3ロンソ
お、おいあれ
え?あいつがなんで?
えれぇべっぴんだ
ガヤガヤと町に住む住人達がこちらを見て、
噂話をしていた。
それもそう 隣には容姿端麗と噂されるエルフが居たのだ。
町では亜人族は滅多に見かけないモノだから、さらに噂さになったのだろうとも考えた。
....なんだかここは騒がしいな
どうしてジロジロと私を見てくるのだ?
なんだか視線が下向きのような...
相も変わらぬこのエルフの言っていることは分からないが、不思議と思うことがある。
なんで私に付いてきたんだ?
なんで鎧を捨ててあるんだ?
剣は...捨ててないが不思議だ
やっぱ亜人の考えてることはよくわからん
疑問が湧いてきたが、このまま鍛冶師の元へ向かうことにした。
がちゃりと扉を開くと、机に肘を付く所々に肌が赤いドワーフ女性がういーと適当に返事を返し扉先を見つめた。
またおま....え...え?
男とともに金髪碧眼、容姿端麗な上に豊満な胸...そしてエルフ女 こいつあいつ目当てか!!??
がっくしを顎を下げる。
おう、ちょっと紹介したいやつがいてな
.....お前私というものがありながら....
は?いやこいつ話通じねぇから家に帰れって言いたいだけだが?
.....お前最低だな 女の子一人に家に帰すんか?
いや俺が丁寧に接するのはこのロンソだけだ
なおさらじゃねぇかよ
なぁここはなんだ? よい剣ばかりじゃないか
と瞳に光を入れるように喋るエルフ。
ドワーフは悪態をつくように喋る。
なんだエルフにしちゃわかってんじゃねぇか
エルフは答える。
当たり前だ 騎士たるモノ剣の良し悪しは分かるというもの
その証拠にあなたの肌が赤く腫れているのは鍛冶の火傷腫れだろう?
へっと笑うように答えた。
ああ、そうだ 打ってる間に火花は散るわ
炭が砕けて飛び散るわで受ける腫れよ
うちんところでは蟻さされって呼んでるんだがな
これが中々消えん
ははっ蟻さされか 確かに中々消えんな
なぁお前達なにを言ってるんだ?
そう訝しげに話す男。
エルフは言う。
不思議なんだがなぜこの男とは会話が出来ないのだ? 不思議で仕方ない
あのなエルシュ王国が中心と考えてるのか?
違うのか? 我が国は大きく繁栄の都としていたが...
エルシュ王国は確かに大国だ
だけど使う言語っつうのは国や人種によって違うんだよ
なるほど そういうものなのか
てめぇらエルフは同族でも違う言語を扱うやつは居ないのか?
ふむ...ああ、蛮族なら居たな
蛮族ぅ?
ああ、蛮族は野蛮で言葉が通じず奇っ怪な音で我々を翻弄するやつらだ
カルエ地方に住む者たちでな
なにせ昔から住む先住民族なんだが、我々が全滅させてやった。
...はぁこれだからエルフは蛮族って言われるんだ
な、なにを!!!侮辱してるのか?
噂に聞いていたがその奇っ怪な音って口から出ていたか?
ああ、そうだな
全滅させた理由は?
む?ああそういえば王家が音が気に入らないと言って、王命拝したな
あのなその奇っ怪な音は言葉だよ
会話してんだよ てめぇらに
.....では私たちは善良な者を殺したのか?
よく聞くよ 国に出たエルフが自国の野蛮さで首を無くすって
そ、そうだったのか...ど、どうしたら
さぁ?どうしようもないんじゃね?
なんと無責任な!!
てめぇがやったことだろ なんで私がケツ持つようなことしねぇと行けん
てめぇの親じゃねぇだろ
そ、それもそうだな
まぁ私なら仕方ないから前向いて二度と同じことはせんって決めるけどな
そうか....優しいものだな
お、おい無視するな
なるほど これが言葉か
おうよ しっかり聞いてこい
...ちょっと待ってなんであなた私の言葉分かるのよ?
