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27.王子からの手紙




 クラウス王子銃撃事件の後、私たちはアレンの転移魔法ですぐに王宮へと帰った。



 狙われた原因は「心当たりが多すぎて分からないよぉ」とのことだった。





 隣国の王子が自国で襲われかけたのだ。王宮内では一大事となり、その日以降クラウス王子は王宮にて軟禁状態となった。正直とても助かる。





 そんなある日。私宛てに1通の手紙が届いた。





 「……クラウス王子からだわ」



 椅子に腰かけてその手紙を開く。



 そこには今度行くはずだった、商会の船上オークションへ代わりに参加してほしいということが書かれてあった。



 特に商品の指定は無いため、私が参加して何をすれば良いのかは謎だ。



 そもそも送り主がクラウス王子であることから、もうこの時点でやや怪しい。



 この商会。ワイズ商会という海外貿易を基盤にした商会らしいが、聞いたことがない。



 (商会登録をしていない可能性があるわね)



 もし登録をせずにこの国で商会を運営しているのであれば確実に違法だ。



 「……アレンに相談してみましょう」

 「俺がどうかした?」



 私が手紙を閉じたタイミングでアレンはやってきた。軽装で少しラフな佇まいは何とも言えない色気がある。



 「アレン。いつ来たの?」

 「ついさっきだよ。フォンク公爵に挨拶してからノックして入ったんだけど……」



 アレンは隣まで来て私の顔を覗き込む。その近い距離に相変わらずドキッとしてしまう。



 「ふふ、シェリル。髪に寝癖が付いてるよ。可愛い」

 「!!」



 今日はなんとなく自分で支度したため、髪のことなんてすっかり忘れていた。



 (なんでこういうのって1番見られたくない人に見つかるのかしら)



 「あ、あんまり見ないで」



 顔を横に逸らすと、アレンは私の寝癖がついているであろう髪の束を優しく掬いとる。



 ふわっと温かな水のようなものを感じたのも束の間。すぐに柔らかい風が吹いて、アレンが私の髪を手ですいていく。



 (とても心地が良いわ。まるで魔法みたいな……魔法?)



 意識を髪に集中させると、ベルガモットの香りが鼻をくすぐる。つまりこれは、アレンの魔法だ。そのことに気付いて私はぎょっとした。



 「ア、アレン! 大丈夫よ、ありがとう」

 「じっとしとくの辛かった? もう少し待ってね」

 「じゃなくて! 私の寝癖にそこまでしてくれなくて良いわ」



 (天才魔法使いに寝癖を治させるなんて色々な方面から怒られそうだわ……)



 「ふふ。俺はシェリルの髪も好きなんだ。だから触れさせて」

 「そんな」

 「細くて柔らかくて良い香りがして。紅茶色のこの色もとっても綺麗だよ。俺も同じ色になりたかったな」

 「なっ、私はアレンの赤髪が大好きだからそのままでいてほしいわ!」

 「えっ」



 言い切ってから、自分が何と言ったのか理解して恥ずかしくなる。



 「あ、か、勘違いしないで。初めて会った時から、その赤髪のこと素敵だなと思っていたの! だからずっと大好きで……っあの……大好きっていうのは……」


 喋れば喋るほど墓穴を掘っている気がして、目の前がぐるぐるしてきた。



 「………………っ」



 そんな私の横で、なぜかアレンは口元を押さえてその場にしゃがみ込んでしまった。なんだか耳が赤い気がする。



 「どうしたの? 大丈夫?」

 「……心配しないで。なんでもない、ことはないんだけど」

 「え、何かあったんじゃ」

 「ごほん。……大丈夫。で、なにか俺に相談があるの?」



 アレンは深呼吸した後に立ち上がって、再び顔を寄せてきた。彼の目に熱が帯びているような気がして心臓が高鳴る。



 「ちょっと近いわ」

 「そう? 遠いくらいだよ」

 「どんな距離感してるのよ」

 「シェリルにだけだけどね」

 「……っ。はいはい」



 (だめだめ、また揶揄われてる。真に受けずに流して、今は手紙のことを説明しなくちゃ)



 「そう、相談ね。クラウス王子から手紙が来たのよ。彼が行くはずだったワイズ商会の船上オークションへ、代わりに行って欲しいと仰せなの」

 「ワイズ商会……? うーん」

 「お断りする訳にはいかないのだけれど、なんだか怪しいのよね」

 「ちょっと見せて?」



 私は手紙と一緒に入っていた招待状をアレンに差し出す。招待状を読み進めていくと、だんだん彼の顔が険しくなってきた。



 「やっぱり。シェリル、これ騎士団が摘発に入る予定だよ」

 「え?」

 「数日前に騎士団から応援依頼が来たんだ。断ったんだけどね」



 アレンは手からふわりと1通の手紙を出した。きっと魔法なのだろうが私はこんな魔法知らない。



 そしてその手紙と招待状を照らし合わせる。



 「ワイズ商会、どこかで聞いたことあるなって思ってたんだ。ほら、日時と場所も一致してる」

 「本当だわ」

 「参加は駄目だよ。その場に居るとシェリルまで取り調べを受けないといけなくなる」

 「っでも、私が行かないとクラウス王子が勝手に行くかもしれないわ」



 あの王子のことだ。こちらが迂闊に断ってしまうと後に何をしでかすのか分からない。お願いだから大人しくしておいてほしい。


 

