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秋の深まる中で

作者: 入江 涼子

 あたしはアスファルトの道をトボトボと歩いていた。


 先程に友人の八枝(やえ)と別れたばかりだ。八枝とはもう中学生時代からの仲で。確か、部活が一緒だったかな。もう今から二十年も前の事だけど。

 あたしと八枝はクラスが違っていたが。入った部活が同じだったので仲良くなるのに時間はかからなかった。

 そんな事を思い出しながら家路を急いだ。


 帰宅すると家の門を開けて玄関前まで行く。引き戸に鍵を差し込んで開ける。ガチャリと音が鳴った。もうわが家は築35年は過ぎている。古い家屋ではあるが。それでもあたしにとっては生まれ育った場所だ。今後もここで暮らしていきたいとは思っている。


「……ただいま」


「……おかえり。八枝ちゃんとしゃべくってきたんか?」


「うん。八枝な、久しぶりに会う()たけど。元気そうやったわ」


 そう地元の言葉で出迎えてくれた父と話す。あたしが暮らすのは関西圏にある小さな町だ。帯戸(たいこ)町と言う。適度に田舎で適度に都会といえる所だが。不便な点を挙げると。スーパーやコンビニが遠いし電車のいわゆる駅もない。自動車と自転車が必須になっていた。


「……蓮花(れんか)。考え込んで。どないした?」


「何でもない。夕飯、作るわな」


「おう。頼むわ」


 父が頷いたのであたしは早速、夕食の準備のためにキッチンに向った。


 今日は中華風にした。ホイコーローに炒飯、かきたまスープの3品だ。父は「うまい」と言いながら完食する。あたしもだが。


「うん。蓮花の作った料理は美味いな。腕を上げたって思うで」


「……ありがと。父さん、中華料理は好きやしな」


「おう。また作ってや!」


 父はニカッと笑いながら言った。あたしは食器を片付けるために立ち上がる。流し台にスプーンやお皿などを持っていく。食器洗いをしたのだった。


 一通りの事が終わるとお風呂に入る。髪や身体を洗い、浴槽に張ったお湯に浸かった。


(……ふう。あー、やっぱり冬に近いからな。お湯に浸かるのが一番やわあ)


 そう思いながら浴槽の中でまったりした。しばらく浸かったらザバリと音を立てながらも出る。引っ掛け棒にあるタオルを取り髪を最初に拭いた。そうしたら次に身体を拭く。全身の水気が拭き取れたら両手に持ってドアを開けた。湯気が立ち上る。その中で脱衣場に出た。

 手早く服を着て肩にタオルを掛けた。前髪などをヘアピンで留めた。そのまま、洗面台に取り付けてある鏡を見ながらお化粧水の瓶を取る。蓋を開けて手のひらに中身を出す。そのまま、ほっぺたや額などに軽く叩き込んだ。

 終わると瓶の蓋を閉めて元あった場所に戻した。次に乳液などを塗り込んだらヘアピンを外す。そうしてからまたタオルで髪を拭いた。後で浴室の窓を開けたりしてから自室に戻った。


 寒いのでエアコンの暖房の温度を上げる。そうしたら蛍光灯を消灯してお布団に潜り込む。ふと昼間に八枝と話した事を思い出した。


(そや。八枝は彼氏とケンカしたとか言ってたな。そのグチを今日は延々と聞かされたんやけど)


 ふうとため息をつく。幸せが逃げるとは言うが。それがどうしたって感じだ。あたしはあまり迷信めいた事を信じていない。けど八枝の怒り方は尋常じゃなかった。

「もう、あいつとは別れてやるわ!」とか息巻いていたが。どうしたもんやら。あたしはまんじりとしない中で眠りについた。


 翌朝、あたしは午前6時頃に目を覚ます。眠たいながらも起き上がり部屋にあるカーテンを開けに行く。

 よし。今日は八枝と会えたら彼氏と仲直りするように言おう。そう小さく気合いを入れた。自室を出て洗面所に行く。

 軽く歯磨きや洗顔を済ませたら。自室にまた行き、パジャマから普段着のグレーのトレーナーや黒のズボンに着替えた。鏡台に行き、お化粧水やらをまた塗りこむ。髪もブラシで整えた。

 一応、もう一度チェックしたらキッチンに行った。朝食の準備に取り掛かった。


 父が起きてきたので手早くコーヒーを淹れて近くに置く。キッチン台に行き、トースターで焼いたパンやお皿に盛り付けたハムエッグ、バターやジャム、サラダをお盆に乗せた。父や自分の分をテーブルに置いていく。全てをそうしたらお箸も添える。

 椅子に座ったら父と両手を合わせた。


「「いただきます!」」


 そう言ってから父はお箸でハムエッグをつつく。あたしはパンを取ってバターやジャムを塗ってかじりついた。

 うーん。やっぱりジャムはマーマレードに限るわな。そう思いながらまたかじりついた。


 食事が終わりあたしはバイトに行く準備を始める。メイクを軽くして髪もセットした。服もお出かけ用に着替えた。カバンに必要な物を入れたら玄関に向かう。


「……行ってきます!」


 あたしは父に対して声をかけた。奥から「行ってらっしゃい!」と返事が聞こえる。どうやら読書をしていたようだ。自室兼書斎にいるな。そう見当をつけながらもベージュのパンプスを履いた。引き戸を開けてバイト先に行った。


 その途中でスマホに電話があった。画面を確認したら八枝からだ。急いで画面の操作をして出てみた。


<……もしもし。蓮花?>


「うん。そうだけど」


<あの。昨日はごめんな。私もどうかしてた>


「謝らんといて。彼氏とケンカしてまう時は誰にでもあるんやし」


<そやんな。彼氏、卓也には謝っとくわ。話を聞いてくれてありがとう>


「……あたしは何にもしとらへんよ。ただ、話を聞いとっただけやのに。まあ、八枝の役に立てたんなら良かったわ」


<うん。あ、もしかして。今は忙しかった?>


「忙しいいうか。バイトに行こうとしとったとこなんやわ」


<そうなんや。ホンマにごめん。もう切るな!>


「うん。八枝。卓也君と仲直りできるように願っとくから。バイバイ」


<わかった。ほな!>


 電話はそこで切れた。あたしはほっと胸を撫で下ろす。八枝が卓也君と仲直りできますように。胸中で願いながらバイト先に行った。


 バイトが終わり帰宅した。メイクを落として着替えたら。また、八枝から電話があった。

 それによると彼氏の卓也君とは仲直りできたらしい。一時は別れるかもと思っていたが。無事にうまくいって良かったと安堵する。あたしには彼氏はいないが。いつか、できたらいいなとは期待していた。

 ちなみにあたしは今年で26歳になった。3年前までは一応はいたが。ケンカ別れして以来、彼氏がいない。まあ、しゃあないわな。そう考えながら自室のカーテンを開ける。綺麗な半分に欠けた上弦のお月様が見えていた。

 あたしは見惚れながらも「来年は彼氏ができますように」と祈ったのだった。


 ――End――

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