ダンジョン!?
地球に来てから七日が経過した。
その間、俺は唯野に彼女を作る為にありとあらゆる手を尽くしたのだが、悉く失敗していた。
「ベンジさん、どうぞ」
最早恒例となった朝食のTKG。何度食べても美味い。これがあるだけで、一日頑張れる。
『それでは今朝のニュースです』
テレビではニュースが流れている。毎日のニュースチェックは俺の日課だ。
『〇〇区の中央公園に大きな穴が出現しました』
「中央公園ってウチの直ぐ近くですよ。ベンジさん、野次馬に行って落ちないでくださいね」
唯野がTKGをかき込みながら言う。もっと味わって食べればいいのに、せっかちな奴だ。
「あぁ、大丈夫だ。わざわざ見に行く必要はない」
『穴の中で動物を見たという目撃例もあり、警戒が必要です』
「どんな動物ですかね? モグラとかですかね?」
「モグラも……そうだな。準備しておこう」
「えっ……!? 準備ってどういう意味ですか?」
「準備の意味は"これから発生する出来事に対して、必要なモノを用意したり、態勢を整えたりすること"だ」
「いや、辞書的な意味ではなくて──」
「唯野。ゆっくりお喋りしている時間はあるのか? 」
「あっ、やば。ちょっと急ぎますね!」
「どんぶりはそのままでいいぞ。俺が洗っておく」
「じゃ、甘えちゃいます!」
いつものリュックを背負い唯野は慌ただしく出ていった。
「……行ったか。さて、仕上げといくか……」
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「ベンジさん! ちょっと来てください!!」
大学から帰って来た唯野がトイレの中から俺を呼んでいる。
「なんだ? トイレットペーパーならある筈だぞ?」
「違います! これを見てください!!」
トイレの扉を開け放ち、ズボンを上げながら唯野が叫ぶ。指差しているのはトイレのタンクにある二つのレバー。
「ベンジさん! 黄色いレバーが増えてます! これ、どういうことですか!?」
「何故、俺を疑う?」
「どう考えてもベンジさんが怪しいでしょ!! 増えた黄色いレバーは何ですか!?」
「仕方がない。教えてやろう。それは、幸せの黄色いレバーだ」
「幸せの……レバー……?」
「あぁ、そうだ。そのレバーを回せば、最終的に幸せになれる」
「すみません! "最終的"ってところが引っ掛かります!」
「唯野……。最初から最後までずっとつまらないアニメと、最終回だけめちゃくちゃ面白いアニメ、どちらを観る?」
「あの、ずっと面白いアニメを観たいです!」
「却下だ! 唯野! このままだとお前の人生はずっとつまらないアニメだ!! いいのか!?」
「……そ、そんな……」
「短い付き合いだが、俺は唯野のことを"いい奴"だと思っている。いい奴には最終的に幸せになって欲しい。だから、もう一つのレバーを用意した」
「……」
「唯野……。よく聞いてほしい。いつもと同じレバーを回しても、お前の小便が流れるだけだ」
「はい……」
「はっきり言おう。お前の人生はこのままだとなんの面白味もない寂しいものに終わる」
「うぅ……うぅ……」
唯野の瞳から涙が零れ落ちる。
「しかし! しかしだ!!」
「ひっく……ひっく……」
「今なら! 今なら変われる!! お前は変われるのだ!!」
「はい!」
「黄色いレバーを回せ!」
「はい!!」
唯野はトイレタンクに新しく取り付けられた幸せの黄色いレバーを回した。回してしまった。
「唯野。いってらっしゃい」
便座の上に黒い渦が巻き始める。そして、唯野は吸い込まれた。