18.衝動と牽制
魔力調整シーンがあります。
「んんっ……」
お互いの酸素を奪っていくような激しい口付けが行われる。ちゅ。ちゅ。と聞こえる水音が私の頭をぼうっとさせた。
アレンは何度も角度を変えて私の唇を貪っていく。抵抗しようと試みたが力も入らず彼は止まらない。
(拒否したいのに。出来ない)
なされるがまま口付けを交わし、ようやく唇が離れた時には、私もアレンも息が乱れていた。
「はぁっ、はぁっ、アレン……なんで」
「……はぁ……」
アレンは感情の籠もっていない瞳で私を見下ろす。その冷たい瞳に私の背筋が凍った。
そのまま彼は留め具を外してマントを床に落とし、怒気を仄めかすような顔で笑った。
「何その魔力。すっごく鼻につくんだけど」
アレンはそっと私に手を伸ばす。ふわりとベルガモットの香りが漂った。
(あ。駄目だ)
咄嗟に危険を悟った私はベッドから寝返って降りようとしたが、抵抗虚しく両腕をアレンに掴まれてベッドに張り付けられる。
「っひゃあぅ!!」
掴まれた腕から、彼の魔力が容赦なく入ってきた。突然の刺激に思わず私は叫ぶ。
「俺以外の魔力がシェリルの中に入ってる」
「っアレ……アレン……や、やめて」
きっとレイモンド様の魔力のことを言っているのだろう。アレンは知らないから、この魔力が有害なものとでも思っているのだろうか。
「ひゃっ、あっ……アレっ、んっ」
「こんなショボい魔力すぐに消してあげるよ」
これは私が魔力暴走して魔力調整をしてもらった時のものだ、と伝えたいのにそんな余裕を与えてくれない。
アレンは再び、緩く開いた私の口に強引に入ってくる。中を這っては舐められていたその時……
「!! ひゃうっ!」
口の中からも彼の魔力が入ってきた。耐えられない刺激が私を襲い、目尻から涙が溢れ落ちる。
「んっ、んぅ」
「……俺が居ない間、彼と楽しく過ごしていたみたいだね」
「っちが」
私が喋る前に再び強引に口付けをされて、否定も出来ない。注がれ続ける魔力に口の中がジンジンと熱くなる。
「んっ、ふっ」
「彼の家にまで行って、どういうつもり?」
「うっ……んっんっんっ」
アレンの魔力が体内で動きはじめた。それなのに私の中へと魔力を注ぎ込むことも辞めない。
体内で魔力が波打つ刺激なのか、魔力を注がれている刺激なのか、それともこの激しい口付けのせいなのか。
自分がどの刺激に反応しているのかも分からなくなり、急速に身体の中へ熱が溜まっていく。
「――――!」
我慢できずにビクビクと身体が反応した。しかし上から覆いかぶさるアレンの重みで、身体が跳ねることも許されない。
「俺は会えない日があることさえ耐えられないのに」
「んっ! んぅっ」
アレンは口付けの角度を変える度に何かを呟いていたが、もう私には聞こえなかった。
「許さない。シェリルは俺のものだ」
「ん、は……ん」
ベルガモットの甘い香りに包まれながら、与えられる刺激に反応し続けて、顔は高揚し汗と涙でぐちゃぐちゃだった。
「しっかり奥まで抉って、注いで、シェリルが誰のものか分からせないと駄目だね」
「――――っ」
その瞬間、今までにない刺激が身体中から押し寄せてきて目の前がチカチカとした。身体が再びビクビクと跳ねる。
私は言葉にならない喘ぎを繰り返した後、ついに意識を飛ばした。
◇◇◇
「――で、僕に何の用? 急に魔法陣が現れてこの部屋まで転移させられたんだけど」
「シェリルはあの部屋で一体何をしていたんですか?」
防音魔法が張り巡らされた白と金を基調とした部屋。その奥でシェリル嬢が眠っていた。先程まで彼女の中にあった僕の魔力は綺麗さっぱり消えている。
その代わりに、彼女はアッシュフィールドの魔力をべっとりと纏っていた。この距離からでも感じられるということは相当な量だ。
「……見せつけてくれるねえ」
おそらくここはアッシュフィールドの自室だ。あえてこの部屋を選び、僕を転移させたのだろう。
アレン・アッシュフィールド。ゆったりとした雰囲気と華やかな容姿、そして圧倒的な力。まさに欠点などない絵に描いたような完璧な男。
そんなこいつがシェリル嬢に対して、ここまでしつこくて執念深いだなんて。
「早く質問に答えてくれませんか?」
「君に言う必要があるのかい?」
「これは王より拝命されたことですので」
「……王命か」
この件に王宮が動いているということだ。僕が想像していたより大きな事態のようだ。
こちらも王命とならば従うほかない。こいつに報告するのは癪だが、報告先を迷っていたことも事実だ。それに天才と呼ばれるアッシュフィールドなら何か分かるかもしれない。
僕は口を開く。彼女が僕の家に本を取りに来たこと。その時に病に倒れている妹を治してくれたこと。
「黒いモヤが見えると言っていたよ」
「黒いモヤ?」
「そう。僕にも妹にも見えなかったけれど」
その後、見たことがないはずの妹の指輪を言い当ててそれを浄化したこと。そして彼女が魔力暴走を起こしたこと。
「……その指輪は今どこに」
「浄化後、灰のようになって消えた。壊れたら消失するという点では魔道具のようだったよ」
「そうですか。ありがとうございます」
「心当たりがあるのかい?」
「仮にあったとしてもレイモンド様に言う必要はないかと」
柔らかく、しかし完全に拒否された。僕は小さく微笑んでアッシュフィールドを見る。
「シェリル嬢は白魔法使いと言っていたけれど、果たしてあれは本当に白魔法なのかな?」
「…………」
アッシュフィールドの笑顔が深くなったのを僕は見逃さない。前々から思ってはいたのだ。シェリル嬢の周りはきな臭い。
「あれは僕の知っている白魔法とは別物だった」
「ご存知の通り10人居れば10通り。魔力の練り方から発現のさせ方まで違いますからね」
「……へえ?」
お互いの笑顔が深くなっていく。
「僕は君が王宮騎士になったことも引っかかっていた。君のような天才魔法使いなら王宮魔術師になるだろう」
「魔法はもう極めてしまって面白くないですしね」
「しかも今はシェリル嬢の専属護衛なんだって?」
僕は両手を上げて戯けた素振りをしながら、気にせず話を続ける。
「僕は君が彼女の護衛騎士になったのも、王宮から彼女の見張り役を任せられたからかと思ったよ」
「ふふ、想像力豊かですね」
アッシュフィールドは笑顔のままだ。
(……本当、胡散臭い奴だなあ)
「シェリル嬢は王立学院に通わず神殿内で教育を受けたそうだね。神殿での教育なんて偏りがありそうだ。そして今も家庭教師。情報操作なんて動作ないよね」
「…………」
「彼女は周囲を信じきっているみたいだけれど。君は何か知ってるんだろう? アッシュフィールド」
きっとシェリル嬢に知られては不都合な事実があるのだろう。
はぁとため息をついたアッシュフィールドは、ゆっくりとこちらへ向かってきた。そして僕の肩をそっと叩く。
「――それ以上、踏み込むな。俺の意志関係なくお前の首と身体が離れるぞ」
アッシュフィールドに耳元で呟かれたのと同時に浮遊感に襲われ、僕は元いた自室へと戻っていた。
「………………はぁ」
息を吐いて、天井を見上げる。
「闇深いねえ」
ポツリと発した言葉が、部屋に響いた。




