星流し
「ベンジ! 貴様を星流しの刑に処す!」
ガラム王国の国王が顔を真っ赤にしながらそう言い放った。
それを聞いて暴れるとでも思ったのか、俺を囲む結界の強度が上がった。国王の横にいる宮廷魔術師が必死な顔をしている。
「何故俺が星流しにならなければならない。俺はいつも民の為を思って行動してきた」
「白々しい! 貴様の魔道具がこの国、いやこの星にどれだけの混乱を引き起こしたと思っている!?」
「例えば?」
「ホッフェルト公爵領の洪水を忘れたか!」
「あれは南部の国境が蛮族に破られそうになっていたから河を増水させて侵略を防いだ──」
「氾濫した河が全ての農作物を水浸しにしただろ!!」
「洗う手間が省けたな。他には?」
「王都の東の森だって貴様の魔道具のせいで死の森と化した!」
「冒険者ギルドにゴブリン討伐の依頼が出ていたからな。森ごと殺したまでよ」
「全てのモンスターをアンデッドに変えただけだろ!」
「討伐方法について指定しなかった方が悪い」
「他にも……! 他にも……!?」
興奮しすぎた国王が苦しそうにしている。
「国王よ。興奮を鎮める魔道具があるのだが……?」
「……いらん!! もう良い!! 星流しの刑を執行せよ!!」
控えていた宮廷魔術師の集団が俺を取り囲んで魔力を練り始めた。足元の魔法陣が怪しく輝き始める。
「ベンジよ! さらばだ!!」
国王の言葉に呼応するように魔法陣が眩い光を放ち、俺の身体を包んだ。そして意識が遠く──。
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「というわけなんだ。まぁ、よくある話だな」
「あるわけないでしょ! 何で僕のアパートのトイレにピンポイントで転移してくるんですか!!」
俺の目の前にいる地味な顔をした若い男が、腹を押さえながら喚く。
「ほう……。ここはトイレだったか。通りで狭いと思った」
「納得したら出ていってもらっていいですか!?」
「俺は狭いところが好きなんだ。落ち着く」
「漏れそうなんです!!」
若い男は顔を紅潮させた。
「ふむ。大便がしたいのか。ならばちょうどいい魔道具があるぞ? 肛門を塞いで──」
「いいから便座から退いてください!!」
腕が引っ張られ、トイレから引き摺り出される。そして男は中に入って勢いよく扉を閉め、勢いよく……。
少しして若い男はホッとした顔でトイレから出てきた。
「まだ居たんですか? 異世界転移の件を信じる信じないは別として、申し訳ないですけど僕の部屋からは出て行ってくれませんか?」
「そ、そんな……。星流しの刑になった孤独な異世界人を外の世界へ放り出そうというのか……!?」
「急に可哀想な人を演じても無駄です! さっきまでの会話で大体どういう人か分かりましたから!!」
「そんなに興奮するな。汚い部屋だが、座ってお茶でもどうだ?」
「僕のアパートなの!!!!」
──ドンッ! と壁が鳴った。騒いだせいでアパートの隣の住人が怒って叩いたのだろう。
「静かにした方がいいぞ」
「はい……」
「ほら、そこに座れ」
「はい……」
男は観念したように絨毯の上に座り、項垂れる。
「俺はベンジだ。マリッグ星からやって来た。お前の名前は?」
「タダノです。タダノトオルっていいます」
「どういう字を書く?」
「えっ、字ですか?」
不思議そうな顔をしながらも、ローテーブルの上にあった紙に名前を書いてこちらによこす。「唯野暢」と書かれてある。
「これでタダノトオルと読むのか。勉強になった」
「そういえば、なんで日本語話せるんですか?」
「星流し、つまり地球送りされることが決まってから勉強したんだよ。地球上の主な言語は話せるように準備してきた。地球は流刑地としてはメジャーだから、教材は沢山ある」
「うへぇ……。めちゃくちゃハイスペックじゃないですか……。イケメンだし……。頭良いし……。性格は悪いけど……」
「ところで! この星では客を押し入れに住まわせる習慣があるらしいな?」
「いや……それはアニメの話で」
「漫画やアニメは日本人にとって教科書だろ?」
「微妙に否定出来ない!!」
「ほら、騒ぐとまた壁を殴られるぞ? 大人しく押し入れを見せろ」
「えっ、いや……。ちょっと見せられないというか……」
唯野の視線の先には引き戸がある。あそこが押し入れか……。
「どうせスケベな本やグッズが隠されているのだろ? しかも非合法な。俺も男だ。唯野の罪は不問にしよう」
「合法なやつです!」
「ほう? ならば問題ないな」
素早く立ち上がり、押し入れを開ける。そこには裸の女のイラストが表紙の本が綺麗に整頓されて並んであった。
「あっ……!」
「意外と几帳面だな。しかし、俺がここに住むには些か狭い。悪いが、どかすぞ」
「駄目ですよ! 僕の大事なコレクションなんですから!」
「大丈夫だ。捨てるわけではない。それどころか、この世で一番安全なところにしまってやろう」
そういって、腰の魔法袋を指さす。
「えっ、そんな袋に……どうやって……?」
「これは魔道具でな、ほぼ無限にモノを格納することができる。所謂、アイテムボックスってやつだ。ほら」
押入れの中の本棚を触り、魔法袋を意識して格納する。あっという間に俺が住むスペースが出来た。
「ほ、本当に異世界人なんですね……」
「やっと信じてもらえたか。では、これからよろしくな」
「いや、押入れに住まれたら困ります!」
「なんだ。家賃か? それなら心配するな」
魔法袋を漁って、この星では価値のある筈の金塊を取り出す。これぐらいあれば十分だろう。
「ほら。とっておけ」
「えっ……! これは本物?」
「本物だ。嘘だと思うなら鑑定してもらえ。出所を疑われないように気を付けてな」
受け取った金塊を神妙な表情で眺める唯野。
「す、少しの間だけですからね。何処か別の当てが見つかったら出て行ってもらいますから」
「あぁ、はいはい」
「ちゃんと聞いて下さい!」
「聞いてる聞いてる」
そう言いながら押し入れに入って中から引き戸を閉める。視界が真っ暗になった。
「ふぅ……。落ち着く」
異世界転移をした影響だろう。ふっと眠気に襲われる。
「とりあえず眠ろう」
押し入れの外から聞こえる唯野の独り言を聞きながら、意識を手放した。
軽い感じで連載しようと思います! ブクマと評価、よろしくお願いします!!