 「それに──」



 アレンの方を向くと、やっぱり顔が近くて心臓が飛び出そうになるが、きゅっと口を結んで我慢する。



 彼の顔がやや高い位置にあり、自然と上目遣いになった。



 「……シェリ、ル?」



 顔に熱が回る。きっと赤くなっているはず。そのことを恥ずかしく思いながらも、アレンを見つめる。



 「仮に危険だったとしても、アレンが守ってくれるでしょう?」

 「………………っ」



 彼はまたしゃがみ込んでしまった。今日は珍しく体調が優れないのだろうか。

 




◇◇◇





 「──で、僕のところに来たのかい?」



 その日の夕方。私たちはミューラー公爵家へお邪魔していた。



 マリアベル様は外出中でいらっしゃらなかったが、以前伺った時よりも、ミューラー公爵家もレイモンド様も落ち着いた様子で安心する。



 「お忙しいところすみません」

 「気にしないで。シェリル嬢のためならいつでも時間を作るよ」

 「………………」

 「アッシュフィールド。殺気を纏いながらこっちを見ないでくれるかい?」

 「そんなつもりはありませんでしたが、失礼いたしました」

 「そんなつもりしかなかっただろう」



 牽制し合うアレンとレイモンド様を見ながら私は首を傾げる。



 (この2人はなぜこんなに合わないのかしら。同族嫌悪ってやつ?)



 「あの銃撃事件にあった王子の頼みか」

 「はい」

 「アッシュフィールドはあの場に居合わせたんだろう? 犯人は捕えられたのかい?」

 「いえ。安全確保が第一優先でしたので」

 「へえ? 君ほどの魔法使いが取り逃がすの?」

 「何をおっしゃりたいのですか」

 「別に? 純粋に疑問だっただけだよ」

 


 2人の話は続きそうだったが、話が横道に逸れていきそうだったのでレイモンド様に声をかける。



 「レイモンド様。このワイズ商会ですが」

 「ああ、失礼したね。やはり商会の登録はないよ。しかし、父上のツテで裏の人間に訊いてみたところ情報を引っ張ってこれた」

 「裏……」



 お父君の代で繋がっていた裏の人間を切らずに、利用しているのだろう。



 彼らに食い潰されることもなく商会を回しているなんて、やはりレイモンド様はかなりのやり手だ。


 

 「父上の商会も酷かったが、ワイズ商会はもっと酷いよ。輸出入禁止の商品の取引、人身売買、薬物……。なぜクラウス王子がこんな所に参加しようとしたのか甚だ疑問だね」



 (……クラウス王子だからです)



 口をついて出そうになった言葉をゴクリと飲み干す。



 アレンを見ると、彼も遠い目をしていた。きっと同じことを考えている。



 「このオークションは危険すぎる。参加するのはおよしなよ」

 「アレンと一緒に行くので大丈夫です」



 さすがに、後で騎士団が摘発に入る……なんて言えない。



 「アッシュフィールドは王宮騎士団の中でも有名人だろう。こんな怪しい所、きっと入れてもらえないよ」

 「はい。そこで、レイモンド様に頼みたいことがあるのです」

 「……へえ? 聞かせてくれる?」



 レイモンド様は手を前に組んで身を乗り出してきた。その動きで癖のある黒髪が少し揺れる。



 「レイモンド様のお父君の商会が独占していた、カシラという木の瘤を譲っていただきたいのです。少しで構いません」

 「カシラの木の瘤か。父上が倉庫に溜め込んでいたあれだね。構わないよ」

 「……ありがとうございます!」



 実は神殿で読んだ本の中で、木の瘤を用いたもので気になるページがあった。



 すぐにでも試したかったのだが、残念ながら元ミューラー公爵様の商会が独占していて入手出来なかったのだ。



 「でもそれが今回のことと何の関係があるんだい?」

 「カシラの木の瘤は革の染料として価値がありますが、別のものを染めることも可能なのです。例えば……髪です」

 「へえ? 髪の染料になるのかい?」

 「おっしゃる通りです」

 「なるほど。アッシュフィールドが赤髪ではなくなれば、彼を認識できる人物は減るだろうね」



 レイモンド様と私が頷き合っていると、アレンがゆっくり私の方を見た。



 「俺の赤髪、大好きじゃなかったの?」

 「はっ! そ、それは」



 今朝のことをここで蒸し返されるとは思わなかった。アレンはニヤニヤと笑っているので完全に遊ばれている。



 「こ、こんなところでも揶揄わないでよ」

 「俺はシェリルが話してくれたことを言っただけだよ?」

 「…………っっ!」



 そんな私たちをレイモンド様は頬杖をついて、半ば呆れたような冷めた目で見る。



 「今日はシェリル嬢の髪にまでアッシュフィールドの魔力を感じるから何かあったんだろうとは思ったけど。目の前でイチャつかれたらさすがに僕も傷つくなぁ」

 「……レイモンド様、今なにかおっしゃいましたか?」



 アレンの対応に追われて、小声かつ早口で喋るレイモンド様の言葉を聞き逃してしまった。



 「そういうのは他所でやってくれる? って言ったんだよ」

 「えっ、あ。すみません」



 ちょっと騒ぎ過ぎてしまっただろうか。アレンがあんなこと言うから調子が狂ってしまった。



 「シェリル嬢の言う髪の染料。完成したら僕にも見せてくれるかい?」

 「! もちろんです。サンプルをお送りします」

 「楽しみだね。すぐに手配させるよ」

 「ありがとうございます!」



 そうして私たちはミューラー公爵家を後にした。



 ワイズ商会のオークションまで日が少ない。私は木の瘤を抱きながら、ワクワクと胸を膨らませた。




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