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33.王子の興味




 シェリルちゃんは聖杯に魔力を異常に流し込んだせいか、気絶してしまった。



 「………………」



 アレン殿はそんな彼女に対して、自分の魔力を流し込んでいる。



 おそらくシェリルちゃんの魔力が不安定になっているのを、アレン殿は自分の魔力で安定させようとしているのだろう。



 慣れた手つき。彼女に入っていく彼の魔力。シェリルちゃんに漂うアレン殿の魔力はこうして出来ているのだと実感する。





◇◇◇





 ボクがシェリルちゃんと会ったのは、彼女が神殿へ行く少し前。



 お忍びで隣国の下町を見て回っていた時だ。



 下町には腕の良い職人が沢山いる。彼らから商品を買い付けるために見回っていたが、それも早々に飽きてしまった。



 面倒になったボクは最初に目に入った織りの美しい布だけを買って、帰ろうとしていた。



 側近たちもボクの意見に反対することなく全て笑顔で頷いてくれる。



 そんな彼らにも、自分の置かれた立場にも辟易としている時だった。



 「きゃっ」



 彼女とぶつかったのは。



 「申し訳ありません!」

 「あ〜、気にしないで〜」



 色味もデザインも下町に寄せてはいるが質の良い糸を使っているのだろう。生地にヨレがない。おそらくどこかの貴族令嬢といったところか。



 彼女はそのまま、先程ボクが布を買った店へ慌てて入って行き、すぐに出てきた。



 「あの! あそこの店で買った布を私に譲っていただけませんか! 言い値で買います!」

 「……ふぅん?」



 何を必死になっているのか、ボクには理解できなかったし、しようとも思わなかった。



 「やだ〜」

 「なっ」

 「じゃあボクと遊んでよ〜。それでキミが勝ったらあげる〜」



 ただの暇つぶしだった。布を言い値で買うなんて言い出す世間知らずの貴族令嬢を笑うために。



 ボクは自国で仕入れてきた、穴の空いた天然石を中糸で繋げた腕輪を2箱用意させ、そのひとつを彼女に渡した。



 腕輪は今日の祭りに誰かに出店をさせて、この国の反応を見ようとしていた商品だった。



 用意していた腕輪の中から、石の色の組み合わせが良くないものを集めた箱の方をあえて渡した。



 「今日のお祭り。この腕輪でボクより高い利益を上げたらキミの勝ちね〜」

 「……わかりました」



 そのままあれよあれよと祭りの出店に混ぜてもらい、腕輪を販売した。



 見た目が同じ腕輪なら、色の組み合わせが綺麗な腕輪の方が売れるだろう。



 あとは価格だ。値を下げたらあちらの方が売れるだろうが、ボクに利益で負ける。



 どちらにせよボクが勝つゲームだった。



 そして思った通り、ボクの腕輪は全て売れた。それなのに。



 「もう少し待ってください。あと数品で終わります」

 「え、なにぃ……これ……」



 令嬢が出店している店の値段はボクの半分以下だった。なのに、彼女の方が利益を上げている。



 売り場を見ると腕輪がなかった。正確には、ボクの用意したはずの腕輪が消えていたのだ。



 売り場には数個の天然石で作られた首飾りや腕輪、小さい飾りなどがあった。



 よくよく観察すると彼女は腕輪の中糸を抜いて、石だけをひとつの箱に集約させていた。その横には革の糸がある。



 「こちら箱の中の天然石を3個まで組み合わせていただけます」

 「首飾りや、男性であれば剣の装飾品にいかがでしょうか」

 「この箱の中から、お好きな石を選んだ作ることが出来ますよ」



 ボクが最初に渡した腕輪はぐるっと余すことなく天然石で埋め尽くされていたものだった。それをバラバラにして天然石を3つにして売るなんて。



 もとの腕輪の数量とは、比べ物にならない数を販売出来る。



 彼女は腕輪を腕輪として販売せず、オーダーメイドという付加価値を天然石に付けていたのだった。



 「事前に購入した革紐を差し引いた利益がこちらです。私の勝ちですね」



 負けた。世間知らずの貴族令嬢だと油断していた。


 

