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魔蒸技師アルバート・ライト  作者: 根古千尋
序章
9/11

彼女の事情

少しずつ書き上げています。も少しペース早めたいけれどちょっと時間を作るのに一苦労

 カチカチと時計の音が室内に響く。

 時計が指している時間は午前3時。

 少し重い空気の流れる部屋に居るのは3人の男と1人の女性。


 女性は所在無さげにしていて落ち着かない様子だ。


 沈黙を破るようにアルが口を開く。


「それで、貴女は一体何者で、何故あんな輩に追われていたのか説明をいただけますか?」


 女性は肩をビクッとさせながら涙目になっていく。


「こらこらアルバート。尋問のような聞き方はお止めなさい。彼女がどういった人なのかはまだ解りませんが、少なくともこの様子では君が可能性として考えているような悪い人ではありません。」 


 ……………確かに…………師匠の言う通りで、不法入国者だとしてもなんというか、悪意があるようには見えない。

 むしろ何かしらの理由で不法入国せざるを得なかったのか?

 ダメだな僕は。

 ただでさえ怯えている女性に追い討ちをするような真似をしてしまった。

 深く反省しないといけない。


「すみません。師匠の言う通りです…お嬢さん、ごめんなさい。輩を追い返したことで僕も気が立っていてしまっていた…。まずはお名前から教えていただけますか?」


 アルは軽く頭を下げながら目の前の女性の瞳を真っ直ぐ見つめる。

 その真摯な態度を見て、女性は口を開く。


「私は……アイナと言います……。」


「アイナさん。素敵なお名前ですね。」


 アルが安心させるために笑顔を作り微笑みかけるとアイナは顔を赤らめ俯く。


「……うーん…流石おばあ様譲りのプリティフェイス。破壊力が高い。罪作りですね。」


「アル……お前そんなことやり続けてたらいつか刺されるぞ。」


 うるさいやい。

 話が逸れるから止めてよ。


「ええと…故郷はどちらですか?東洋の方とお見受けしますが……。」


 ショートの黒髪、黒い瞳、東洋の顔立ち。

 十中八九極東のあたりの人だ。

 職人さんの中にもこういった顔立ちの方は居る。

 極東辺りの職人さん達はみんな凄腕だ。

 手先が器用で勤勉な国民性があると聞いたことがある。

 でもアイナさんの服装は……なんというか、あまり見たことがない服装だ。

 礼服のような…何かしらの正装のように見えなくもない……でも、その、少し短めのスカートが気になる。

 む、いかんいかん。

 なんだか最近刺激的な女性が多くて困るな。


「は、はい……その、ニホンと言う国で…」


 ………ニホン?

 ………………ニホン………?

 そんな名前の国、極東方面にあったっけ……?


「あぁ、なるほど。そうですか。それでは間違いなく貴女は極東の島国の生まれなのですね?」


 エルヴィスはそう言うが、アルバートには全く聞き覚えがない。

 エドワードをちらりと見やるが、彼も首を捻っている。

 彼も外国には詳しいはずなのだが、思い当たらないようだ。


「失礼します師匠。ニホンとは?」


 1人だけ解っているような反応を見せているエルヴィスへと話しかける。


「ええ。極東に位置する小さな島国の別称です。日いずる国。一般的にはヤマトという名で知られていますね。」


「あぁ、それならわかります。なるほど、ヤマト。小国ながら工業が盛んで大陸にも負けない技術力と、なによりその気骨が凄い人達が多くいる国ですね?ヤマト魂…でしたか?列強国相手にも退かない精神が根付いている。」


「そう、そのヤマトです。いやぁ、久しぶりに行きたくなりますね。懐かしい。」


 この人ホントに世界中旅してたんだな…。


「なるほど、解りました。しかしヤマトとは……かなり遠い所からお越しになりましたね?何か事情が?」


 "極東"と言うぐらいなのでホントに遠い。

 地図の端、下手すれば世界の裏側だ。

 見たところこんな華奢な女性が何も持たずに1人で渡るような距離でもない。

 心当たりは1つあるけど……。


「は、はい。その、わからないんです………。」


 わからないときたか。


「わからないとは?状況的にはあの野盗達に連れ去られてきたのでは?」


 アルはそう言う。

 横に居るエドワードもうんうんと頷いている。


 そう、不法入国の疑いがあり、なおかつ状況を見るに、あの野盗たちがアイナを連れ去り、口に出すのも憚られるが慰みものにするか、身売りさせるために連れてきたと考えるのが妥当だ。


「いえ、その…あの人達に連れて来られたのは間違いないんですが……あの人達に捕まっていたのはここ3日ぐらいなんです。……その前は気付いたら全く知らない国に居て……。その、そこでも追われていたんです。でも、優しい方が私を国の外に逃がしてくれて………でも、違う人達にまた捕まってしまって………。」


 唖然とする。

 こ、これは一体?

 アイナさんは何者?


