異世界スマホ
『もしもし、唯野さんですか?』
『……あの、ベンジさん……。講義中なんですけど……。そもそも、応答ボタン押してないんですけど……』
『あぁ、そういう仕様だから。スピーカーにするから』
『えっ……あっ……ちょっと……!?』
手元の魔道具を弄って、唯野の持つ通信機の魔道具を拡声モードに変更する。
『これより、唯野暢のエロ漫画コレクションの分析結果を発表する』
『えっ……!? どういうこと……!?』
唯野の声の向こうからざわめきが聞こえる。本当に講義中のようだ。
『唯野暢の好きなエロ漫画のキャラ。第一位は……巨乳エルフ──』
『嗚呼ぁぁぁぁぁー!! 駄目ダメだめぇー』
ドタドタと走る音がする。どうやら唯野が講堂から逃げ出したようだ。激しい息切れが聞こえる。
『どうした? 唯野? 大丈夫か?』
『大丈夫か? じゃないでしょ! なんですかこのスマホ! 切っても切っても、通話が切れないじゃないですか!!』
『当然だろ? この魔道具は俺からのメッセージを一方的に伝えるためのものだ』
『ひどい! こんな魔道具! 壊して──』
『衝撃を加えると電撃を発するので注意』
魔道具の向こうから悲鳴が聞こえる。唯野が電撃を浴びたようだ。まぁ、軽いものだからすぐに復帰するだろう。
『……はぁ……はぁ。一体、何がしたいんですか? ベンジさんは』
『俺は唯野と仲良くなりたいと思ってだな、唯野コレクションを分析したのだ。その結果を伝えたいという純粋な気持ちで、連絡した』
『そんなのは僕が家に帰ってからでいいでしょ!』
『情報は鮮度が命なんだぞ?』
『同じ講義を受けていた人に巨乳エルフ好きって思われたでしょ!』
『事実だろ』
『講義中に性癖を開陳するやつが何処にいるんですか! せっかく大学デビューしようと思っていたのに!!』
『大学デビュー……? なんだ。もしかして恋人が欲しいのか?』
『そりゃ僕だって……彼女は欲しいですよ……』
唯野が躊躇いながら言う。
『いいだろう。俺がなんとかしてやる』
『えっ……。そんなこと、ベンジさんに出来るんですか……?』
『俺はマリッグ星では愛と破壊の伝道師と呼ばれていたこともある。任せろ』
『破壊はいらないです!』
『まかせろ』
そう言って、プツリと通信を切る。
さて。大見得を切ったからにはなんとかしなければ……。あの地味な唯野に彼女か……。これは難関だぞ。魔道具師として、愛と破壊の伝道師としての実力が試される。
「やってやろうじゃないか」
魔法袋から必要な道具を取り出し、俺は行動を開始した。