 仕入れたものをそのまま売らず工夫する彼女。その発想も面白い。彼女の行動は貴族令嬢らしからぬもので新鮮だった。



 「申し遅れましたわ。私、シェリル・フォンク公爵令嬢と申します」

 「ボクはクラウス。クラウス・キスリング。隣国の王子だよ〜」

 「!?」

 「ボク、シェリルちゃんのこと気に入っちゃったぁ。帰国まで一緒に居てよぉ」

 「お、王子!?」



 そうしてボクはシェリルちゃんと共に思う存分この国で遊んだ。しかしその隣には──。



 「アレン・アッシュフィールドと申します」



 必ず赤髪のアレン殿が居た。華やかな容姿、秀才、天才魔法使いであり剣も上手い。彼は完璧だった。



 そんな彼に感化されたボクは帰国後、王子教育も剣も魔法も頑張った。



 すると、自分の不思議な能力が開花した。



 ある日突然、1度見ただけの魔法の構造や仕組みを容易く理解できるようになったのだ。そしてそれを自分が再現することも簡単だった。



 この能力を使い、様々な魔法を習得していった。属性が限られるため天才魔法使いとまではいかないが。



 そうして、シェリルちゃんのいるこの国へと渡ってきたのだ。





◇◇◇





 ボクはアレン殿がシェリルちゃんに流す魔力の流れを簡単に読むことができた。



 おそらく今後彼女がこのようになった際には、ボクも同じように魔力を流して調整することも出来るだろう。



 仕組みを理解したボクは、アレン殿の調整の仕方に引っかかるものがあった。



 アレン殿はシェリルちゃんの手前にある魔力にしか干渉しないのだ。一体なぜなのだろう。



 そんなことを思っているとシェリルちゃんから扇情的な声が漏れた。



 「んっ……ああっ」



 アレン殿の魔力が、シェリルちゃんの身体の中で魔力をゆっくりと動いていた。



 魔力同士が干渉すると何か刺激になるのだろうか?



 「……はぁ。んう」

 「………………」





 うーーーーん。





 (さすがにず〜っと聞いていたら変な気分になってきちゃいそうだな〜。こんな声を聞いても手を出さないアレン殿って自制心の塊?)

 


 「アレン殿〜、それは一体何をしてるの〜?」

 「シェリルの魔力を調整しています」

 「ふぅん? シェリルちゃんの魔力ってちょっと変だよねぇ」

 「はい?」



 アレン殿がチラリとボクの方を見る。



 「ボク、魔力を読むことが得意なんだよねぇ。シェリルちゃんの魔力ってなんだか2種類あるっぽくない〜?」

 「………………」

 「アレン殿は表面にある魔力にしか干渉しないねぇ。理由があるの〜?」

 「お答え出来かねます」

 「……ふ〜ん?」



 先程の浄化。シェリルちゃんから出てきた光の粒。そして2種類の魔力。



 (な〜んか勘繰っちゃうな〜)





 ボクの予想が当たっていれば、シェリルちゃんはとんでもない業を背負った令嬢なのかもしれない。



 「あ〜あ。ボクも一国の王子じゃなくて、この国の貴族だったらシェリルちゃんの専属護衛になったのに〜」

 「寝言は寝て言ってください」



 魔力調整を終わらせたアレン殿が、ボクを横目で見ているとピクリとシェリルちゃんの手が動いた。



 「!」



 シェリルちゃんの琥珀色の目がゆっくりと開かれていく。



 しかしなぜか、とろんとした瞳のままアレン殿を見つめていた。寝ぼけているのだろうか?



 「シェリル、大丈夫?」

 「…………」

 「っ……シェリル……!?」



 彼女はそのままアレン殿の首に腕をまわす。そして驚くことに、そのままぐっとアレン殿に顔を寄せて口付けをした。



 「ひゃ〜〜〜〜っ」



 ボクは手で顔を覆いながらも、指の隙間からしっかりと2人を見る。



 アレン殿は顔も耳も首も真っ赤で、石像のように固まっていた。彼の様子からするに、普段からしているものではないのだろう。やはり彼の自制心には感心する。



 「っは。シ、シェリル……?」

 「アレン、足りないの。もっとちょうだい」

 「…………え? ……っ」



 シェリルちゃんは紅茶色の髪を靡かせながら、アレン殿の頬に手を添えて再び口付けた。



 アレン殿を見ると、弾けば粉々に砕けそうなくらい固まってしまっている。





 (……なになにぃ、ちょっと面白いじゃん〜)



 ボクは、普段では絶対見れなさそうなシェリルちゃんと動揺しまくるアレン殿を交互に見てニヤリとした。




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