その1
「やったー。やったね、イアン。」
「ちょっと、ソニア。」
私は、幼馴染のイアンと一緒に王国の競技会へ参加していた。
そして予選突破が決まり、嬉しくてついパートナーのイアンに抱きついてしまっていた。
イアンの困った様子が可愛い。
ずっとこのままでいても良かったけれど、係員に促されて闘技場をあとにする。
控室に戻り、まとめていた金髪をおろし、薄緑色のローブに袖を通す。
ハンドバックに杖をしまって控室を出ていく。
イアンはもう待ってくれていて、この辺では珍しい真っ黒な短髪に、
いつも通り紺色のローブを着ている。
祝勝会をするためにイアンと一緒にレストランへ向かう。
王国外でも有名なレストランでコース料理を楽しむことになっていた。
でも、なんだか私だけはしゃいでいる感じがしてしまってる。
「イアン?もっと喜びなさいよ。」
「ん?そういわれてもなぁ。」
「もぉ。何よそれ。まぁ明日になれば、いやでもわかるわよ。みんなの驚いている顔が目に浮かぶわ。」
「そうかなぁ?」
「そうなの!!」
競技会。それは魔法の技術力を競うもので、王国主催で毎年開かれている。
さまざまな部門があり、私たちは戦闘競技のペア部門にエントリーしていた。
魔法。それは世界樹のエネルギーを、杖を通してさまざまな能力として扱うもの。
魔法は誰にでも扱えるもので、生活のいたるところで使われていた。
でも何故か、イアンは魔法を使うことができなかった。
魔法の訓練は10歳から始まるものだったが、
イアンだけ最初に習う簡単な魔法さえ発動しなかった。
そのせいで、イアンは昔からひどい扱いを受けていた。
幼いころから、イアンのことをよく知っている私は、それが悔しくてしょうがなかった。
なのに本人はあんまり気にしていないみたいで、それがどうしてなのかわからなかった。
だってイアンは、他の人より断然強いのに。
今でも昨日のことのように思い出せる。
14歳の時、課外学習で魔物の住む森にみんなで入った。
みんなが魔物を相手に立ちすくんでしまっている中、イアンだけは臆さず魔物に立ち向かっていった。
魔法も使えないのに、剣一本で。その姿を見た時から、私は
「ソニア?どうしたの?」
突然話しかけられた。変な事を考えていたせいか、頬が熱く感じる。
「なんでもない。」
「そう?」
「なんでもないの。」
「あっうん。」
「そんなことより、絶対に優勝するからね。わかってる?」
「それは、わかってるよ。」
「わかってない。絶対わかってない。魔法を使わないで、剣だけでみんなを納得させるには優勝しかないの。」
「まぁ、そうだね。」
「まったくもぉ。とにかく、優勝だからね。」
魔法を使えない以上、イアンを認めさせるには優勝が必要になる。
予選突破だけでも、驚かれるだろうけど、それで認められるとは思えない。
予選は限られた人しか試合を見ていないから、
その突破だけだとあとから難癖をいろいろとつけられてしまう。
最終目標は、優勝の実績を使って騎士団に入団することだ。
騎士団に入るのに一番大切なことは、はっきり言ってしまえば強いことだけ。
だから魔法が使えなくてもなんとかなりそう。
本人にそのつもりがあるのか不安だけれども。
「そんなに心配しなくても大丈夫だよ。ソニアと一緒ならね。」
イアンは笑顔で、しかも当然の事のように言ってくるから、また頬が熱くなってしまう。
「そ、そんなの当然よ。油断しないの。」
「わかった。わかった。」
満面の笑みを浮かべているのを見ていると、これ以上続けなくてもいいかなと思えてしまう。
私は気を取り直して美味しいコース料理を食べながら、
予選の話で盛り上がり、その後も他愛のない話を続けた。
そして、明日の1回戦に備えて早めに休むことにする。