と困惑が含んだ言い方をした。
え?ああ、もとはてめぇらの国近くで生業してたから自然とな
ちなみにここらはリンドエルブ帝国が扱うエルブン語が主流となっている。
エルブン語...
起源としちゃエルフ達が扱うエルシュ語と同じ起源を持っているな
覚えやすいと思うが
そ、そうなのか 随分と歴史に詳しいのだな
鍛冶師だからな 古臭い剣も触ることも多かったから自然とな
そういうお前だってぶんか
なぁおい!! と2人の会話を止めた。
んだよ せっかくの会話を楽しんでたのに
お楽しみはいいが、どうにかこいつを自国に返しちゃくれんか?
この男はなんて言っているの?
あ、あー帰れってよ
な!!? そんな私には...
....まぁそうか
帰りたくないってよ
え? まじか どうすんのよ
んーまぁうちで泊めるわ
そっか んじゃこのあと暇だし稽古せんかって言ってくれ
お前まさか家に泊めるつもりないから、
私に押しかけたな?
そうだけど....
お前はいっぺんそのロングソードを作りかえんといけないらしいな
や、やめて
我が子を愛するかのように剣をかばった。
.....くそっまぁいいや おいエルフ
な、なんだ?
泊まりはうちで泊まればいい
あとこいつと稽古をしてほしいってどうする?
ほ、ほんとうか? ん?稽古....
おうよ 泊まればいいし、こいつはお前と稽古してぇってさ
泊まりのお駄賃だと思えばいい
そうかそれなら
ならうちの試し場に来い
そう2人にくいっと部屋の奥へと招いた。
そこは鍛冶場と庭が重なった試し切りの場のような場所だった。
ドワーフはエルフに言う。
ここであいつはここでいっつも練習してんだ
ここで稽古してくれ
ああ分かった
ん
手をかざす
な、なんだ?
ついでにその剣見てやる おいお前もだ
はーい
いやダメだ この剣は...王家から...授かったもので
ゴニョゴニョして訳わからん貸せ
と無理矢理奪い取った。
あ
あのな 王家だかなんだか知らんが知り合いから授かったもん大事にせんかったらいつかはその剣に裏切られるぞ
裏切られる....そ...うだな
........はぁまぁ稽古ついでに見るだけだ
心配ならすぐ返したる
わかった
稽古の際の武器は?
ほれ
そういうと木の棒を投げてきた。
うちで扱う長さ測る棒がだ
樹液で何回も重ねてるから相当に丈夫だ
安心しろ
確かに
120cmもあろう棒は握るとしっかり身が詰まっているのか固く、ずっしりと重さを感じた。
男のへと目を向けると 準備万端で彼には90cmの木の棒を携えていた。
私は威圧するかのように肩を広げ、右手に携えた棒を下に下げ、左手を握りしめたエルシュ王国流剣術その構えをした。
風が両者の間に透き通る。
息が、足が、ずさりとゆっくり足先をずらして進む。
そして男は構えをしながら走る。
ダッ///だっ カァアンと木がぶつかりうねる音が耳中に響く。
男は棒を左手側に抑えるように剣筋を持っていてが、エルフの棒がもう男の位置、その頭に届いていたのだ。
やはりな
リーチには有効距離がある。
例えばうちのロンソでは、90cmとの長さがあるが、実際は剣先が5cm、剣の腹が60cm
鍔が5cm←実は特別製で結構ぶ厚めに作っている。
柄は17cm、柄頭は3cmの内訳となっている。
これを戦闘中に自分の武器の有効距離を把握し、どこにどれを当てるかを把握する必要がある。
しかも重さ関係なく長くなるほど、剣筋がブレやすくなるため、それを抑える筋力が必要となる。加えて剣幅もある。
このエルフは120cmもあろう剣を容易く精度高く、振りかざすその様には相当な鍛錬が必要だとあの時に伺えた
しかも受けた瞬間、棒同士が衝撃を流すようにうねったのだ。
樹液で塗り重ねた棒は相当に固く、ハルバードを持てるほどの男でもちょっとやそっとの素振りでは曲がりもしない優れものだ。
それがうねった。
.....思わず思考すら閉口してしまった。
ふぅう 息をゆっくりと吐く。
棒を逸らすようにすると、エルフは離すように棒を引き体の内側に捻らせ、男にめがけ、胸元にその一突きを放つ。
その一突きは腕の長さを含めたその2m超えに+踏み込みが威力を増す。
景気とはいえ、殺す気か...!!??
