24.夜会での再会
夜会会場の控え室。
紅茶色の髪を上品にまとめてドレスに身を包んだ私は、王宮騎士団の礼服を着たアレンに優しく抱きしめられていた。
「んっ」
「はい。終わったよ」
「……はぁ。ありがとう」
レイモンド様の家で魔力暴走を起こしてからというもの、私はほぼ毎日のように魔力を調整されている。
初めこそ抵抗したが、こうしてこまめに調整してくれた方が調整時間が短い。つまりアレンの魔力を変に感じてしまう長さも少なくて助かる。
今では毎日の魔力調整に対してとても前向きだ。
「顔色も悪くなさそうだね」
身体を離したアレンにそっと覗き込まれた。
相変わらず眉目秀麗という言葉は彼のためにあるのではないのかと思うくらいのまばゆい美しさに、油断するとうっかり目を奪われてしまう。
アレンが首を傾けると赤髪が靡いて、耳についている薄い青色のピアスがチリッと揺れた。
「今日は耳飾りをしているのね」
「うん。いいでしょ」
アレンが髪を耳にかけて、耳飾りをよく見せてくれる。それは控えめに揺れながら光を受けて煌めいていた。
「そうね。アレンの瞳の色。似合っているわ」
「ふふ、これ実はお揃いなんだ」
「……え」
アレンの言葉に意図せず私の心臓が変に跳ねた。
(もしかしてアレンの好きな人と……?)
私は思わず固まってしまう。
そんな私を事ともせず、アレンはにこりと笑って私の手をとった。目が合うが、思わず顔を逸らしてしまう。
(変な顔はしていないはず。このまま笑顔で流すのよ。なんてことないフリをしないと)
頭の中で自分を落ち着かせていると、左手の指にヒヤリと冷たい感覚を覚える。
「?」
手を見ると、アレンが私の指に指輪を通していた。華奢な指輪にはアレンの耳飾りと同じ石が嵌め込まれている。
「俺の耳飾りとお揃いの石。嫌だった?」
「えっ。お揃いって……私と?」
「もちろん。こうして毎日つけてくれると嬉しいな」
かあっと顔に熱が集まった私を見て、アレンは満足そうに微笑む。
「ふふ。それ、自信作なんだ」
「自信作……アレンが作ったの? これもしかして魔法石?」
「近いけどちょっと違うかな。魔法石じゃなくて俺の魔力で作り上げた石だよ」
「…………へ?」
こういった魔法石のアクセサリーを作るには、まず魔力を吸収してくれる石を用意しなくてはならない。そしてその石に魔力を流したものを魔法石というのだが……
今のアレンの言い方だと、その石から作り上げたような言い方だ。
「石から?」
「うん。俺の魔力って強力だから石に色々と入れようとしたら割れちゃうんだよね」
「割れる……」
「だから自分で石から作り上げるしかなかったんだ。あ、内緒だよ。バレたら王宮の研究員達がうるさいからね」
「…………」
なんとアレンは100%魔法で出来た、人工の魔法石を作り上げたのだ。
(これはもはや国家機密案件なのでは?)
ふとそんな考えも浮かんだが、色々とややこしそうなので考えることをすぐにやめた。
「これでシェリルが大変な時は俺がいつでも駆けつけられるよ」
「そうなの?」
「ふふ。その石、万能だから。安心して俺に守られてね」
なるほど。アレンにとって私は護衛対象。別に何か他意がある訳ではなく仕事の一環として私を守りやすくしたかったのだ。
「………………」
「シェリル?」
頭ではそう理解していても、アレンの瞳の色をした指輪を見ると気持ちが浮かれそうになる。そんな気持ちをぐっと我慢した。
「……ありがとう」
嬉しさを堪えたまま上目遣いでアレンにお礼を言うと、彼に優しく抱き寄せられた。
そして、そのまま額に口付けを落とされる。
「!!」
「ごめん。可愛くて」
アレンは花が咲くような笑顔でこちらを見てくる。
(こっ、この……!!!!)
手や額に簡単に口付けして、からかってくる護衛騎士なんて非常識すぎる。いや、そういえば口にもされたことがあった。信じられない。
本人は無自覚だろうが、私の心を弄んでくるアレンにふつふつと怒りが込み上げてきて指輪を見下ろす。
「……これ売ったらいくらになるのかしら」
「早速商品として見るのやめてよ」
そうこうしていると衛兵から入場の呼び出しがあり、私たちはそっと控え室を後にした。
◇◇◇
「シェリル・フォンク公爵令嬢、ならびにアレン・アッシュフィールド伯爵令息!」
名前を呼ばれて、会場内へと足を進める。
今日の夜会は王宮で開かれる大きなものだが、しっかりとアレンにエスコートされてしまっている。
お父様も何も言わないので護衛を兼ねているから良しとされているのだろう。
あたりを見回すと、正装姿のレイモンド様とマリアベル様に気付く。
今日はレイモンド様が公爵位を受け継いで、初めての公の場だろう。2人とも大勢の貴族たちに囲まれている。
(こんなに人が多いと声はかけられなさそうね)
そんなことを思っているとレイモンド様と目が合った。
「あ……」
「うわ。めざとくシェリルを見つけたね」
「アレン。なんてこと言うの」
横のアレンからは不服そうな声が聞こえる。何故か2人はあまり仲が良くなさそうだ。
ぺこりとお辞儀をしようとしたその時、レイモンド様は徐ろに指を上げた。
「わっ」
その途端、ペパーミントの香りと共に、私の髪がふわりと柔らかく揺れる。レイモンド様の風魔法だ。
レイモンド様は私に小さく微笑みかけた後、貴族たちの挨拶に視線を戻した。
(挨拶のつもりだったのかしら)
「………………」
「どうしたの? アレン」
「別に。飲み物取りに行こっか」
「え、ええ」
アレンが珍しく真顔だったので声をかけたが、すぐに笑顔に戻ってしまい理由は教えてくれなかった。一体なんだったのだろう。
「やあアレン! シェリル嬢!」
足を進めていると、よく通る快活な声が私達の名を呼ぶ。声の主は王族の豪華な衣装を着たクリストフ殿下だった。
「クリストフ殿下にご挨拶申し上げますわ」
「アレンが迷惑をかけていないか?」
「…………いえ、いつも助かっています」
「最初の沈黙が気がかりだなおい」
クリストフ殿下は呆れ顔でちらりとアレンを見たが、アレンは涼しい顔のままだ。
「久しぶり〜、シェリルちゃん」
ふとクリストフ殿下の隣から、殿下と同じくらい煌びやかな服を纏った青年が現れた。
(でた。でたわ……)
──隣国のクラウス・キスリング王子。
紫色の瞳に、星の光を集めたような美しい銀髪。腰まであるその髪を後ろでひとつに束ねている。
「……クラウス王子にご挨拶申し上げますわ」
「やだな〜、堅苦いよ〜」
貿易を国業としている隣国は、様々な加工品を我が国にも輸出している。そして。
「──それで。シェリルちゃんは、いつボクのフィアンセになってくれるの?」
耳元でこそりと囁かれて、笑顔が引きつる。
この王子は、子供の頃からずっと私に求婚してくるのだ。
クリストフ殿下とクラウス王子ですが
字面が似ているため分かりやすいように
「殿下」と「王子」で、呼び方を分けております。




