召喚魔法の“召喚”感が欲しい
召喚。単語の意味をネット辞書にて引くと、“人を呼び出すこと”とされている。
呼び出すだけ。その呼び出しに応じるか否かは、呼び出された本人に委ねられる。当然呼び出しに応じないことも、当然あるのだ。
召喚魔法は創作物の中だけではなく、現実においても過去、試みを続けられてきた事例もある。少し調べれば出てくる秘密結社や、少々毛色が異なる“降霊術”も、言ってしまえば召喚術の類だろう。
小説家における召喚魔法と言えば、[異世界転移]ジャンルにて散見される。物語開始、主人公を現実世界から異世界に引き込む魔法陣など、一度は見た描写ではないだろうか。
昨今ではフィクションの中で語られる召喚魔法だが、さて如何なるプロセスを踏まえて行われるのか?筆者の妄想も多分に含むが、以下の工程はおおよそ間違いないものではないかと自負している。
[手順その1:魔法陣の作成と詠唱]
前提として、ここでは召喚対象を呼び寄せることができるとする。何らかの要因により、召喚対象が召喚に応じない場合があるからだ。
昨今のゲームやフィクションで見られる魔法陣の役割は、召喚対象を呼び出すための門である場合がおおい。しかし嘗ての召喚魔法に於ける魔法陣の役割は、召喚対象を呼び出すものではなく召喚対象から自身を守る意味合いがあったそうだ。しかしそこはフィクション、魔法陣から召喚対象が出現するほうが見栄えもいいし、格好も付く。創作のお約束に甘えるとしよう。
なお、真っ新な状態だと何かしらの媒介や導がないと狙った召喚対象を呼び込むのは難しいものと思われる。魔法陣や召喚方法にに細工をするか、召喚する環境そのものを媒介にするなどの工夫が要るだろう。
[手順その2:召喚対象と契約]
前提として、此処に於いて召喚した召喚対象は召喚者に従順なものとする。自分より弱いなら従わない、機嫌が悪い、そもそも凶暴などの要因によって召喚者に危害を加える場合もあるかもしれない。
契約の内容は多種多様ながらGive&Takeが理想的だろう。召喚対象側にも利益があれば、積極的に力を貸すモチベーションと理由付けにつながるからだ。
[手順その3:契約の履行]
此処で初めて召喚魔法、召喚師の花形と相成る。召喚対象に契約の履行を命じるのだ。
さて如何だろう?賛否や工程の抜けは多少あれど、大きくイメージを外れる手順ではないはずだ。
問題はこの全行程を戦闘中に行うとなると...まぁ使い勝手が悪い。召喚師単独では召喚工程が終わるまで命が危機に曝され、そも召喚も成功するとは限らない。ならパーティーを組んではどうかと聞かれればば、余程の理由がないかぎり召喚魔法よりは一般的(?)な魔法の方が自分らの被害も少なく済むだろう。翌日には「君はクビだ」と宣告されるに違いない。
それでも召喚師を主役に据えて戦闘を行うのならば、いくつかの工程は事前に終わらせておくことが望ましいだろう。魔法陣はその場で描かずにストックしておく。契約は前もって済ませる。召喚に応じてもらえるように召喚対象とコミュニケーションを取っておく、などなど。
では召喚魔法における召喚対象とはどういったものが良いのだろうか?
[召喚対象:無機物]
ゴーレムや魔剣といったファンタジー特有の無機物から現代武装の象徴である銃など。
凡そは主人公が持つ大容量のインベントリに放り込まれてたりする。が、手元にないものを呼び寄せる以上呼び方として“召喚”はそう間違いでもあるまい。
【メリット】基本的に召喚の拒否がないこと。意思がある魔剣やゴーレムなら召喚拒否もありえるが、基本的にはコミュニケーションの必要もなく召喚者の意に反しない。召喚者に負担を掛けない召喚対象ともいえる。
【デメリット】召喚した上でもうワンアクションが必要なこと。召喚した魔剣を振るう、ゴーレムを起動する、若しくは指示を出すという追加のアクションが要求される。
画にはなるかもしれないが、戦闘中のワンアクションは場合によって重要度が跳ね上がる。構成段階である程度の調整が必要になるが、そこは著者の腕の見せ所だろう。
[召喚対象:精霊]
ゲームや小説において世界の構成を担う“力ある上位者”。神の血脈だったり自然だったり、あるいは担い手であったり。ともかく共通するのは“力を持つ意志”であること。水の精霊や火の精霊など、その力は原初や元素に根付いているものであり、極めて強力な召喚対象と言える。
【メリット】言うまでもなくその出力、火力こそが最大のメリットに他ならない。精霊の力を借りれるとは、どうあれ自然の一部を借り受けるに等しい。また作品の世界観における精霊の立ち位置によっては、その存在が強力な交渉カードになることもあり得る。