だがその一突きの精度の高さを利用し、逸らす構えを崩さず持ち手を下ろすように棒を縦にし、腰を捻らせ胸元に左回転し、半身にする。
その勢いで何の苦労もなく、棒の位置がずれ
その一筋の線とぶつかる。
すると半身となり、勢いをずらしたのか狙っっていた胸元にかすり、その威力を受けずに済んだ。
...目線が手元に向けた。
力んだのかジンジンと何かが膨れ上がる感覚があった。
あの一突き一切ブレなかったんだけど...
すぅうううと躱した隙を乗じて、そのリーチの内側へと入りこんだ。
元々リーチが長い武器というのは、
リーチが長ければ長いほどに、最も威力が高いのは遠心力が入った剣先、次に腹である。だが手元に抑えれば威力を半減させることもでき、+長さ故にその対処を難しくさせる。
そのため、戦闘では近づけさせない、自身の優位を押し付けるというのはどの武器種関係なくセオリーとなっている。
それを読まれたかのように平然と拳が下からやってきた。
私は幅の小さい棒では抑えられないと感じ、
前腕でその拳をッ////
ぐおんっと前腕を押し込まれ、胸まで押されて体全体が一瞬浮かび上がった。
全身に溜め込んでいたであろう酸素が血液と共に血管をぶち抜き、細胞の隙間から皮膚まで抜き出た感覚の衝撃がやってきた。
ゔはあ 思わず声が出た。
ドワーフはその威力の様を見て、ドン引きしていた。
私は思わず2mもあろう戦闘距離から一瞬で離れ、防御に徹したはずの前腕を見つめた。
すると殴られたであろうと場所に紫色の拳痕があり、そこから青い痣がみるみると広がっていた。
....バケモノかよ
エルフは何かを察し、ふとドワーフを見つめるて何かあったのかと質問した。
ドワーフは男にさきのを返すように聞く。
どうする?続ける?
うーんこれ1対1なら死んでいたなと感じた。
あの時は、不測の事態を利用し威力が低い戦闘距離まで近づき、集中を削がしていたからこそのああいった戦闘が出来たのだろうと考えた。
ドワーフは思う。
あいつ絶対煽って喧嘩ふっかけてただろチンピラかよ
戦闘狂だからな....
よし一旦休憩だ
お前も休め あとあーエルフお前さん名前は?
.....分かった 私の名前はリリアンだ
と構えた棒を下ろす。
あいわかったリリアン あーこいつはクラウスだ あと私はボルチだ よろしく
よし短い稽古だけど休憩休憩ー
リリアンはクラウスを見つめ、
クラウス...よろしく頼むと伝えた。
だがクラウスはその顔を暗くしていた。
部屋へと入ると、
古びたパンに牛乳が詰められたであろう瓶が机の上に置かれており、ボルチは無造作にマナーもなく椅子を座り食っては飲むを繰り返していた。
リリアンはその様に品がないと顔をしかめるもクラウスが来ないことに気づいた。
クラウスは?
そりゃリリアン、あいつにぶち込んだ一発に膨らんだ腕を川に冷やしいったんだよ
そ、そうか....あれでも抑えたつもりだったんだがな
....抑えたねぇ あいつの体重あれでも90kgとかなりガタイがいいはずなんだがね
そうかあの時は稽古のときは皆鎧を着込んでいたから気付けなかったんだ
あとでクラウスに謝りに行こう。
....あんたらエルフは稽古に鎧を着込むのか?
