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19.夢の中で



 気付くと私は父の書斎にいた。



 いつもより少し書斎の机が高く感じる。





 『シェリル。神殿にてお前の魔力を制御できるよう、取り計らってもらえることになった。お前は今後しばらく神殿で暮らすことになる』



 高いところから父の声が降ってくる。



 ああ、これは神殿へ入る前の頃だ。お父様からそう告げられて私は愕然としたのだったわ。



 神殿へ入ってしまえばアレンと会えなくなってしまう。真っ先にそのことを考え、胸がズキリと痛んだ。



 この頃の私は、アレンに対する自分の気持ちをようやく自覚したところだった。



 『そんな……』

 『安心しろ。神殿では魔力暴走の心配はない』

 『アレンと一緒がいいです』

 『シェリル。あいつもアッシュフィールド伯爵家の跡取りだ。そろそろ婚約者を探さねばならん年齢だろう。お前とずっと居てはその機会を逃してしまう』



 諭すようにお父様は答えたが、私にとっては青天の霹靂だった。


 

 (アレンが婚約……?)



 私は頭をふるふると横に振る。



 アレンに婚約なんてしてほしくない。



 だって私は、アレンのことが大好きだから。



 「!」



 (……それなら私がアレンの婚約者になれば良いじゃない)



 神殿へ行く前に彼へ伝えよう。私の婚約者になってくださいと。



 そして2人でお父様のところへ婚約したいと言いに行けばいい。





 この頃の私には、アレンも私のことを良く思ってくれているだろうという自信さえあった。





―――


 



 次にアレンと会えたのは、神殿へ行く前に参加した最後の夜会だった。



 アレンに想いを伝えよう。一緒に神殿へ行けなくてもいい。



 神殿から帰ってきてアレンに私以外の婚約者さえいなければ良いなんていう、そんな傲慢な考えで私は彼を探す。



 (……見つけた!!)



 目に止まったアレンはそっと会場から出て、庭へと行ってしまった。



 私は走って追いかけていく。角を横切ってぱっと開けた庭園に、彼は令嬢と2人で向かい合っていた。



 その姿を確認するやいなや、何か見てはいけないような気がして私は咄嗟に隠れてしまった。



 辺りには背の高い草花がたくさん植えられていたので、身を隠すにはちょうど良かった。


 

 


 そして、あの話を聞いてしまったのだ。






 

  『ごめんね、俺にはずっと婚約を申し込んでいる女の子がいるんだ』





 (……え?)



 頭を鈍器で殴られたような気分だった。



 アレンに好きな人がいたこと。それも婚約を申し込むほどに。




 ……そしてそれが、私ではないことに。




 公爵令嬢である私に縁談の話は絶えない。お父様はそういった話は全て私に共有してくださる。



 その中にアレン・アッシュフィールドの名前があったことはない。



 視界が黒く狭くなっていく感覚に耐えながら、話の続きを聞こうと覗き込んだ。



 相手の令嬢は俯き、顔を歪めながらも震える声で抗議する。



 『で、ですが。アッシュフィールド様に婚約者様はまだいらっしゃりません。そのご様子だと婚約の申し込みは通っていらっしゃらないのでは?』

 『……そうだね……この状況だからね』


 

 私はハッとして口元を手で抑える。この状況というのは、私のもとへ足繁く通い魔力調整をしている状況のことだ。



 他の異性に魔力を流す男性を、婚約相手として認めるような女性はいないだろう。





 (私がいるから、アレンは好きな人とずっと婚約が出来ずにいる?)



 突然繋がってしまった方程式に、私の呼吸が浅くなる。



 アレンが、私のせいで……



 『シェリル様の為に、フォンク公爵家へ通われているお話しは聞き及んでおりますわ』

 『フォンク公爵様に頼まれた時だけだね』

 『……苦労してらっしゃるのですね』



 私は愕然とした。アレンが魔力を流してくれているのは、少なからず私のことを好きでいてくれているからだと自惚れていた。



 もう耐えられなかった。



 そこまで聞いて、私はくるりと引き返した。


 

 一歩進むたびに気持ちはどんどん沈んでいく。



 (知らなかったわ。アレンが好きな人にずっと婚約を申し込んでいただなんて。それが私のせいで通っていなかっただなんて)



 それに私にも、お父様に言われて仕方なく会いに来ていることも。




 私は――何も知らなかったんだ。





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