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6.お忍びの夜会


 アレンも同じことを考えていたのか、声を潜めながら面倒くさそうに彼の名前を呼ぶ。




 

 「クリストフ殿下……」





 クリストフ・ハワード。

 王国の第二王子。アレンとは同い年で学友であったこともあり、気心が知れた仲だ。



 アレンの所属する第2王宮騎士団はクリストフ殿下付きと言っても過言ではないため、仕事でも顔を合わすことが多い2人だろう。



 「クリストフ殿下にご挨拶申し上げますわ」

 「シェリル嬢、久しぶりだね」



 この夜会は王族が来るようなものではない。クリストフ殿下は、夜会の参加者に紛れるような控えめな服装を身につけている。



 お忍びでやってきているのだろう。忍べているのかは謎だが。



 「見ない間にまた美しくなったな。童話に出てくる姫のようだ」

 「あ、ありがとうございます」



 私はクリストフ殿下が一瞬、何か企みのある笑みを浮かべたのを見逃さなかった。



 (ああ、今日はアレンだけではなくクリストフ殿下にまで揶揄われる日になりそうだわ)



 そんなことを考えているとクリストフ殿下が近付いてきて、そっと覗き込まれる。



 「……っ!」

 「シェリル嬢のその紅茶色の髪と蜂蜜色の瞳は、昔から変わらず印象的で」

 「……殿下」



 会話を遮るように笑顔のアレンがこちらに一歩踏み出した。


  

 今まで見えていたクリストフ殿下が、アレンの背中によって見えなくなる。



 「……そう怒るなよアレン。器の小さい男は嫌われるぞ?」

 「なんのことでしょうか」



 (ゆるいお忍びスタイルで来られたクリストフ殿下に対して、アレンは怒っているのね)



 クリストフ殿下は私を揶揄って話を逸らそうとしたようだが、アレンには効いていなさそうだ。



 「殿下。こちらへはどのようなご用向きで?」

 「なんだ? もう本題に入るのか」

 「長居されて、目立たれては困りますので」

 「はは。それもそうだな」


  

 自由奔放で陽気なクリストフ殿下に対して、アレンの作り笑顔が深くなってゆく。



 そんなアレンを見てクリストフ殿下はニヤニヤと笑いながら、そっと声のボリュームを落とした。



 「アレン、お前に話がある。少し顔を貸せ」

 「…………」



 言わずもがな仕事の話のようで、アレンはあからさまに不機嫌な顔をする。



 (これはきっと、私は聞いてはいけない話ね)



 内緒話は他所でやって欲しい。



 王子と王宮騎士のここだけの話、なんて聞かないに限るのだ。アレンのことはしっかりと送り出そう。



 前にいるアレンへ、私はひょっこり顔を出す。



 「いってらっしゃいアレン。会場内は安全よ」

 「そうだぞ」

 「まだ何も言っていないよ」

 


 アレンは腕を組み、殿下をみる。



 「殿下、お話はここでうかがいましょう」

 「王子に対する話の聞き方間違ってるぞ」



 クリストフ殿下はため息をつきながらアレンの肩をたたく。



 「アレン。言わずもがな、これは私と君だけの話だ。早めに君の耳に届けるべきだと思ったからわざわざ声をかけにきた。これ以上は言わなくてもわかるな?」


 

 アレンはほぼクリストフ殿下付きの王宮騎士団員。急ぎの用が出来たのだろう。



 さすがのアレンも不服そうではあるが、クリストフ殿下の言葉に渋々頷いた。



 「…………手短にお願いいたします」

 「ああ、わかった」

 「シェリル。俺が戻るまであまり中に入り込まず壁際にいるんだよ」

 「相変わらず過保護だなあ、お前」



 そうしてアレン達は、さっと会場の奥へと消えていく。





 「…………よし」



 アレン達の姿が見えなくなり、私は心の中でガッツポーズをする。



 私の隣を離れないキラキラ護衛が席を外した。これはこのうえないチャンスだ。



 早速夜会の中心へ向かおうとするが、既に人がギュウギュウにいて気が引けてしまった。



 みんなあの中で立っていられるのだろうか? 呼吸も出来なさそうだ。




 

 「……少し外の風にあたりに行こうかしら」



 勘違いしないでほしい。一旦向かうだけだ。



 別に会場の熱気にあてられてバルコニーへと逃げたわけではない。パーティはまだ序盤だし人もいないだろう。



 


 と、思っていたのに。





 「…………あら?」




 バルコニーには意外な先客がいた。




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