罪な彼女
十九時を少し過ぎた頃、アパートの部屋の鍵がカチャカチャと回された。しかしドアチェーンをしているので、扉が完全に開くことはない。
「ベンジさーん。僕です。唯野です。開けてください」
玄関まで行くと、唯野が扉の隙間から俺の名前を呼ぶ。
「本当に唯野か? 唯野の姿を借りた偽者かもしれない」
「そんな筈ないでしょ?」
「本物の唯野なら今朝、TKGを食べた時に何回かき混ぜたか分かる筈だ」
「本物だけど覚えていませんよ!」
「ならば他に証明出来るエピソードはないのか?」
「巨乳エルフが好きな唯野です! これでいいでしょ? 開けて下さい」
「唯野……。開き直るのは違うぞ? ちょっと恥ずかしそうにしてくれ」
「いちいち注文が細かいんですよ! いいから開けて下さい!」
とりあえず本人であることを確認して部屋に入れると、唯野は目を剥いて推し黙る。
「どうした?」
「どうしたって……この人は誰ですか?」
その視線は俺の隣に立つものに向けられている。
「見て分からないのか? 尖った耳に、銀糸のような髪。そして重力に逆らうように突き出た大きな乳房。どこからどう見ても、巨乳エルフだろ」
「まさか……。この人も星流しされてこの部屋に転移してきたんですか?」
「まぁ、そんなところだ。さぁ、唯野。告白しろ」
「えええぇぇ! 何を言っているんですか!? 今会ったばかりの人に告白!?」
「はぁ」
「なんでため息!?」
「マリッグ星の貴族は生まれる前から結婚相手が決まっていたりするんだぞ? 一度会ったらもう深い仲だ」
「そんな無茶苦茶な!!」
怒っているのか恥ずかしいのか、唯野の顔は真っ赤だ。
「でも、タイプだろ?」
「……タイプです」
「付き合いたい?」
「……つ、付き合いたいです」
唯野がもぞもぞし始める。優柔不断な奴だ。
「ならば早く告白しろ。何せこの見た目だ。明日には他の男のモノになっているかもしれんぞ?」
「わ、分かりました! あ、あのめちゃくちゃタイプです! 僕と付き合ってください!」
──静寂。そして。
「ヨロコンデ」
巨乳エルフは片言の日本語で承諾した。
「良かったな。唯野。初めての彼女か?」
「はい! 初めてです!」
「大切にするんだぞ? 具体的に言うと、触ってはダメだ」
「えっ! あっ、宗教とかそういう絡みですか?」
「まぁ、そんなところだ。俺はちょっと疲れたから、寝る。二人で仲良く過ごしてくれ」
押し入れを開けて入ろうとすると、唯野が俺を止める。
「ちょっ! 二人にしないで下さいよ! 何を話していいか分からないでしょ?」
「甘えるな! 相手のことを本当に想っていれば自然と言葉は出てくる筈だ! 巨乳エルフさん、唯野のことをよろしく頼むぞ」
「ヨロコンデ」
巨乳エルフはまたもや片言の日本語で答えた。
「じゃ、今度こそ寝るから」
ピシャリと押し入れを閉めると、暗闇が広がった。
外からは唯野の声が聞こえてる。随分と早口だ。緊張しているのかもしれない。
「あぁ。今日も良いことをしたなぁ」
俺は疲れに身を任せて、瞼を落とした。
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