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28.船上オークションへ

 


 商品開発に夢中になっていたら、あれよあれよとワイズ商会のオークション当日となった。



 私はクラウス王子のおつかいとして参加するが、アレンは正式な任務としてこのオークションに潜入することになった。



 レイモンド様から頂いた商会の情報を、クリストフ殿下や騎士団へ共有した結果だ。



 「ふふん。ふふふん」



 そんなアレンは任務前にも関わらず、いつも以上にご機嫌だ。



 ──それには理由がある。





 「シェリルの髪の色とお揃いだね」



 私は無事、髪に使用できる染料を開発した。



 この染料は髪の色を黒にする予定のものだった。しかしアレンの髪に使用すると、髪が綺麗な紅茶色へと変わったのだった。



 おそらくアレンの髪がとても鮮やかな赤色だったことが原因だろう。使用する元の髪色によって発色に差が出るようだ。



 「何度見ても綺麗な紅茶色だよ。うん、シェリルの色だ」

 


 (髪の色が変わったことが目新しいだけで、アレンが私と同じ髪色であることを喜んでいる訳じゃないのに)



 アレンの反応を見て勘違いしてしまいそうになる。



 「これは兄妹って設定でいけるね」

 「たしかに、そうね」



 鏡に映る自分達を見て、思った以上に髪色がそっくりでちょっと照れる。何よりアレンはどんな髪色でも美しい。纏う色を自分のものにしてしまうのだ。



 「じゃ、行く前に魔力調整しとこっか」

 「ええ」



 アレンはゆっくりと私を抱きしめる。もう何度も繰り返していることだが、アレンの温もりを感じて胸がじわっと温かくなる。



 「今日は入念に調整しとかないとね」

 「? どういう……ひゃっ」



 アレンに抱きしめられたところから、刺激と共に焼けるような熱さが身体に入って行った。



 最近は心地良く軽い魔力調整が多かったため、こんな強い感覚は久しぶりだ。



 「お、お願い。熱いの。少しずつ入れて……」

 「っごめん。すぐ終わらせた方が良いかなと思って急いじゃったね」

 「……ん」



 ベルガモットの香りがふわりと広がり、温かな彼の魔力を私の身体が受け入れていく。




 「はぁ……ん」



 私の魔力とアレンの魔力が絡み合い、蕩けるように熱くて頭がぼうっとしてくる。



 思わず腕を彼の首に回すと、アレンも私のことをぎゅっと抱き直してくれた。



 「ひゃん……っ」



 アレンの魔力が私にどんどん注がれて、動かされていく。その刺激に耐えられず無意識に声が漏れた。



 「……あとちょっとで終わりそうだけど、どうする? もう終わる?」

 「やっ、ま……まだぁ」

 「足りないんだ?」

 「そ、そんな……あっ、アレン」



 潤んだ瞳でアレンを見ると、彼は火照る私の身体をぎゅっと抱きしめた。



 「もう、そんな蕩けそうな顔しないでよ。止められなくなっちゃうでしょ」

 「んうっ。と、止められないって……んっ、ち、治療でしょ?」

 「………………そうだけど?」



 (そうだけど?)



 その瞬間、すぅっとアレンの魔力が私の身体から抜けていった。



 「…………あっ」

 「おしまい。なんだか物足りなそうだね?」

 「そっ、そんなことない……!」



 (私は何を言っていたのかしら!!)



 自分の言動を思い出して頭から火が出そうだし泣きそうになる。



 そんな私を見たアレンは、口に手を当て可笑しそうに笑った。




 「ふふ。さ、時間だよ。()()()()?」

 「ええ、()()()()()()()

 「…………ちょっと癖になりそうだね」

 「なにか言った?」

 「なんでもないよ。行こっか」

 



 

◇◇◇




 「名前をどうぞ」

 「僕はアーサー。これから商会を立ち上げたくて勉強のために知り合いに呼んでもらったんだ。こっちは妹のシルビアだ」

 「……どうぞ、お入りください」


 

 私たちは番号が振られた札をもらい、中へと進んだ。

 





 「──と、船に乗り込めたのは良いんだけど」



 アレンは横目で1人の令嬢を見る。



 星を集めたような銀髪のツインテールをリボンで結び、白と黒を基調としたフリフリのドレスを着ている美少女。



 (まさか……まさか……)



 私とアレンに気付くと優雅に近寄ってきて、そっとお辞儀をした。



 「お久しぶりですワ〜」



 アメシストのような紫色の瞳がキラリと光る。



 「…………はぁ」 



 アレンがため息をつきながら頭を抱える。そうであって欲しくない、他人の空似であってほしいと思いながらも、小声で名前を呼ぶ。



 「クラウス……王子……?」



 口に綺麗な弧を浮かべる彼のツインテールがふわりと揺れた。



 「シェリルちゃんにお願いしようと思ってたんだけどぉ。退屈で退屈で出てきちゃったのですワ〜」

 「…………シルビアです」

 「アレン殿の髪、素敵です〜。髪色が変わっても華やかな容姿は変わりませんのネ〜」

 「…………アーサーです」



 彼の変な裏声と様子のおかしい姿にひくっと口の端が動く。あんな厳重そうな王宮の護衛をどうやって掻い潜ってきたのだろうか。



 そして私が今日来た意味は、何だったのだろう。



 (完全にクラウス王子を甘く見ていたわ)



 顔だけを見ると整った顔立ちのせいで全く違和感はないが、やはり華奢といっても男性。ドレスはややキツそうでピチピチだ。



 こんな様子のおかしな人間が入れるオークション、今すぐにでも帰りたい。



 「本日、バート様は?」

 「ああ〜彼は別の用があってね〜」

 


 詰んだ。頼りになる唯一の味方が居ない。様子のおかしい女装王子のお世話をなすりつけられた気分だ。



 「さっ、来たからには楽しみますわヨ〜」



 彼はとても満足そうに、令嬢らしく扇子を広げた。



 「ワタクシ、クリスティーナよ。シルビアちゃん、アーサー殿、よろしくですワ〜」

 「………………」



 アレンを見上げると心底軽蔑した表情でクラウス王子を見ていた。いよいよ不敬に当たりそうで怖い。



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