ローファンタジーの舞台設定について
今回はダンジョンが生えたローファンタジー世界に於いて、舞台設定を考える。
具体的には『民間人が武装してダンジョンに入れるようになった日本の、それに至るまで凡その歴史と期間』をある程度矛盾なく取りまとめたいと考えている。参考になれば幸いだ。
物語上必要な項目としては
□ダンジョンの発生
□冒険者ギルド
□冒険者ライセンス
□冒険者育成学校
上記が挙がると思われる。(指摘があれば順次追加)
これを一般人である“民間側”、国会や行政を預かる“政府側”の2つの側面から紐解くものとする。
①現代にダンジョンが生える。
スタート地点。日常が非日常に侵食される第一歩。
発生そのものの背後がなく、内部構造は多種多様多岐に及ぶが、人類に敵対的で殺傷行為に抵抗がない生物が存在し、資源転用可能と思われる物質物資が存在する構造的空間。以下これを“ダンジョン”と呼称する。
ダンジョン第一号が生えた場所や複数生えたか如何に寄っては、民間側と政府側の対応速度が違ってくる。が、凡そこう言うのは民間側の動きが速い。仮に2025年現代でダンジョンが発生しようものなら、速攻でSNSに拡散されて瞬く間にトレンド入りだ。(=世界にダンジョンと言う存在が認知される)
この辺りで政府側、この場合は警察組織に通報が行くだろうか。不審物の通報があった場合、警察側の挙動は『周辺の安全の確保』『周辺の封鎖』『実状の確認』『専門家を入れての調査』が主となる。勿論この時点でダンジョンの専門家などいないため、中から出てきたダンジョン資源等は研究所に送られることになるし、当然モンスターとも接敵する。
以上により、ダンジョンの中身を一番初めに接触するのは民間側、検分するのは政府側であるのが妥当だと思われる。後は政府側のあり様にもよるが、『民間人を危険に晒すのは如何なものか?』と言うのは本音でも建前でも一言目に出てくるものだろう。そして恐らくはダンジョンであると公表され(現時点では未知の危険生物が跋扈する危険地帯、程度の認識)、民間人は近寄らないように理解を求める、という流にはなる筈だ。
☑ダンジョンの発生
②民間側がダンジョンに侵入する。
民間側からのダンジョンの危険視、その第一報。現代で言うなら配信業を生業にしている人間がその堰を切る。SNSで噂になってる場所に行ってカメラを回し、ダンジョンのモンスターに襲われる。その好奇心は血を伴って危険性を世界に知らしめるのだ。
ここで初めて行政側はダンジョンの封鎖の強化、罰則化に踏み切るだろう。しかし複数のダンジョンが生えていた場合、封鎖を抜けてダンジョンに潜る民間人も出てくるのは想像に難くない。危険地域の指定と封鎖、地域住民の避難勧告やその説得。罰則の設定、警察や自衛隊などの協力などを考えると法整備も結構な時間がかかるものと思われる。
このイベントの発生は、だいたい①の初めから約1〜2週間以内。3週間もあれば罰則の設定までいかなくとも、ダンジョンの出入り口を封鎖できるとは思われるので切りよく一ヶ月程とする。
③政府側、ダンジョンの内部に向けて調査を開始。
生活圏内に発生した未知の洞窟か遺跡か。こう言うのに最も着手が早いのは日本ではなく海外だと思われる。今日も明日も食うに困る人間が多く、もしかしたら武器も手頃にある。誰の手も入ってない未知の領域には一攫千金の可能性がある、そんなもんが見つかれば今の生活からおさらば!短絡的思考から積み上がる屍と、それに伴い蓄積される情報は慎重・安全主義の社会では不可能な速度で積み上がる。ましてやそれが機密扱いされるなら国家間で共有されるはずも無い。そうなるとあらゆる作品の中、ローファンタジーの日本は海外から“ダンジョン後進国”とか言われるのも、それなりに納得感はある。
内ゲバや各党の反対を押し切り、漸く政府が重い腰を上げてダンジョンの内部への調査に取り掛かる場合、より装備が充実している自衛隊の導入は自明だ。此処で重火器の制限や撮影機材の影響等が確認される。
余談ではあるが、作品によっては銃器の有効性が認められない、撮影機材が機能しないなどのダンジョンもあるが、皆様はどうお思いだろうか?此処の扱いは場合によっては銃の普及等の可能性がある分岐点だと思われる。作品に合わされたし。
②のダンジョン封鎖から着手自体は早い筈だ。だがダンジョンの内部調査に関しての予算や部隊の編成などの準備期間に、早くても1年〜3年程かかるのではないかと思われる。
このまま何事もなければ政府側がダンジョンを封鎖、以降は国家事業として国がダンジョンを管理する世界観も考えられる。(自衛隊に新たに確立されたダンジョン攻略部隊、国家主導のダンジョン攻略、資源の発掘、ダンジョン素材の研究etc)
しかし民間人がダンジョンへ入り、活躍する土壌としては弱い。故に次のイベントが必要になる。
④何かしらの原因によるスタンピード
何かしらの原因でモンスターがダンジョンの外へと進出すること。単数複数は問わないが、概ね後者での状況を指す場合が多い。これをスタンピードと呼称する。
テンプレートではあるが、この手のファンタジー作品に於いて分かりやすい記号でありイベントである。ダンジョンからモンスターが溢れ出して現実に進行する、と言う旧世界の崩壊。安全という概念が遠のく新世界の誕生日。ハッピーバースデー!
