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4.応急処置の魔力調整


 幼い頃、私が神殿に行くまでの間

 アレンはよく魔力調整をしてくれていた。



 アレンの魔力からはベルガモットの香りがして、魔力調整中とても心地良かった。




 なのに。




 一体、いつからだろう。


 



 「……っん……」

 「シェリル。我慢して。ね?」




 アレンの魔力をこんな風に感じてしまうようになったのは……。





 柑橘の爽やかな香りの中から、だんだん甘い香りが際立ってきた。



 身体の触れている部分を通して、アレンの魔力がゆっくりと私の中に入ってくる。



 「んうっ」

 「………………」




 馬車が出発した後、アレンは私の魔力をみてくれた。



 私の魔力は既に体内で相当くすぶっていて、いつ魔力暴走が起こってもおかしくない状態だった。



 早速、魔力調整のため魔力を流しやすいよう、私はアレンに抱き寄せられた。



 そして私の体内にアレンが魔力を流し込み、魔力を調整してくれている最中……なのだが。



 このくすぐったいような感覚に全く慣れない。



 「夜会前だし軽く平すだけだから。すぐ終わらせるよ」

 「うっ、ん……」


 

 私の中に入ったアレンの魔力は、身体の奥の方まで波のように動きながら流れていく。



 くすぐったさを我慢していると、だんだんと身体の奥がじんわりと熱くなり頭がぼうっとしてくる。





 ――昔はこんなことなかったのに。



 いつからかアレンに魔力調整してもらうと、この変な感覚に身体が反応してしまうようになった。



 「…………っ」



 私の身体の中の奥へ奥へと入ってくる、アレンの魔力を感じとり我慢できない刺激に身をよじる。



 アレンは私を心配そうに見ながらも、自身の魔力を動かすことを止めない。



 もう少しどうにかならないものか。



 抗議するようにアレンを見つめる。彼は驚いたように目を見開いたが、すぐに微笑みを浮かべる。



 「シェリル。頑張って」

 「……んあっ」



 更にアレンの魔力が体内でうねる。精一杯の抗議は全く伝わっていない。





 刺激を与えられ続けて熱に支配された頭は、このままずっとアレンの魔力を感じていたいとさえ思い始めていた。


 

 「あと少しだよ」

 「!」



 (いや……やめてほしくない……)



 その気持ちを抑えきれず、私を抱くアレンの背中に自ら手をまわし騎士服をぎゅっと掴む。



 するとアレンは一瞬、肩をピクッと震わせた。その事実に胸が切なく締めつけられる。



 アレンは嫌がっている。……分かってる。



 彼には、他に好きな人がいるから。



 分かっているのに。


 

 私は今も彼を困らせてしまっている。なのに彼の背中を握りしめている手を、離してあげられず泣きそうになる。



 「あ……」



 涙を必死に我慢していると、アレンの魔力が今までとは違った動きをした。



 私を包み込んでくれる温かくてとても柔らかい、気持ち良いものに変わった。そしてゆっくりと分散し、私の体内で消えていく。



 きっとアレンが、私に魔力を流すのを止めたのだろう。



 「…………終わったよ、シェリル」

 「っ……」



 体内に残っていたアレンの残りの魔力がスゥッと私から抜けていくのを感じて、どっと身体の力が抜けた。



 「おっと、大丈夫?」


 

 馬車の中でくたくたに力が抜けた私は、アレンに抱きかかえられた。



 身体も頭もまだ熱くぼーっとしているし、体内にはアレンの魔力がたくさん動いた余韻のようなものを感じる。



 「これで少しの間は魔力が安定するはずだよ」

 「…………」



 まだ熱の冷めない私の頭を、アレンは穏やかな声で「がんばったね」とそっと撫でてくれる。



 いつもなら、私を揶揄うこの手を振り払うのに。今はアレンの手がとても心地よく感じてしまい振り払えない。



 (こんなこと、アレン以外の他の誰かと出来るのかしら……)



 そう思うと苦しくて胸がきゅっとなる。また涙が出そうになり、そっと目を閉じる。



 

 どうか。どうか。夜会に着く頃には、この熱が冷めていますように……。





 その後、夜会会場に着くまでアレンは私の頭を、まるで大切なものに触れるような優しさで何度も何度も撫でてくれた。



  

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