1ロンソ
はぁ....はぁ....大地を踏み込み、野を越え、山を越える。
ゆっくりと息を吸い、はぁと煙を吐き出す。
私はロングソードが好きだ。
私はロングソードが大好きなんだ。
どうしようもないほどにロングソードに恋焦がれている。
扱いやすく、ほどよく重く、そしてリーチもある!! こんなもの愛すなと言うほうが難しい
私はこれに何度助けられたことか
愛剣いや相棒...違うな生涯を共にす血肉と呼ぶのが相応しいだろう!
これまで多種多様な武器や弓、そして投擲術を扱ってきたが結局これに落ち着いたのだ。
様々な環境対応力があるこの剣は王都でも納得の名声ぶりよ!!
しかししかしだな如何せん
男はやれ威力が足りない、やらリーチに不安があるなど不満も多いと聞く。
悲しいことだ ちゃんと恋をし愛せばこの剣はちゃんと答えてくれるというのにだ。
悲しい 悲しい限りだ...
そうしんみりと感じているとしんしんと闇が広がる。
虫の金切り声が耳につんざく。
孤独がより一層心に響く。
がしゃりと使い古された革と金属が重なり響く音とは違う音が聞こえる。
それは人が近づく足音である。
.....「待ち伏せか」
手のひらを剣の柄頭に重ねる。
ぐっと押し込み鞘に入った剣先を後ろへと向かせ、少し肩を落とした。
静音が響く。
ズザァアア草むらから走る音とともにこちらにやってくるのがよくわかった。
月明かりに三日月の波紋が入る。
恐らくあの三日月の波紋は手斧だろう。
ずおんと森影から現れたのは押し出すように長さ50cmの柄、そこから棒先と分離するかのように小型の三日月斧が付けられていた。
影から大柄の男がこちらに棒先を当てようと突っ込んできた。
逆手で剣柄を抜き、棒先と斧の間に差し込んだ。右足を前に踏み込み、衝撃に備える。
!!??大柄な男は驚く。
男への衝撃から来る一切の地すべりが起こらなかったからだ。
その瞬間に森の奥から青い光の筋が見える。
魔法だ。虫の声と重なるように│異音《詠唱》が響き、空中に浮かぶ魔法陣から球状の火が形成されこちらに向かってくる。
見えた瞬間に、私は火の玉を中心に右側へと行き、大柄の男を盾に右側半身を後ろへと下げた。
大柄の男は依然力を入れていたため、剣柄を鞘に戻した瞬間に前へと押し出されるように体勢を崩す。
同時に火の玉は空を切るように戦場の先へと行き、樹齢50年の木にぶつかり燃え盛る。
火が周囲を照らす瞬間を狙うかのように左手で剣を抜く。
90cmもあろう剣を右手で鞘を下へと同時に抜く。
すんと剣先を上げる結果は体勢を崩した大柄の男の喉元に辿り着く。
大柄の男はそれに気付き、カァアンとその長い柄を利用し剣筋をすんでで抑えた。
....すんでの剣戟を抑えた男は倒れ込むように大地に着く。そして標的であろう男から離れるように転がる。
そして腰を深く下げ、3点支持の体勢を取り、私に警戒体勢を取る。
依然体を地に放さず、目はしっかりと殺意を向けていた。
横目からまた青い光の筋が伸びる。
さきほどの位置から移動してないようだ。
左手で剣に塞がれているため、右手のベルトに差してあったナイフを右手の人差し指と親指で掴み、魔術師が居るであろう方向に体を向け投げ込んだ。
ぶしゅっと共に痛がる声が聞こえる。
大柄の男はその隙を見逃さず、こちらに突っ込んできた。
先の突っ込みは棒先で相手を絡め取る作戦だったのだろうが、二度目はその長い柄を端ギリギリまで掴み、横の薙ぎ払いで私の胴体を横切らせるつもりの動きだ。
私は一歩また一歩と後ろのほうへと下がる。
大柄の男は体力自慢を誇るかのように、
一撃、二撃、三撃と三日月斧を振りかざす。
しかし大柄の男の四撃目は縦から振り下ろす攻撃で距離を詰めるという考えを読まれる。
私は左半身をずらすと、相手の焦点を縦に中心させていたため男の振りかざす斧の先が深々と木に切り刺さった。
抜くのは一瞬、大柄の男は慣れた手つきで斧を抜いたが左手に持っていた剣を両手で掴み、心の臓へと突き立てた。
うっとみっともない声が耳元で聞こえ、剣を抜こうとするが如何せん大柄の男は力んでいたのか肉に挟まれ抜けきれずに居た。
私は仕方なく、剣柄を離しすぐさま森の影へと潜んだ。
―
――
―――
はぁはぁはぁ...なんでだ!なんで
俺は森のなかで走って逃げてんだ!!?
