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22.公爵令息の事情(1)



 フォンク公爵令嬢、シェリル・フォンクがいよいよ婚約者を探すらしいという噂を耳にした。





 「ああ、あの神殿に隠されていた公爵令嬢のことか」くらいの印象だった。





 ──僕自身にフォンク公爵様から手紙が届くまでは。





 手紙の内容は遠回しだがシェリル嬢が僕のことを選んだら、婚約して欲しいという趣旨だった。



 つまり僕は、シェリル嬢の婚約者候補に選ばれたわけだ。



 家同士が対立関係であるにも関わらず、その家の息子へ内密にこの手紙を送ってくるフォンク公爵様に引っかかりを覚える。



 しかしこの手紙は王室の後ろ盾までとっており、これを拒否すると国王陛下や王宮に背いたということになる。



 打診しているように見えるが、これはほぼ命令だ。非常に面倒くさい。



 「はあ。とりあえずはフォンク公爵……いや、国王陛下の望み通り動かねばならないな」





 そうして了承の手紙をフォンク公爵様へと送った数日後。



 次は匿名の怪しい手紙が、僕の元に来た。



 中には招待状と『妹君の病を治せる令嬢がいる。夜会に参加せよ』という内容が書かれていた。



 妹のマリーが病気であることは誰にも知らせていない。どこから情報が漏れたのだろうか。



 そもそもある日突然、マリーが息苦しさを訴え倒れて以降、どの医者に見せても原因不明と言われた病だ。貴族の令嬢に治せるとは思えない。





 『──レイモンドはもうすぐお兄ちゃんになるのよ。産まれたらこの子のこと守ってあげてね』

 『うん! 必ず僕が守ってみせるよ!』



 亡き母と共に、大きなお腹を撫でながら交わした約束が頭によぎる。



 僕の大切な妹。僕が守らなくて誰がマリーのことを守るというのだろう。



 マリーの体調は日に日に悪くなっている。今こうしている間も彼女は苦しんでいる。



 少しでも可能性があるならば行くしかない。



 夜会の主催者も悪い人物ではない。僕が参加するにはやや小さな夜会ではあるが、大きな問題はないだろう。



 僕は藁を掴む思いで、その夜会に参加した。





 案の定、多くの令嬢が僕に寄って来る。しかし話せど話せど、妹の病に関する手がかりはどこからも出てこなかった。



 『妹君の病を治せる令嬢がいる』というのは嘘だったのだろうか。



 もう諦めて帰ろうかとバルコニーで休んでいる時。





 「……レイモンド様、ごきげんよう」



 振り返るとシェリル・フォンク公爵令嬢の姿があった。純粋に驚いた。商売敵の家である僕には声をかけてこないと思っていたからだ。



 「やあ。こういった場で直接話すのは、はじめてだね」

 「そうですわね」



 そんな彼女はアレン・アッシュフィールドの魔力をぷんぷんと立ち込めさせている。



 この状態で、アッシュフィールド以外の者を婚約者候補にする選択肢はなさそうだが。一体どういうことなのだろう。



 僕は心の中で首を傾げる。



 いずれにせよ彼女の婚約者候補となった身だ。丁重に接さねば。



 「家同士がああだと、父がいる大きな夜会では僕たちも気を遣ってしまってね。いつもレディとはもう少し話せたらと思ってはいたんだ」



 そのまま少し会話をしていると、強い風が吹いたのでシェリル嬢にストールをかける。びくっと震えた彼女の反応が意外で、少し可笑しい。



 こんなにもアッシュフィールドの魔力を漂わせているのだ。彼とやることはやっているだろうと思っていたが、どうもそうではないらしい。



 思ったより物腰も柔らかで、今日話したご令嬢達の中では1番印象が良かった。



 とは言っても今後、大きな夜会以外で会うことはなさそうだ。……そう思いながら帰ろうとした時だった。



 「レイモンド様、落とされましたわ」



 なにか手がかりになれば良いと思い、持ってきていたマリーのハンカチがシェリル嬢の手にあった。


 

 そのハンカチを見て僕は驚愕する。



 何をしても落ちなかったマリーの汚れが綺麗になっていたのだ。





 ──もしかして、彼女が……?



 僕はシェリル嬢の瞳をまっすぐ見つめる。



 彼女の瞳は琥珀のような色だと初めて認識した。



レイモンド視点のお話を

2話更新したのち再開します。

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