此処の対処如何に寄っては、作品の地名や地図に大きな特徴が出ることになる(後述)
共通項目:自衛隊や警察部隊の壊滅。
全滅である必要はないが、それに近い状態である。行政側の力の減衰が起こる、と言うこと。ダンジョンを封鎖、管理、運営するマンパワーが削がれるイベントになる。
また民間側としては大きく人口の後退が起こる。これはスタンビートが終わったあとの復興にマンパワーが足りないことを意味する。
この災害が何処で、如何なる規模で起こったのか?それにより何が起こったのか?ローファンタジーの世界観において、我々の世界と物理的に異なる場所を明確に作り出せるポイントである。(首都の移動、日本列島を横断する亀裂、封鎖区域の設立etc)
後々民間がダンジョンに介入できるようになる土壌の構築にして、国家がダンジョンに入る民間を管理する体制へ移り変わる歴史の変換点。
共通項目:モンスターの処理。
どうあれこの未曾有の危機は終結する前提であり、なら如何にして終わらせるのかという話。
・英雄による鎮圧
ある意味最もなろう系。政府側が把握してなかった民間側の勇者が現れてスタンビートが起こっているダンジョンを制圧。外に出てきたモンスターを討伐して集結させるパターン。これが後々英雄扱いされて教科書に載ることになる。
・兵器による鎮圧
そりゃぁもう、核である。自国に核攻撃と言う字面が既に終末世界。そうでなくてもとんでもねぇ爆弾等の大量破壊兵器の導入を行う。少なくともモンスターは一掃できる(はず)。問題はダンジョン内はノータッチな上、本当に核攻撃を決めた世界線なら放射能に汚染されるので区画の閉鎖は確定。土地の復興には100年を超える時間がかかる上、世界史に残るレベルの反面教師として長い事後ろ指を指されることになる。
・他国の介入
他国のダンジョンで活躍してるチームや、軍隊の投入。如何なる手段であれ、モンスターは討伐され一時的な平穏は訪れる。ただし他国のハンターが居座ったり民間人とトラブル起こしたり、そもそも内政干渉のリスクまで考えるとまず取りたくない手段の一つ。
3つほど例を挙げたが、当然スタンビートの規模や解決方法によっては復興完了までの期間に大きく差異が出る。1都市程度の範囲で民間の英雄が収めたなら、周辺都市のインフラ等が生きているのを込みで考えれば大きく見積っても10年も掛からないだろうし、県を3つ跨いだスタンビートに破壊兵器投入で収めたなら、当然復興な100年コースも見えてくるし地形も変わる。最終的に、あなたの主人公が立っている世界は如何なる風になっているのか。それに沿うようにおおよその内容を決めるといいだろう。
⑤復興の裏側
スタンピードの震源地は復興に向かうとしても、世界は慌ただしく動き続ける。スタンビートの原因解明、自衛隊警察組織の人数減衰によるダンジョン封鎖の終了と補充の為の公募、民間人がダンジョンへ入ることへの法整備の急務etc。漸く舞台設定のゴールも見えてきた。
政府側の動きとして、先ずは当然現在確認されるダンジョンの場所と数の確認から始まる。また今後のダンジョンの封鎖、解放に向けての話し合いが行われるだろう。当然話の都合上ダンジョンは民間人に解放するが望ましい。頭数の減った自衛隊に警察組織、封鎖するにも追いつかないマンパワー。新たな利権を嗅ぎつけた政治家等、ダンジョンの解放の理由付けとしてはそう難しくない。やむ無しとダンジョンが一般開放される流れになる。