依頼? 俺達が....
ああこれは最重要依頼だ。
ふーんあんた方お偉いさんが魔術師の傭兵にも依頼するとはよっぽどだな
ガハハ吠えてろヒヨッコが
甘えんなただデカいだけの犬っころ
親切心でその青いケツに俺の火の玉で燃やしたろうか?
喧騒が始まろうとしたそのとき、
よせ ここで人材を失いたくない
!!??
両者ともにその言い方に異常さを感じた。
それはこの依頼者には金と権力、そして無数の人材を持っているであろうこの曰く付きの権力者からその口から出たからだ。
あんたそれを言うとはよっぽどの依頼なんだな
........
沈黙か まぁいい こいつと組むのは初めてだが、....暗殺か いいだろう俺達の専門分野だ
がはっ俺は殺せるんなら誰だっていい
いいねぇよっぽどそいつ強いんだろうな
そう目を輝かせる大柄の男。
気をつけろ やつは強い
くそ...くそ...くっそ....クソクソクソクソクソ
肩を抑えながら森を駆け抜ける。
なんでだ あんなのおかしいだろ
なんで初撃のあいつを抑えることが出来た
なんで俺の攻撃を....
ぐっと首に大きな大木がぶつかったような衝撃が走る。
ガハッなんだ なんだ 捕まったのか!!??
くそあいつを見捨てても生き残るつもりだったんだ
あの一撃で 肩に刺さったナイフで相手の力量を完全に把握した。
俺を捕まえたこの男は
やつは 魔術師殺しだ!!
....首元に月光に冷たく照らされるいぶし銀が喉元まで伸びている。
震える声で疑問を問いかけた。
な、なぁなんで俺達の奇襲が分かったんだ。
..... 沈黙が返ってきた。
なぁ答えてくれ 俺たちゃ死んでもクソみてぇな土産話が出来ねぇよ
.......わかった
おお、ほんとか
まず足音で暗殺だとわかった。
ああ そうだな そう言いつつ、指を小刻みに震える。
2つ目あいつは俺を抑えようとした。だから抑えた。
.....答えになっていない....
そうか?
まぁお前の敗因だけは分かる
な、なに?
お前は魔法の詠唱速度に自信があるようだが、あの位置から一度も移動しなかったことが敗因だ。
はぁ?魔法を詠唱するのには時間と状況計算が必要なんだ それが分かっていってんのか?
ああ、知っている だからお前が俺の腕に魔法陣を描きふっ飛ばそうとするのもな
クソっバレたかだが魔法陣はか.....
首元にあったいぶし銀は半分以上が影に埋もれ、赤く艷やかな液体がゆっくりとポタポタ漏れ出していた。
喋っている暇があるなら発動しろ
そう吐き捨てるように言う。
弓兵でも一度撃った場所から離れるのが定石。相手に位置を把握されるからだ。
それを魔法の手軽さにかまけている魔術師がごまんといる。
何が魔術師殺しか....
私はその瞳にある男を思い出す。
....これで67人目か
いつになったらやめてくれるのだろうか
そう夜に呟くとひっそりと闇のなかに紛れていった。
―――
――
―
がちゃりと扉が開く。
おーうと入ってきた客に適当に応対する木製の椅子に座る小柄な女性が居た。
彼女はひどく小さく、肌は所々が赤く腫れ顔は丸かった。彼女はドワーフと呼ばれる種族だった。
しかし目はしっかりと芯がある眼差しで彼女の居るカウンターまで向かう男が見つめた。
口に咥えていた木の枝をがちりと砕き、
お前かよ とこれまた適当な言い草を言いはなした。
何をそんな嫌そうに言う 私が嫌いなのか?
ああ、そうだおめぇがきれぇだ
わざわざうちの剣毎回毎回ボロボロにして手入れするこっちの身にもなれ
仕方ない 襲われるものなのだから
はぁ....それ見せろ
そうクイクイと手のひらを仰ぐ。
私は剣と鞘をベルトから外し、見てもらうこととなった。
抜き身の剣を様々な角度、光に照らしその具合を計った。
.....大丈夫だこれぐらいなら
........ 私は睨んだ。
ああ、ほんとに大丈夫だって
すごく私は睨んだ。
大丈夫だってつってるだろうが!!
バンと机を叩く。
私は逆ギレをした。
はぁ!!??お前がしっかりやってるように見えねぇからだよ 俺の血肉にヘマをかいてみろ
その素っ首引っ掻き回すからな
ドワーフは逆ギレになった男を見て、少し冷静になった。
お前これ唯一作れる私に素っ首っつってんの?