いや私の時だけだな
.....それあんたにビビって鎧着込んでたんじゃ
ん?何か言ったか?
いや 何も てかそういえばエルシュ王国の騎士団は世界最強とも謳われてるとは風の噂で聞いたな
む?そうなのか? 私は兵士からまだ騎士位を貰ったばかりで世情疎くてな
だが強いぞ 私が居た軍は
何せ ドラゴン群体に一人も死なず討伐出来たからな 都では竜殺しと言われてな
ドラゴンってあんた 騎士団一つで足りないと言われてるあのドラゴンか
どうやって倒した?
ん?弓でな
目をパチクリとした。
ドラゴンとは鱗が相当に固く、矢なんて到底貫けもしなかったんじゃ
ああ、だから竜殺し弓と言われる鉄の大弓率いて、毒を塗り撃ち放った
エルフは誇りが高いと聞くが毒は卑怯ではないのか?
何を言っている 毒も我々が開発した立派な歴史ある武器の一つだ
そういえばエルフが世界初トリカブト毒を開発したんだっけ....外交崩しのエルフとはこれのことか
外交崩しとはなんだ?
いやエルフは誇り高いと言われてても、外交でも相手をまず侮辱し、二枚舌三枚舌で外交をする。そして暗殺して代理人を出し侵入していくって恐れられているんだ。
....私の国ってそんなに酷かったのか...
ああ、王立劇場でよく聞くお題だぞ
....誇り高いというのは
プライドが高いんだろうな
毒が卑怯ってのは...
毒は戦わずに殺すから武人として卑怯一つだって言われてる
.....リリアンはがっくしとし、膝を崩した。
だが、ドラゴンを弓で倒すのは大したもんだ
そんな大弓取り居るのなら風の噂でも聞くものだがな
ああ竜殺しを引けたのは私だけだからな
.....は?
いや何 その弓を持ってドラゴンを撃ち抜くことが出来てな
ただ弓では簡単に逃げられるから毒を塗りたくり、矢を放った。
それだけ...なのだがそうか卑怯者なのか私は
待って竜殺しが引けたのはエルフあんただけ?
そうだと言っている
深く沈黙が続く。
まぁいいか だがあんたは卑怯ものだと思われてもその力は大したものだと思うぞ?
だがしかし
国によっては考えが違う
それが当たり前ってもんだ あんたにはその力がある それをどう扱うかどう行うか
あーなんだっけ...
ノブレスオブリージュか
そうそれそれ だから気にしなくてもいいんじゃないか?
新しいあんたを探せばいいんだよ
新しいあんたか..... わかったありがとう
少し考えてみることにするよ
ん...
がちゃりと扉が開くそこには腕中水だらけで布で拭くクラウスがやってきた。
冷やしてきたか
ああ冷やしてきた ついでに頭も
おういつでも死んでいいぞ 戦闘狂
ほざけ 俺はただ戦いたいだけだ
リリアンはクラウスの腕を見ると、青く広がる痣がはっきりと見えた。
ただでさえ肌が白いリリアンの顔が青白くなった。
す、すまない 私の一撃そんなに重たかったか?