さてそうなると次善の策、ダンジョンに入る一般人の選定基準と管理に話が移る。もうお分かりだろう、冒険者ギルドの設立に繋がるわけだ。民間人の管理に関して、現実世界をベースにするローファンタジーは実に容易い。ギルドを窓口にして現実で言うマイナンバーカード等が丸々流用できるからだ。ライセンスの雛形としてはこれ以上のものも少ない。
☑冒険者ギルド
現実的な話、適性のない民間人を訓練もなしにダンジョンに放り込むのは倫理的にも有り得ない。詰まり免許制になるのだが、現実的に考えて間違いなく未成年は外される。どんなに甘く考えても18歳が最低ラインだ。であるならば、18歳で卒業となる高校生としての16歳〜18歳の期間を、そのまま冒険者としての育成に充てるのが大変効率的だ。
思春期も終わるか否かの若人を命の危険が常の冒険者にするのは、控えめに見ても狂っている世界観ではあると思う。だが存在するならそれを目指す人が絶無ということも、まぁないだろう。また冒険者育成学校と銘打って入るものの、その技術、知恵の蓄積には膨大な時間と試行錯誤が必要になる。学校である以上それは知識と技術の教育の場であり、教える側としてのノウハウを蓄えるのにも長い時間が係ることだろう。
現実的な所だと、退役した自衛隊員が在籍して身体の鍛え方や集団行動の基礎を教える所を出発点に雛形が作られる筈だ。(=ダンジョンに入るなら複数人からなるパーティーが基本。また卒業後も同じパーティーを組むなど、育成学校卒業生特有の意識や考えも普及していくことになる。)
④の裏側で進行するこの項目、法整備やギルドの箱を形にするだけでも早くて10〜20年。育成学校としての定着やノウハウの蓄積まで考えるなら、50年はかかるものだと思われる。
(第二次世界大戦後の日本の経済的な復興が何年かかったのかを参考にしようとしたが、何と10年から15年程だったらしい。当時アメリカからの支援や特需で爆速の復興が成されたとの事なので、それらが無い場合を加味。その上で新法の制定や新しい建築物の製作を含めて50年位ではないかという換算である。)
☑冒険者ライセンス
☑冒険者育成学校
①のダンジョン発生から③の政府のダンジョン調査まで1年から3年、長くても10年。スタンビートが発生から終息時を含めて、その中心部の復興が10年から100年(場所や終息手段により変動)。それ以外のダンジョンの所在地にギルドの建物の建築や法整備に10から20年。学校としての成立するくらいの知識技術の蓄積に50年程。以上を纏めて、
ダンジョン発生からスタンビートの中心部周辺の復興完了まで、
(1or3or10)+(10〜100)=11年〜110年
その他ダンジョンが発生した地域にギルドの配置、冒険者学校にノウハウが溜まるまで、
(1or3or10)+(10〜20or50)=11年〜60年
書いてて思ったが、イマイチしっくりくるような、こないような。とは言え現代2025年から60年前となると1965年、当時の資料は大抵白黒写真である。街並みの変化や技術進化の速度など一様に比べようも無いが、納得出来なくもない時間感覚ではなかろうか。何なら、何かしらの技術革新があって普及してもそう可笑しくない年月に思える。オートドライブの配信ドローンとか。(ちなみに110年前の1915年は大正デモクラシーの真っ只中である。時間感覚的にはもうよく分からない。)
ともあれ今回は、ダンジョン発生から60年もあれば法整備の完了や冒険者ギルドの設置、専門学校での知識や技術の供与が行われる凡その環境が整うと結論する。
ツッコミどころや指摘もあるかもしれないが、筆を執る人の助けになると幸いである。