【デメリット】火力と引き換えのMP消費を除けば、契約そのもののハードルの高さだろうか。精霊の立ち位置や力量によっても変わるだろうが、上位者特有の無茶振りや精霊特有の感性からくる条件など人種にこなすには厳しい程度の契約内容が望ましい。大きな力を得るには、相応の試練も必要だろう。
[召喚対象:妖精]
精霊より人に近く、出力こそ精霊に劣るも多様性と小回りに関して勝る。日本における妖怪もこのカテゴリー...かもしれない。
自然の一部や精霊の末端であったり、人の伝承や細かい思い込みから生じたりと設定次第でその方向性は大きく変わる。また悪事を働く[邪妖精]と呼ばれるタイプも存在し、絡むだけなら凡そ“隣人”といって差し支えない程その存在は近しいものが多い。
【メリット】言うなればその使い勝手の良さ。家を守る妖精、採掘する妖精、靴を作る妖精などその特性は人間臭いものも多数存在する。その広い用途こそ妖精種のメリットに他ならない。
【デメリット】妖精種はコミュニケーションが取りやすいが、あんまり気に入られるとチェンジリングに巻き込まれる可能性がある。また非常に気まぐれな種や接触すると危害を加えに来る種もあり、最も近い隣人でありながら細心の注意が必要な種であったりもする。
[召喚対象:悪魔]
召喚魔法に於ける原点、悪魔。創作物で有名なのはソロモンの悪魔だろうか、72柱の悪魔は得意分野がある程度固まっており、状況によって呼び出す悪魔を選びやすい。ルーツを辿れば神として崇められていたものや、他の国の神に括られたものなども多い。故にその火力、膂力は他の召喚対象と比較しても頭一つ抜けていても何も不思議はない。
【メリット】出力や火力を除けば“契約の絶対性”が売りの一つ。契約自体も簡単に結んでくれる場合が多く、献身的に尽くしてくれるだろう。...契約主を堕落させるために。
また、人が知るべきでない知識をあっさり教えてくれるのも悪魔種の魅力である。が、その辺の線引きを契約者がしっかり持たなければ待っているのは破滅である。
【デメリット】“悪魔”は人の心の隙間に入り込むプロである。言うまでもなくその危険性は高い。
献身的なのも知るべきではない知識を齎してくれるのも、そもそも巨大な力を持ちながらあっさり契約してくれるのも契約者の行く末をより凄惨なものにするためである。契約というその手綱の先は悪魔の首輪ではなく、自身の理性に繋がっていることを忘れてはいけない。
[召喚対象:幻獣・魔獣]
獣の上位種。ないしは、知性を持つ獣。小説家になろうで最も目にするであろうこのカテゴリーの代表と言えば間違いなくフェンリルかドラゴンである。テイマー系の主人公の隣にいる場合が多いだろうか。それらの他に巨大な蛇やカエル。コウモリなど、神話を紐解けば見知った姿の魔性、神性も存在するだろう。
幻獣・魔獣の違いは物語にもよるものの、凡そ“人に対して敵対的か否か”という区分が散見される。プライドの高いものも多いが、それを打破できる腕の強さ、若しくは騙くらかせる舌の強さが求められる。強きものに従うのが世の習わしであるならば。
【メリット】獣ベースの種である為か、一度契約を交わせば協力的である。協力的というのがポイントで、契約内容以上の働きをしてくれる場合も多々ある。また獣ベースの多様性と言うべきか、主人の役回りに合わせた種を選ぶことでそのキャラクター性をバックアップしてくれる。魔女に対しての黒猫。忍者に対しての蛇や蝦蟇のように。
【デメリット】そもそものエンカウント率が非常に低い...筈なのである。大型のものが多く、その身を隠す(休める)為に標高の高い山や巨森の深部等にねぐらを構えることで外敵に見つからないようにしている...筈なのである。
また契約を結ぼうにも野生の掟に従い、自身より強いことを求められることが大半である。故に契約難易度の高さこそデメリットと言えよう。
[召喚対象:霊魂(死者の魂)]
ネクロマンサーの領域。召喚術というよりは降霊術の類。シティシナリオブレイカーにしてサスペンス要素を全否定する外道の御業。
【メリット】多くは召喚対象の生前の知識や技術、供述を引き出すために使われる。場合によっては召喚対象者の秘密を口にさせることもできるだろう。
【デメリット】長時間の使用は召喚者に精神的な失調を引き起こす場合が多い。同様に召喚対象にも異常を引き起こしやすく、長く留めると悪霊化する場合もある。当然ながら物理的な戦闘力は皆無であり、戦力として数えるに値しない。
長くなったが如何だろうか?昨今の召喚魔法に“召喚”感が足りないと思った、ニッチな方々の参考になることを期待する。