言葉が通じないクラウスに対して投げかけた。
クラウスはさすがの顔つきでリリアンの言いたいことが分かり、言葉を返した。
いい、籠手を着込む もっかい稽古だ
そう言うクラウスの言葉を翻訳したボルチが腕を組みながら再戦だって〜と通訳した。
リリアンは心配そうな顔でだ、大丈夫なのかと聞こうとしたが、クラウスはリリアンの肩を掴みぐっとサムズアップした。
もう一度を繰り返す。
だがそのもう一度に違いがあるなら、クラウスの籠手には木製の籠手があった。
それはまるで骨が崩れたかのを抑えるかのように支える添え木のように見えた。
リリアンは今までの稽古相手に鎧を着込んでいたのはこういう理由だったのかと目を曇らせる。
だがクラウスの目は以前変わらずに綺麗な眼差しでこちらに棒を構えた。
私はそれに答えるかのように棒を構える。
そしてもう一度クラウスが走りだし、
リリアンはもう一度その棒を振りかざす。
だが、クラウスは剣閃が来る瞬間に深く踏み込み動作をし、その勢いで上半身を下げ、その剣閃を棒を上に押し上げた。
!!??っ リリアンは驚く。
振りかざした棒は上に押し上げられため、その隙を作ってしまった。
稽古とはいえ、互いの力量は二度目の戦いで把握していた。
それが如実に見えたかのようにクラウスはその隙を縫うかのようにリリアンの格闘距離まで近づいた。
応戦する左手が飛び込んでくる。
クラウスはそれに把握し、あえて棒の腹中心に左手を切りつけようとした。
稽古というものには棒は棒だとして、戦うもの。
棒を剣として戦うものの2種類がある。
前者は戦場を知らぬ者か或いはありとあらゆるモノを使い熟すための稽古かで変わり、
後者は実践とその構えを整えるために棒を剣であると幻を見て戦う者だ。
恐らく彼女の目は後者である。
一つ、私の姿を知っている。
一つ、私の構えが脅威と見ている。
このため、棒を切りつけば彼女の思考は自然と左手を使えなく....なっ!!!???
飛んできた左手は自然とクラウスが握っていた柄であろう場所を握りしめた。
微動だにもしない腕。
リリアンは打ち上げられた棒をそのまま下へ叩きつけた。
リリアンは思う。
この男は末恐ろしいものだ。
2回の戦闘を経て、私の戦いをわかってしまっている。
前回の襲撃の際、私は拳と大剣という中至近
距離の使い手であるということ。
1回目の稽古でリーチの把握をし、それを受け流した。
傑物と言わざるおえん、その様に私は憧れを持ってしまう。
だからこその剣筋を見せないその剣が末恐ろしい。
そう考えたリリアンはその矛を振り下ろした。
だが、クラウスは左足を一歩踏み出し、リリアンの振り下ろす肘を抑えた。
ぐっと力を入れても振り下ろすことは出来ない。
だがリリアンもそれに返すかのように握っていた棒を一瞬離し、クラウスの右手をがしりと掴んでいた。
拮抗状態。
微動だにもしない絡み合い。
リリアンは降参か?と言うが、
言葉が通じない状況でもクラウスの口は一切の動きを見せなかった。
........
クラウスは右手を力み、少し後ろに下げた。
それにつられて、リリアンの左手は追従する。
その瞬間に一瞬で力を抜き、その勢いに反発するかのように次は右手を押し出した。
なっそんなかなり力を入れていたのに...
するとリリアンの左肩は押し出され、一瞬左手に力が入らなくなってしまい、掴んでいた右手はもう一度後ろに下げ、離されてしまった。
クラウスは離した隙にもう一度緩んだ持ち手をもう一度握りしめ、その胸元めがけ一閃を放とうとした。
うわっこんなとこでやってんのかよ
すると声が聞こえたクラウスはその棒を降るのをやめ、声の主の方向に目を向ける。
クラウスの目は少し細める。
ボルチはお前かよ 暇なんか?
暇じゃねぇよと言う金髪の男。
なに弱気のクラウスにエルフの美人さんと一緒に居るって聞いたもんでな
気になって来たもんよ
なんだお前女相手にそんな密着状態で抑え込まれてるじゃねぇか
やっぱ弱気のクラウスは伊達じゃねぇな
クラウスは無言のまま突っ立つ。
リリアンはボルチに聞く。
彼は?
あいつは
始めまして麗しき御婦人 私はトリリチと申します。
私の言葉が分かるのか
ええ、エルフは噂にしか聞き及んでいませんでしたが、言葉は習いました。
多少なりとも会話を弾ませることが出来ますよ 御婦人
御婦人と呼ぶな 私にはリリアンという名前がある
それは失礼 リリアン殿 さてリリアン殿は如何様にしてかの弱気のクラウスとの稽古に勤しんでいるのですか?
