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#23 泣くわけにはいかないから



 11月の下旬。

 その日は午後の講義が休講になり、お昼を食べずに学校を出た。


 家に帰るつもりだったけど、この日はバイトも入れて無かったので、久しぶりに美味しい物でも食べてから帰ろうと、乗り換えの駅で途中下車した。



 改札口から一人で駅構内のショッピング街に向かって歩いていると、背後から突然肩をトントンと軽く叩かれた。


 ビックリして振り返ると、エリコさんだった。



「チカちゃん久しぶり。元気そうだね」


「あ、あの、その・・・」


「あぁごめんごめん。前に怒っちゃったもんね。私の事怖いよね」


「いえ、そんな」


「お詫びにさ、パンケーキ奢るから一緒にカフェ付き合ってよ」



 えええ!?

 突然声掛けられたことにも驚いたけど、以前の様な距離感に凄く戸惑う。



 でも、断れない。

 エリコさんは私と遭遇したのは偶然なんだろうけど、声を掛けようと思う程に私から聞きたいことがあるのだろう。


 勿論、それは、私がタイチを裏切った話だ。



「分かりました。 でも奢って頂かなくて大丈夫です。自分の食事代は自分で払えますので」


「真面目かよ!?チカちゃん、そんなにカタブツだったっけ???」


「・・・カタブツ」


「あ、また言い過ぎた。ごめん!別に馬鹿にしてた訳じゃないからね!やっぱパンケーキ奢る!ここはお姉さんに持たせて!さ!行こう行こう!」



 エリコさんはそう言うと、強引に私の腕に手を絡ませて引き摺る様に歩きだした。



 死刑台に連行される罪人の様な状況なのに、もうこのやり取りだけで、恐怖よりも懐かしさで泣きそうだ。




 ◇




 駅ビル内の1階にあるカフェに入った。

 パンケーキが有名らしい。



「ココ、一度来てみたかったんだよねぇ。チカちゃん、何にする? 私はフルーツとイチゴのソースにしようかな」


 これからどんな話をするのかと考えると、とてもじゃないけど喉を通りそうに無かったけど、店内に充満する甘い香りに包まれながらメニュー表の写真を見ていると、糖分摂取の欲求がまさった。



「マロンクリームのとダージリンのミルクティーにします」


「りょーかい。じゃあ注文しちゃうね」


「お願いします」



 注文を終えて店員さんがテーブル席から離れると、緊張してきた。


 まずは自分から謝罪しなくては。



「あの、タイチとのことで、色々とご迷惑お掛けしまして、申し訳ありませんでした」


 私が頭を下げてそう言うと、エリコさんはじっと私を見つめ返していた。


「今は後悔して反省してます。まだまだですけど、毎日自分を戒めてます」


「そっか。 まぁその姿見たら分かるけどね。 綺麗だった髪もバッサリだし、服装だってすっかり大人しくなっちゃって」


「はい」


「その内、尼寺に修行しに行きそうな勢いだね」


「それで許されるなら、迷わず行くと思います。でも今は大学があるので」


「そりゃそうだ。 本音を言うとさ、チカちゃんがタイチと別れた後に反省してようが開き直ってクズみたいな生活してようが、どうでも良いんだよね」


「はい・・・」


「二人が別れたことだって二人の問題だし、私が口出す話じゃないからね」


「はい・・・」


「でも、『タイチに送ってほしい』って食料品を毎月持ってきてくれてるでしょ? そのお礼だけはきちんとしたかったの」


「はい」


「毎月ありがとうね。 でも申し訳ないけど、タイチにはチカちゃんからだって伝えてないの。あいつのことだから、チカちゃんからだって知ったらムキになって受け取り拒否とかしそうでしょ? だからウチの家族で相談して、「チカちゃんからだと伝えずに渡そう」ってことになったの」


「おばさんから少しだけ聞いてます。 最初は捨てられるの覚悟してましたから、タイチに伝えなくても十分です」


「あー捨てるのだけは絶対にないね。ウチは食べ物粗末にすると鉄拳制裁だったから。震災の時とかも大変な思いしたからね」


「はい、分かります」


「タイチね、食料品送ると毎回『マジ助かる!』って必ずお礼の連絡くれるんだよ。 でもウチが用意した物じゃないから、ウチの母親も毎回返事に困りながら『大事に食べるんだよ!』って苦し紛れに言ってるの。面白いでしょ?」


「いえ、凄く・・・凄く、嬉しいです」



 ダメだ。

 本題に入る前に泣きそう。

 ほんの少しでもタイチの近況が聞けて、嬉しい。

 それに、私が送った食料品がタイチの役に立ってることも。



 まだ何も話せてない今は泣くわけにはいかないから、天井を見上げてグッと下唇を噛みしめて堪えた。






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