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26.2人目の婚約者



 「クラウス王子が……私の婚約者候補?」



 静かな倉庫内で、私の声はやけに響いた。





 「あれぇ? もしかしてフォンク公爵に聞いてなかったの? ちょっと〜、舞い上がっちゃったボクの気持ち返してよぉ」



 片手をひらひらと振るクラウス王子。


 



 ──彼が2人目の婚約者候補。





 絹糸のように細い銀髪に、アメシストのような紫色の瞳。男性にしては華奢な身体。



 妖艶で幻想的な雰囲気を纏っているが、自分の欲に素直で周りを巻き込むことを厭わない王子らしからぬ王子。



 と、婚約…………。





 「絶対嫌ぁ」

 「うんめっちゃ聞こえてるんだけどぉ」



 私が頭を抱えていると、クラウス王子に手をとられる。



 「シェリルちゃんの婚約者候補は、国内にもいるわけでしょぉ? 不公平じゃない? ボクは数日経ったら国に帰らないといけないんだけどぉ」

 「あなたは王子なんですから仕方ないでしょう」



 ずっと静かに控えていたバート様が、ここぞとばかりに口を出す。



 「クラウス様。こんなお話は外でするものではありません。ひとまず王宮に帰られまして、また後日シェリル様とお話になられてはいかがでしょうか」



 バートがクラウス王子を諭しはじめた。この景色も、昔から何度も見ているものだ。



 「ちぇ。まぁ夜も遅くなってきたからねぇ。ひとまず外に出よっか〜」



 クラウス王子は、私の手をとったまま歩き出そうとするが、横から一歩前へ出たアレンの手刀によってスパッと切り離された。



 「ここは足元が暗い上、木箱なども転がっております。女性をエスコートされる前に、ご自身の身の安全を第一にお考えください」

 


 控えめな微笑を浮かべるアレンとクラウス王子の視線がぶつかる。



 「アレン殿。過保護すぎない? 過干渉は嫌われるよぉ」

 「俺はただクラウス王子を心配をしているだけですが」

 「白々しぃ〜。はぁ、いくよぉバート」

 「はい。馬車は前で待たせてあります」



 クラウス王子とバートの後ろを、私とアレンは歩いていく。



 



 外に出ると、来る時は僅かに灯っていた街の灯りも消えて、月と馬車の明るさしか周囲を灯すものはなかった。



 そんな中でクラウス王子はゆっくりと私の方を見る。



 「ねぇシェリルちゃん。これから数日、ボクが国に帰るまで一緒にいてくれる〜?」

 「近々本日のことでお話を伺いに参りますが」

 「じゃなくてぇ。ボクはシェリルちゃんと仲を深める時間が欲しいの。デートする時間くらいあったっていいでしょ〜?」

 「それは……」



 首を傾げるクラウス王子に見つめられ、返答に困る。



 仲はすでに深まっているような気もするし、これ以上仲を深めると、なんだか色々と巻き添えを食らいそうだと私の本能が警鐘を鳴らしている。



 (クラウス王子といるとやっぱり何か起こりそうなのよね)



 思考を巡らせていると隣のアレンが少し動く。



 「……シェリルと一緒ということは、俺も隣に居りますがよろしいですか?」



 クラウス王子にそう言ってアレンは私の腰を抱いた。



 アレンを見ると、暗闇が彼の赤髪を少し落ち着いた色にし、輪郭の整った美しい顔には彫刻のような陰影をもたらしていた。



 普段と違った雰囲気と、あまり触れられない所から広がる温もりに、心がドキリと跳ねる。



 「アレン殿は相変わらずだねぇ」

 「クラウス王子も自分を押し通す強引な所は何も変わられておりませんね」

 「あ〜、なんか不敬だなぁ」

 「これは失礼いたしました。誤解を招くような言い方でしたね」

 「はぁ。ま〜別にいいけどぉ」



 彼は口元に綺麗な弧を描いてくるりと前を向く。



 「……それに。アレン殿もボクの傍に居てくれるなんて、実に結構なことだよ」



 クラウス王子はそう言いながら両手を肩の位置まで上げ、私たちから少し離れる。



 アレンの眉が少しピクリと動いた。





 「だってぇ、ボク…………」





 クラウス王子がそう続けようとした途端。



 短く息を吸ったアレンに、腰をぐいっと引き寄せられて身体を預けるような形になった。



 「……っ」



 声を出そうとしたが、それよりも早く目の前に魔法障壁が張られた。アレンの防御魔法だ。



 そのことを認識するやいなや、パァンと後方で銃声が鳴り響く。



 「ひゃっ」



 思わずアレンの方に顔を背けた。



 (……っクラウス王子!)



 緊急の事態に焦りつつ、クラウス王子の方を見ると、彼やバート様も魔法障壁に守られていた。アレンが同時に張ったのだろう。



 しかし私たちの障壁とは違い、クラウス王子の障壁は波紋のようにゆらゆらと波打っていた。攻撃を受けたということだ。



 波紋の中心を目で追うと、彼の頭の真横で障壁に阻まれた銃弾が宙に浮いていた。



 「!!」



 クラウス王子は両手を上げたまま振り返り、あからさまに首を振ってため息をつく。





 「なーんか狙われてるんだよねぇ〜」



 狙われた張本人はやれやれと言わんばかりの態度で、全く危機感がない。



 (本当に……本当にこの王子は……)






 「「何に手を出したら、こんな風に狙われるのですか」」





 私とアレンは顔を引き攣らせながら、クラウス王子に対して同時に問いかけた。




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