「それは……大変でしたね……。その、捕まってしまってから大丈夫でしたか……?」


「バッ…!アル!レディになんてことを聞くんだ!」


 エドワードが咎めるとアイナは涙ぐみながら俯く。


「ご、ごめんなさい!あぁ、僕は何てことを…!こんなだからダメなんだよな……!」


「い、いえ!大丈夫です!その、何もされてはいません!……何かされそうにはなったのですが…「売り物になんねぇだろ」って……。」


「……………本当にごめんなさい……………。」


 アルはうちひしがれ、極東の職人に教わった、ヤマトに伝わる伝統的な謝罪のポーズを取る。

 それはまさにジャパニーズドゲザ。


「あー…お話がややこしくなるのでそれについては後にしてもよろしいですか?」


 エルヴィスがそう言う。

 その言葉にアルは立ち上がり、アイナも涙を拭った。


「よろしい。では、アイナさん、野盗に捕まる前に気付いたら違う国に居たと仰ったが、もしかして貴女はこの陣の中に立っていませんでしたか?」


 そう言い、エルヴィスは紙に紋様を描いたものを見せる。


 その紋様はアルバートとエドワードにも見覚えがあるようで2人は目を見開く。


「お前それ……!」

「師匠、それは…!」


 その2人の様子を見、何かとんでもないことなのかとアイナは不安になりつつも返事をする。


「細部はわかりませんが恐らくこういう魔方陣……?のようなところに居ました。」


 そこに描かれていたのは紛れもなく魔方陣。

 そして少し魔術をかじったことのある人間ならばすぐにそれがとてつもない規模の召喚陣であることが見てとれる。


「ちょ…!そんなバカな!だって師匠!僕は専門ではないけれど、これがとんでもない規模のものなのは解ります!だってこんな……!この書き込みは魔獣を呼び出すどころのものじゃない!これは……!」


 エルヴィスが掲げている紋様を見たアルは冷や汗を垂らし、エドワードは言葉を失う。


 彼が見せている召喚陣はそれほどまでに強大で禍々しい。


 それもそのはず。


 魔術最古の記録にあり、災いの始まりとも呼べる召喚陣。

















 悪魔の召喚陣がそこには記されていた。



















「そうですか…やはり……。」


 エルヴィスはそう呟く。

 アルバートとエドワードは顔面蒼白になり、呆然としている。

 アイナは事態が理解出来ていないのか、オロオロとしている。


「そ、そんな……じゃ、じゃあ彼女は……。」


 怯えたようにアルはアイナを見つめる。


「いいえ。断言しますが違います。私が描いた最古の悪魔の召喚陣と全く同じものではないでしょうし、彼女は間違いなく悪魔ではない。悪魔は異形の者です。悪魔特有の禍々しい障気も一切感じられない。ですが……。」


 エルヴィスがちらりとアイナを見る。

 ただ事ではない様子に少し怯えるアイナにエルヴィスは話しかける。


「貴女……特別な力を持っていますね?」


 アイナはびくりと肩を震わせる。


「それは……。」


 彼女は言い淀むが、エルヴィスは続ける。


「あぁ、いえ。心配なさらず。それを知ったところで私達にはどうすることも出来ません。と、言うよりは貴女にとっては都合が良いかもしれませんよ?なにせこの家はなんだかんだで政府に顔の聞く良家でして。ここに居れば平穏な暮らしを提供出来るやもしれませんよ?まぁ、主人はアルなのですけれど…。」


 と、エルヴィスはアルの方へと顔を向ける。


「し、師匠。流石に出来ることと出来ないことはありますよ?」


「はっはっはっ!まぁ、聞いてみましょうよ?ね?」


 屈託のない笑顔でエルヴィスは言う。

 そして、他には聞こえないようにアルに小声でそっと耳打ちする。


「それにほら、彼女とても可愛らしいじゃないですか?ふふふ、私には解りますよ?彼女、とても君の好みでしょう?」


「ちょ…!師匠!ふざけてる場合じゃ…!」


 正直どストライクです。

 小柄だけれどスーツのようなあの服装越しでもわかる、とても大きいわけではないけど、男性の好きそうな大きさの胸がとても気になります。


 そうじゃなくて。


「と、とにかく!師匠の言う特別な力ってなんですか?」


 顔を赤らめながらも方向転換。

 危ない危ない。

 油断すると年相応のスケベ心が出る。


「それは彼女に直接聞いてみませんか?」


 エルヴィスはアイナに向き直り、改めて問う。


「恐らく、貴女が追われる原因にもなったのでしょう。事情をよく知らない第三者でも、この召喚陣で呼び出された…いえ、むしろ誘拐ですかね?そうする価値が貴女にあったのだと思わざるを得ません。」


 アイナは俯き、不安そうにエルヴィスを上目遣いで見つめる。


「ですが、ええ、約束しましょう。貴女が何者であったとしても、ここから無下に追い出すつもりはありません。助けたからには最後まで責任を持ちます。そうですね?アルバート。」


 普段のおちゃらけている様子から一転し、真面目な顔でアルを見つめるエルヴィス。


「……はい。それは間違いなく。……ここまでの様子からしても彼女は何かしらの事件に巻き込まれた被害者です。1人の男としてそんな彼女を放り出すわけにはいきません。」


 それに応え、真っ直ぐにアイナを見つめる。

 アルのそんな瞳を見て彼女もまた、決意したかのように口を開く。


「私は……治癒魔術が使えるようなんです。」


「な…………。」


 絶句する。


 聞き間違いではないのか?

 彼女は活性魔術ではなく治癒魔術と言ったのか?

 それは


「治癒って………。し、師匠?」


 エルヴィスに問い掛ける。


「治癒ときましたか……。それはそれは……アイナさん。貴女、私達が思っている以上に苦労していますね……。」


 治癒魔術だって……?

 だって、だってその魔術は……。


「王国聖教会の教主にしか継承されていない、この世界ではただ1人にしか許されていない奇跡だな。」


 エドワードが落ち着くように努めながらも冷や汗を垂らしそう告げた。

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