、コメなど穀物が作られていた。
村は豊穣していた。
しかし、悩みがあった。
実り豊かな村は、絶えず悪霊に襲われた。
村は祟られ、田畑は枯れていった。
山に住む火ノ神様が怒り、悪霊たちを遣わすのだとされていた。
開闢よりこの地に住まう神は、人が栄えるのを良しとしなかったーーーー皆そう恐れていた。
村は火ノ神様と、ある取り決めをした。
それは毎春、村の若く美しい娘を贄として差し出すことであった。
贄は、神炎に焚べられた。
苦しみ身を悶えさせながら、死ぬまで山を駆けずった。
その姿は恐ろしくも美しい。
まるで、火を纏って踊るように見えた。
故に贄は、『舞焔』と呼ばれていた。
以後、村には安寧が続いた。
今年も、春がやってきた。
火ノ髪様に贄を捧げる季節である。
この年の贄に選ばれた『娘』は、木箱の中に寝そべっていた。
木箱の中は真っ暗だった。
蓋がされ、何も見えない。
木箱はガタガタと揺れていた。
村の男が数人、木箱を担いで山を登っているからだった。
木箱は山中にある、磐座へと運ばれつつあった。
磐座とは一対の巨石である。
習わしではその間に、火ノ神様が現れるとされていた。
『娘』は緊張していた。
紅い細麻布の衣に包まれた身は、震えていた。
結い髪に巻かれた宝冠が、木箱に当たって乾いた音を立てた。
『娘』は珠飾りのある胸元で、強く拳を握った。
「俺が……絶対にやってやる」
『娘』は、男だった。
彼の名はカグナ。
村の少年だった。
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