第1章 第3話 負け犬たち
「ぶっ殺すぶっ殺すぶっ殺す……!」
物騒な台詞を吐きながらメイドさんが部室中を歩き回る。気持ちはわからないでもないが、納得してもらうしかない。
「俺の命令は絶対だ。なんせ俺は♤隊のキング。スートの四天王の一人だからな」
「うううう~~~~!」
悔しそうに地団駄を踏むメイド服姿の鷲宮をソファに座りながら眺める。一対一の結果瞬殺してしまい、俺は鷲宮の上司という立場になってしまった。別になりたくてなったわけではないが、なってしまった以上部下のしつけはしなくてはならない。ということで矢木さんに着せていたメイド服をスライドさせ、自分が一番下だということをわからせることにした。
「だいたいお前がやってたことだろ? 自分がやられて嫌なこと他人にするなよ」
「黙れ変態! こんなサイズの小さいメイド服なんか着させて……セクハラで訴えてやる……!」
「…………」
お子様体型の矢木さんが虚無の瞳をパツパツになったメイド服へと向ける。まぁそんなことよりだ。
「別にキングだからって偉ぶるつもりはないよ。でも俺は2年で矢木さんは3年。お前は1年だ。敬語くらいは使えるようになろうな」
「わかってますよ……先輩……!」
全くわかっていない強気な視線が俺を突き刺してくる。まぁこういうのは時間をかけて直していくものだろう。今は耐える時だ。
「いやー、仲良さそうでなにより」
煽り睨み虚無っている俺たち3人を見て愛染が笑う。本気で言ってたら元魔王とは思えないくらい見る目がないが、話を切り替えるための繋ぎの言葉だということは明らかだった。
「それじゃあこれからの活動の話をしようか」
そう。正直俺はまだわかっていない。スートという悪の組織のことを。
「目標はもちろん世界征服。だからそのために動きたいんだけど……」
「あのな、愛染。わかってるとは思うけど俺らじゃ世界征服なんて無理だぞ。なんか変な能力をもらったけど、俺は普通の縄を出すだけで、鷲宮は飛べない羽が生えるだけ。……矢木さんは何ができるの?」
「ぁ……声が大きくなります……っ」
か細い声で堂々と言われてしまった。そっか……声が大きくなるのか……よかったね……。
「もちろんだけど、武力で世界征服なんてする気はないよ。そもそも私が魔王の力を全部使えたとしても無理だしね」
「そうなのか?」
「そりゃもちろん。スイッチを押すだけで街を滅ぼせて毒を放つ兵器に、巨大な鉄の塊。果てには宇宙から放たれる槍……。正直言ってこの世界の方がよっぽどファンタジーだよ」
「そっか……それもそうだな」
俺が想像するファンタジー世界では、確かに現代兵器に勝てるイメージはない。そう考えると今が形だけでも平和を保ってるのってすごいんだな。
「武力で世界征服なんてどんな国にも不可能。だから思想を広めて世界征服しようと思うんだ」
「……なんか宗教染みてきたな」
「むしろ近いね。今の常識を壊すって言えば一番わかりやすいかな。現代では死刑を取り入れてる国って少ないでしょ? でも江戸時代じゃ敵討ちなんていう私刑も公に取り入れられていた。その違いは常識や価値観。人を殺してもいいって教え込まれたら、きっと今の私たちは人殺しに何の感情も抱かないと思う。つまりそれをやるんだよ。新しい常識。私たち悪人が幸せになれる常識を広めて、当たり前にする。それが最終目標だね」
「…………」
なんだか本当に思想的になってきた。悪の組織らしいと言えばらしいが。俺は受け入れることができるか。愛染が言う、理想の世界を。
「だからそのとっかかりとして、君たち3人の復讐を完遂させる。それが第一目標だよ」
復讐……復讐か。
「俺だけじゃなくて、鷲宮や矢木さんも?」
「そういう人間を選んだからね。佐助は縛りたい。育は羽を生やしたい。梨子は大きな声を上げたい。深層心理でそう思うような出来事があったんだよ。まずはその望みを叶える。それが君たちの一番したいことでしょ?」
イラついていた鷲宮も、おどおどしていた矢木さんも。おそらく俺も、同じ顔をしている。
「復讐……していいんだな」
「もちろん。私たちの暮らしやすい世界を作ろうよ」
愛染と同じ、悪い顔を。
ここまでがプロローグとなります! 次回からは復讐編が始まります! いじめられていた佐助くん。そして深い闇を抱えている鷲宮さんに矢木さん。彼らが報われるストーリーにしていくつもりです。
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