その3
「今日は、昨日みたいに無茶しちゃダメだからね。」
「わかってるってば。」
2回戦の前の控室でイアンに注意する。
相手は自己強化系と支援系が得意で前衛と後衛がはっきりとわかれている。
戦い方は私たちに似ていて、
違いがあるとすれば、私たちよりもさらに接近戦に特化している所。
私は遠くから魔法球を打ったりするけれど、
相手の支援系がそういったことをした場面は少なかった。
「正面からやりあったら絶対勝てないんだからね。わかった?」
「はーい。」
相手は2重に強化し武器も使わず素手で戦うモンクスタイル。
技術ではイアンが勝っているだろうけれど、
力負けしてしまうのは目に見えていた。
だから、作戦としてとにかく障壁を削っていくことにしている。
障壁自体は強化できず、かつ受けられるダメージ量も変わらないので、
先に削り切れればいい。
「本当に支援魔法はいらないの?少しなら使えるけど。」
「うーん。やっぱりいつもと感覚が違うのはやりにくいなぁ。」
「ならしょうがないけど。」
正直心配だけれど本人が嫌がるならしょうがないと自分に言い聞かせる。
そして、また控室から闘技場へ向かう。
昨日よりも一段と歓声が大きくなったような気がした。
そして試合が始まった。
イアンと相手の前衛があっという間に距離を詰めて剣と拳が打ち合わされた。
拳が押し勝ちイアンはよろめきながら後ずさった。
まだ支援魔法はかけられていないはずなのに、
自己強化だけで力負けしてしまっていた。
私はすかさず魔法球を後衛に放つ。
でも前衛の拳に砕かれてしまう。
その間に支援魔法がかけられるところを確認してしまった。
「イアン!!気を付けて。」
体勢を整えたイアンは剣を左肩に担ぐように構えて前衛へ駆け出し、私もあとに続いた。
前衛が踏み込みながら右拳を突き出してきたので、
イアンは剣を盾のように構えるとそのまま弾き飛ばされる。
追いかけて追撃しようとしていたので、
私は魔法球を放ち牽制する。
魔法球は片手で受け止められる。
立ち止まった所に体勢を立て直したイアンが剣を振り下ろす。
剣も片手で受け止められる。
私は前衛の足元から魔法炎を作り出した。
前衛はダメージを嫌って後ろへ逃れようと身をよじる。
イアンが剣を止められていた片手を掴み動きを止め、私が魔法炎を大きくすると、
前衛は逆にイアンを掴み私に投げてくる。
イアンがバク転をしながら体勢を立て直し、
私があわてて横に避けると、前衛は私に拳を向けてきた。
魔法壁を張る。すぐに砕かれる。
両腕を前に。真正面から殴られる。
後ろからイアンが剣を振る。私はまた炎を作り出す。
前衛はイアンを背負い投げする。イアンは身を翻し着地する。
私は後ろに下がる。前衛は私を追う。
剣が振るわれる。壁を貼る。壁が砕かれる。剣が止められる。
逃げる。追う。振るう。放つ。弾く。
同じような攻防がしばらく続き、前衛の動きが突然変わった。
それまでどんどん前に出てきていたのに、後ろに下がり後衛に近づこうとしている。
イアンはそうできないように後ろに回り込むように妨害する。
さらに私は魔法矢を構え後衛に放つ。
前衛の動きに迷いが出た。
イアンは攻撃の手を緩めない。
私は魔法矢にさらに炎もこめて後衛を狙う。
前衛は後衛をかばおうとしている。
矢を放つ。前衛は後衛の前に飛び出し、拳で矢を弾く。
すかさずイアンが前衛に剣を叩き込む。
障壁が砕け散り、前衛を打ち破った。
残っているのは後衛のみ。
前衛が破れるのを見てすぐに魔法球を放ってきたので、私も魔法球を放つ。
魔法球が正面からぶつかり合う。
私の魔法球が打ち勝ち、後衛に直撃する。
さらに残りの魔力を全て費やし、魔法球で追撃する。
後衛の障壁を破るのに、それほど時間はかからなかった。
私たちの勝ちが決まり、昨日よりも長く歓声が続いているように感じた。
試合が終わった後に、対戦相手にどうして突然動きを変えたのか聞いてみると、
障壁が薄くなっていたのに加え補助魔法が切れかかっていたとのこと。
体制を立て直そうとしたところを、
イアンが妨害することで、そのまま障壁を削りきれたようだった。
ともあれ、これで決勝戦まで進むことが出来た。