29.会場の摘発
私たち3人はオークション会場へと足を進める。
女装こそしているが相手は隣国の王子様だ。万が一があってはいけないため、共に行動するしかない。
「あの、クラウス王……」
「クリスティーナよぉ、シルビアちゃ〜ん?」
長いまつ毛でバチーンッとウインクされ、鳥肌が立つ。
「……クリスティーナ様。なぜこのオークションに参加を?」
「あら、手紙に書かなかったかしラ〜?」
「特に記載はありませんでした」
「まぁっ! ワタクシったらうっかりしてましたワ〜」
会場の前に着く。ゆっくりと扉が開いた。
私たちは静かに中へと入り、アレンに促されてステージから最も離れた端の席に座る。
オークションは既に始まっており、ステージの上から「こちらの商品は、2番様が落札です!」と商品落札のアナウンスが響いた。
客席は真っ暗。ステージの上も薄暗く、商品のみに一筋のスポットライトが当たっている。
周囲に人の気配はあるものの、この暗がりでは誰が参加しているのかは分からない。
名前などももちろん非公表。入札した際は、船に乗る時に配られた番号で呼ばれるようだ。
「ね〜ね〜シルビアちゃん」
「なんでしょうか?」
クラウス王子扮するクリスティーナ様に小声で声をかけられる。
小声だと、あの変な裏声を聞かなくて良いのでまだ耐えられそうだ。
「ここに出回っている商品はぁ、どうやって提供されていると思う〜?」
「違法な手段で集められたものが多そうですね。今ステージ上にある商品も、本物であれば一大事です」
「そうだねぇ。ここの商会は商会登録を出さずに、船で各国を回っているんだぁ。目をつけられたら別の国に移動する。海賊みたいだよね〜」
(世界を回って違法な取引を行う海賊のような商会。なるほど、クラウス王子が興味を持ちそうだわ)
カンカンカンッと落札を意味する木槌を打つ音が鳴る。
次の商品が紹介されるタイミングでアレンが身を乗り出して、クラウス王子の方を見た。
「失礼、クラウ……」
「だ〜か〜ら〜、アタクシはクリスティーナよぉ」
アレンの方を見たクラウス王子は、バサっと扇子を広げた。
この令嬢ごっこはいつまで続くのだろう。それにしてもさすがは王子といったところか、所作が上品でそこもちょっと気持ち悪い。
「もうすぐ我が国の騎士団が、こちらへ摘発に入ります。シェリルのことは話を通してありますのでクラウ」
「ク、リ、ス、ティーナ、ですわヨ〜」
「……も、シェリルと共に騎士団に保護されてください」
アレンは意地でもクリスティーナと呼ばないようだ。確固たる意志が伝わってくる。
「ボクを心配してくれてるの〜? 優しいねぇアーサー殿。シルビアちゃんも手紙を読んでここまで来てくれたし……うんうん。そんな2人にボクがここに来た目的を教えてあげる〜」
彼の意外な言葉に私は思わず目を丸くした。
(……目的があったのね)
そんな私を見てにっこりと笑うクラウス王子は、更に小さな声で話しだす。
「先月の話なんだけどぉ。以前ウチの国から出土した聖杯が、何者かに盗まれたんだよね〜」
「盗まれた?」
「そ〜。事の発端はその聖杯を管理する者達がぁ、原因不明の体調不良で次々と死んじゃったんだよね〜」
「え……」
(聖杯はもともと、神殿にて身を清めるための道具であるはずなのに)
「……それは本当に聖杯なのでしょうか」
「ボクも同じことを思ってぇ、国の研究機関へ調査に出すことにしたんだぁ。でもその道中で襲撃に遭って聖杯を奪われてちゃって〜」
アレンが顎に手を当てた。
「……その聖杯が本日こちらで出品される可能性がある、と?」
「アーサー殿、察しが良いねぇ。その通り〜。もうそろそろ出てきそうなんだけどなぁ〜」
クラウス王子は残念そうな声色で続ける。
「でも、もう来ちゃいそうだねぇ」
首を傾げる私に、彼は親指で後ろを指した。
入ってきた扉の外に意識を向けると、バタバタと大勢の人数がこちらに向かってくるような足音が微かに聞こえる。
その足音は段々と大きなものになり、ついに私たちの後ろの扉がバンッと勢いよく開いた。
「動くな!! 我らは騎士団だ。違法に入手した商品の販売、譲渡の容疑で捕える!」
パッと会場が明るくなったかと思えば、続々と騎士が入ってくる。そしてあっという間に商会の人たちも参加者も捕えられた。
しかし、商会の一部の人間とステージでオークションを仕切っていた男はサッと舞台裏に消えたようで、数人の騎士たちがその後を追いかけて行った。
会場の所々では、悲鳴が聞こえたり自分は連れてこられただけだと無罪を主張する声が上がっている。
(……摘発現場になんて初めて居合わせたわ。雰囲気が一変したわね)
こんな緊迫した空気の中にも関わらず、なぜかちょっと騎士団の仕事見学をしている気持ちになった。
「アッシュフィールド様! お疲れ様です!」
大きな声が近くで聞こえたので視線を移すと、ガタイの良い騎士がアレンに近付いて敬礼していた。その目には緊張と憧れの色が浮かんでいる。
アレンはその剣の腕を認められ、最年少で王宮騎士団へ入団した騎士だ。一介の騎士からすると尊敬に値する存在なのだろう。
「お疲れ様。もうほぼほぼ終わり?」
「い、いえ。所々で逃げた者がおりまして」
彼が動くたびにカチャカチャと鎧が鳴る。アレンが騎士団で働く際もこんな感じなのだろうか。
「そっか。シェリルはどこに居れば良いかな?」
「はっ、こちらへ。空き部屋をひとつ確保しております」
そこでその騎士は、恐る恐るクラウス王子の方を見る。
「恐れながら、アッシュフィールド様。シェリル様の隣にいらっしゃるご令嬢は……」
「こんにちは〜。ワタクシはクリステ」
「ああ、彼のことは気にしないで。俺が一緒に連れて行くよ」
「ちょっと〜、自己紹介の途中だったのにぃ」
「彼……。ゴホッ、承知いたしました。ご案内いたします」
騎士様は目を泳がし動揺しているようだったがギリギリで立て直し、前を向いて歩き出した。
(はぁ。クラウス王子の姿に、騎士様も困惑していらっしゃるわ。隣国の王子ということはバレていなさそうね。絶対に秘密にしなくては)
楽しそうに扇子で仰ぐクラウス王子を横目に、私は固く決意した。