おい とボルチはトリリチに突っかかるが、
リリアンは静止さして、
彼に誘われたからだ だがその前に聞きたい
弱気のクラウスとはなんだ
ここが初めてであるのならば仕方ありません
弱気のクラウスとは
彼は稽古場でも戦場でも一切の武人の誇りを持たず、ただ相手をじっと見つめ誘いを受けないことに名があるのです。
そうかでは彼は強いぞ? 一度も戦ったことがないのだろう?
はてご冗談がうまい 私は彼とも何度も組まされましたが、その実稽古では連戦連勝です。
そうなのか?
ボルチはお手上げかのように手をあげ、否定はしないと答えた。
しかも稽古場で何度も我々の剣筋を見ているのにちっとも上達しないので剣も気迫も弱い弱気のクラウスと呼ばれいるのです。
なのでリリアン様 あなたに相応しいのは彼ではなく私であるべきかとお願い申しあげます
リリアンは無言となり、少し考えにふける。
先の稽古ではたった短い時だったが決着は着いていた。それを有耶無耶にし、そしてクラウスに無知蒙昧な二つ名を知らしめたこの男の実力を知りたくなった。
一つ知りたい
なんでしょうか?
剣がなっていないとおっしゃったが、
どうしてトリリチ殿はそう考えたのだ。
どうにもとおっしゃいましても、
我が国の伝統であるマリウス流直剣術は100年の歴史あるモノ。
それは帝国の権威そのものとも言えましょう。
権威か....
ええかの大国エルシュ王国にはエルシュ王国流剣術がありましょう 聞けば建国の際からあると言われる誉ある剣術だとか
その栄誉ある剣術を扱える扱えないは武人にとって喫緊の課題であることは火を見るより明らかです。
確かにエルシュ王国流剣術には誇りがあるが扱えない戦場もあるはずだ
そうおのが持ち得る剣術をそう神格化するべきではないのでは?
リリアンは自国では剣術には得意不得意がある それを把握してこそ戦人だと国直々から教わった教訓を胸に秘めていた。
依然クラウスは無言を貫く。
トリリチは答える。訝しげな顔で
なに?あなた様はご自身の剣に自信がないのですか?
...はい?
いえ、失敬を ですがその言いぶりですと、
まるでご自身の剣は誇りがなく上手に扱えないとおっしゃているように感じます。
むかりと血管が浮き出た。
数々の戦に出たが、これほど煽りに聞いた言葉は戦場では聞いたことはなかった。
わかった トリリチ殿 では一戦交えて見ませんか?
よろしいのですか?
はい ぜひとも トリリチ殿の剣をぜひ拝んでみたいと思いました
そう笑顔で答える。
トリリチは受けたわりましたと答えるとクラウスに棒を譲るようにせがむ。
それを見たクラウスは何か小細工も一言もなく棒をトリリチに投げ込んだ。
ふっとトリリチはクラウスに冷笑をかけ、そのままリリアンに目と体を向ける。
剣を構える。
それはクラウスと同じ構え。
リリアンがよく見た剣術でもある。
それは両手で柄を握り、それを首元近くまで持っていく。そして棒とは反対側の左足を前に、右足を後ろにする。
リリアンはエルシュ王国流剣術を構える。
トリリチはエルシュ王国流ですねと答える。
まるで知っていたかのように話す。
リリアンはクラウスとは違い、そのまま足先を進む。そして有効距離に着いた瞬間に横ぶりの一閃を放った。
トリリチは前に出した左足先を軸に体を回し、首元に構えた棒を後ろに下げ、円を描くように前に出す。
前に出すと同時に後ろに下げた右足を前に踏み出す。
剣閃を棒と十字となり、抑えこんだ。
リーチとは無縁の剣戟。
トリリチは長い棒に沿って、棒を抑え込みながらも滑らせリリアンとの戦闘を近距離に持ち込んだ。
リリアンは振りかざした棒を下げ、上からの振り下ろし、上斜め、左からの踏み込み一閃をはかった。
トリリチは両手で棒を上にあげ、一撃目、斜めにし持ち手を切られないように棒先をリリアン側に向け二撃目、両手の持ち手をすかさず上下逆に持ち替え、棒を下げその三撃目の一閃を防ぐ。
リリアン殿 さすがの剣をお持ちですね
これで自信がないとはいやはや武人の心が折れそうです
ご謙遜を
確かにこのトリリチの腕は手慣れた手つきで私の剣戟を防いだ。
確かに腕に自信があるのだろう。
だが、エルシュ王国流剣術 その真髄とくと見よ
リリアンは左手を握りしめ、その一撃を肩から直線に放つ。
トリリチは半身をよじらせ、その拳を避ける。
おっとさすがは...!!