ああ、そうだ 俺の血肉だ 生涯一緒を通すと約束したんだ
お前この剣にか... 私この剣以下かよ....
そうガックシと肩を落とす。
はぁと深くため息をし、状況を説明した。
お前今回、そんな手荒く使ってないだろ?
なんで分かるんだ?
分かるわ 私が鍛冶師だっつってんの
まぁいい 今回鍔あたりが相当に力が入ってんな
なんで持ち手側なんだ?...
ほれこのように持ってみい
鍔あたりを手のひらに乗せる仕草に真似をする。
なんかわかるか?
いいやわからん
はぁそんなにそれを愛してるんならそれぐらい把握しい
むかりと血管が浮き出た。
....集中をすると少しほんの少しだけ鍔の所だけが重心がずれていた。
なんとなくだが右側に重心がずれている?
おお、わかるのかこりゃ誰でもわかるけどな
ああ??怒 重心は普通に分かるだろ
まぁさすがに剣が長いと重心を掴みにくいけどな
おうともさ 剣は種類にもよるけど、基本うちらが鋳造する剣は柄頭から剣先まで一本の重心で出来上がってるわけ。
だけどこう手のひらの上で乗せるとほんの少し傾く。
あたりめぇだが剣は一本一本鍛造も鋳造も含めすべて重心の位置が異なってるんだ。
中心に出来ている、やれ左にずれているとかな
それで野郎どもは良し悪しを決めるんだよ
まぁ握りやすく扱いやすいのがいいからな
それ大元がこの重心だ
だがこの剣は一本の重心が鍔のあたりから歪んでいるだ。
目で確認してもいいが、それだとちと説明しにくい けどまぁ感覚は大事だ
お前が握ってたわかるだろ?
ああ、なんか違和感を感じる どこか鍔あたりが重いような だから見てもらうことにしたんだ。
だろうな 見て正解だ 鍔あたりに思いっきり衝撃が伝わって、重さがずれてんのさ
鍔に鋼が集まってるっでいいかね
お前一体どんな戦闘したんだ?
まぁみりゃわかるけどさ
どうせあれだろ? 大柄な男がハンマーかなんかで突っ込んできて鍔で抑えんたんだろ?
おお正解 正確には三日月斧だがな
....また狙われてんのか 暇だねぇあいつも
まぁ仕方ないよ それでこれ直せそうか?
簡単に言ってくれるね...まぁ私が作ったんだ
見てやれるがあんま期待はすんな
へぇ自信なさげなんだ
てめぇこそ自信なさげにしろ
自分の血肉なんだろ?ぶっ壊れたらどうするんだ
自害するキリッ
即答かよクソ野郎 私を置いていくんかい
何か言ったか?
いいやなんもね
すると後ろの机に無作法に置いてあったハンマーを持ち鍔あたりを傍から見たら適当にカンカンカンと数回叩いた。
そして剣をじっくりと持ち上げ、首元にそえるように目元を近づかせ、その鍔から剣筋を見つめた。
うん終わり これでどう?
は?終わり? これで???
おう はよ握れ
そう差し出された剣を持つと
!!??? えなんで じんわりと心が広がる。
剣先までの重心がしっくりと来るように肌で感じた。まるで一本の線かのように重みがしっくりと来ていた。
まぁ今回はずれていただけだから叩いて伸ばしたのさ
言っとくけどそれうちの特別製だからな
鍛造だから一から打ってるんだからちゃんと大事にしろよ?
嬉しさからか
おん おおん 瞳から涙が溢れんばかりになっていた。
きったねぇ顔して泣くな ほら行け行け
おん、おおん と泣きながら外へと出ていった。
......しっかしあいつあんなに私の剣のことは好きなのにちっともこっちに見向きしねぇ
腹立つばかりだぜ....まったく
やれやれとため息を吐くドワーフ女性。
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くそ、なんで私はこいつらに狙われた!!?
やはり私が女性だからか....
│権威ある力は依然変わりなくなのか....
そういう言う彼女は見目麗しく、凛々しく立派 光で透き通る金髪に豪奢な白と金で重ねた鎧を着込み、敵に囲まれている。
敵は5-6人と正確に測れず、素早い動きで私を翻弄していた。
フードを深々とかぶっている者共は男女というくくりがなく、ただ敵であると証明していた。
護衛はやられ、馬車は倒れ込み、馬は殺されていた。
この状況は危機的状況と言わざるおえなかった。
....さぁどうする 力づくでロイヤルブルーを勝ち取った私なら出来るはずだ
ここが正念場だ!!
とそう金と銀で飾られた120cmの大剣を握り、対峙しようとする。
すると森の奥から男がやってくる。
ぶらぶらと呑気な顔で言う。
なにこれ....