トリリチは見つめた先にリリアンは屈んでおり、身をよじった横腹めがけて足底からの蹴り上げを放った。
かハッと口を開けるトリリチ。
くそっと吐く動作とともに腹を抑え、その一線から離れた。
エルシュ王国流剣術は二刀流じゃないのですか?と下唇を噛み締めながら言う。
何を言っている? エルシュ王国流剣術はその身と剣を持って二刀流だ
くそ それに誇りあるのではないのですか?
蹴りなど武人の...
何を言っている? 私の剣術は1000年も歴史ある操術 しかしとて矜持なぞ戦場ではそのような世迷言を吐かせてもらえるほど優しくないぞ?
トリリチの何かの琴線に触れたようだ。
ええ、結構です さすがはエルフ 野蛮人と言われるほどです
グラジュエル
ボルチはリリアンに翻訳する
あいつてめぇを侮辱したぞ
言葉が話せない宝石だとな
宝石?なぜ?
見目麗しいエルフ様は宝石によく例えられ、誇りあるがゆえに通訳も用意しないことからだな
ほほう
ボルチ やめろ せっかくのご歓談が
ご歓談じゃなくて体目当てだろゲス野郎
くっくそ そういうトリリチはそのまま吶喊する。
リリアンはそれに応対するかのように、
その横ぶりの一閃を放つ。
トリリチは足を一歩後ろ飛び出し下がり、回避し、そして足で飛び出しの衝撃を抑え、そのまま踏み込む。
進むと両手に携えた棒を正面に構える。
リリアンは斜め上に振り下ろし、
トリリチは棒を受けるように剣を上にあげる。防ぐと横一閃に放つ。
リリアンは後ろにステップし、返しは剣閃ではなく、正拳突きを放つ。
くっトリリチは勢いよく踏み出したため、その衝撃に逃げられず、両手を十字にしその一撃をふせ...げずにふっ飛ばされた。
ぐはっ
リリアンは言う。
女性を口説く際の言葉にはいささか下心が見えるようですね むさ苦しい稽古場に長居しすぎたせいだとわたくしは思います
少しは御婦人を口説く練習はすればよいのでは?
と丁寧な口調で握り拳を持ち上げた。
くっと立ち上がり、もう一度マリウス流直剣術を構える。
お手本のように首元まで棒を構える。
マリウス流直剣術は、
上段、中段、下段に3つの技とその派生がある。
まずはトリリチは下段を放つ。
下段には踏み込みによる距離を詰める切り上げである。
これには相手の体勢を崩す力が最も高く、よく盾を構えた相手に使われる手法である。
しかしその本領は切り上げによる相手から視線を途切らせることである。
体を前に出させることによって、相手の視覚の大半が弱点部分の上半身に目が向く。
そして剣を縦にしその一閃を薄く見せることで剣戟がどこから来るのか分からなくするこれが下段の技の強みである。
リリアンは幾度もその剣を受けたことがあるため、下から来る強撃を棒を下にし防いだ。
防がれた棒を下げ、すぐさまもう一度構え直し上段を放つ。
上段は両手を上にあげる切り落とし。
これは最も威力が高く相手に威圧感を与え体力を大きく削ることに長けている。
これを何度もかけることで疲労による体勢崩しによく使われている。
だがリリアンは防いだすぐさまに手のひらを上にし滑らすように上に構え防ぐ。
ふバカめ と答えるかのように何度も上段をかける。
カンカンカンと片手で上段の切り落としを防ぐ。
トリリチは防いだ片手では体力が落ちただろと考え、構え直し中段を放つ。
中段とは最も貫通力が高い両手による突きである。
古今東西直剣の最も硬い部分はどこかと問われれば、その剣先である。
剣先は最も力と遠心力がかかりやすく、その威力が最も顕著にでやすい。
このマリウス流直剣術は剣先ある直剣を軸に編み出された操術であり、中段の突きこれ最強であると誇り高く扱われる技。
その突きは鎧をぶち抜く一点。
これをめいいっぱいの力と踏み込みで繰り出す。
その横から見た一線にリリアンはただ剣技もなく振り下ろした。
がぁあんと聞いたこともない音を発した。
棒はそのまま真下に降ろされ、地面を突き刺した。
リリアンの棒は下ろしすぐさまにトリリチの腹に切りかかった。
がはっと倒れ込み、リリアンは弱いと言い放つ。
な、なぜ なんでマリウス流直剣術が通じないんだ
....ため息をし、リリアンは答える。
私はマリウス流直剣術を扱う剣士とよく戦ったからだ だからその剣筋を把握している
あやつら自分達が扱う剣術に誇りがあるのか同じ技しか使わないのだ
全く武人であるのなら戦に勝つのが当たり前であろうに
ば、バカな 世界に通用する技だぞ!!??
世界に通用するのであればなぜ私は生きている
くっ
君の筋はいいが、あまりにも基本に忠実すぎる それでは戦場では生きて帰れないぞ?
くそ世迷言を
ほら十分だろ帰った帰ったとボルチ。
覚えておけと逃げるように腹を抑え、その場から離れていった。
クラウスは無言で睨みつけるようにトリリチに目を向けていた。
はぁ...エルブン族はああいう手合いが多いのか? クラウス然り
クラウスはバカだか、トリリチはもっとバカだ エルブン族って...まぁいい
美人であるリリアンにはああいう手合いが多いと思うから気をつけな
そうか了解した
だがクラウス殿はなぜトリリチ殿と嫌がったのだ? ああいう手合いは力を見せつければ済む話だと思うが
ああ、クラウスが居た稽古場は型がしっかり出来てるやつほど偉いんだよ
む? 確かに基本は大事だが基本は基本だぞ
ああ、まぁその基礎が大事なんだろあいつらにとっては
そ、そうなのか エルシュ王国とは大きく違うのだな
そっちではどういう訓練を?
元々エルシュ王国流剣術は軍の基礎流派の一つだ。
だが戦場によって扱う武器種が違ったりすることが多いから型を作るのではなく、その構えに重視していることが多い。
ああ、さっきの肩を広げる構えか
そうだ だからかその構えは戦場に出ないと作れないとして、訓練では構えだけをし自身が扱う武器種同士での稽古、戦場で構えとその技を整えるという実戦形式にしている。
戦争ばっかしている大国ならではの訓練...と呼べるのか?
ああ、だから新兵の死亡リスクが高いのがな
盾を構えたりは
初陣では盾を構えずに戦場に出すのが習わしでな それを経て、戦慣れをさせる
盾は2回目からだ
そりゃ新兵死ぬだろ
仕方ないエルシュ王国流剣術の構えは相手を威圧させる構えなのだ。
恐れず威嚇するには戦慣れとその矜持がなければ実現出来るものではない
.....笑えないな
笑えないがなしてクラウス殿はなぜトリリチに顔をしかめていたのか教えていただきたい
....あいつトリリチに風俗行く際、あの手この手で妨害されて行けずじまいになってんだよ
それで嫌な顔をしてる
そうはぁと嫌そうな顔をするボルチ。
.....リリアンは無言を通し、クラウスを見つめる。
な、なんだ?
君も難儀するのであれば殴ればよかろうに
弱気のクラウスとは名ばかりではなかったか
と辟易とため息を吐くのであった。