俺らの異世界攻略本(仮)
昨今のご時世ゲームの攻略は何を参考にするかと言われれば攻略サイトに動画などが文字通り星の数ほど存在する。だが自分がゲームゲームと囀ってた頃、攻略情報と言えば週刊誌の記事やゲーム雑誌が出している攻略本だった。WIKIのように集合知が制作する攻略サイトと違って誤字脱字に抜けている情報やバグなどもあったりして、今にして思えば編集部と攻略班の努力が偲ばれる。攻略本を携えて、若しくは記憶するほど読み込んでしてVR世界転移する作品を見つけたときは少しばかりノスタルジーに浸ることもあった。
では攻略本を携えるのはVR世界だけなのか?折角なら異世界転移ものでも使えないものか?
今回の草案はそこを出発点とした、未完成の攻略本を携えての異世界転移ものである。
[導入]
テンプレートな異世界召喚をベースとして、簡単に前日談を少し挟むのが良い。内容としては幼いころに自分の机に置いてあった大学ノート、それに異世界の内容が記されているというもの。汚れていて年季の入りも凄くて臭いもこびり付いていたノート。物語りが綴られているのではなく、『○○に××を持っていけ』とか『△△には近づくな』といったものと、一番初めの頁に書かれていた年月日と凡その時間。表紙裏の『親に見つかるな、この日にはこのノートを持ち歩け、あと筆記用具』の指示等々。そして異世界に召喚された時に、このノートがある種の“予言の書”であることを確信する。
[主人公]
何処にでもいる青年でも少年でも。狙ったターゲット層に合わせて設定するべし。
また、ノートを過去に送る手段を考える事。“過去の自分にものを送る”を保有能力にするとノート以外に未来から送られているアイテムがあるかもしれない。が、そうすると一番初めの未来の自分が凄く苦労することになる上に旨味がない。=過去にノートを送る動機がない、となる。その辺の説得力の補完が必要。当然これは二番目、三番目の自分も同様である。
【ノートの正体】
手描きの攻略ノートの正体は未来からの手紙。恐らくは数多あった未来からの贈り物。だから俺“ら”の異世界攻略本である。
主人公Aが自身の人生を記載→主人公Aの過去である主人A´にノートが移動。主人公A´はこのノートを元に自身の行動を決定して先代に倣い記載&終生→主人公A´の追加記載があるノートが主人公A´´に移行、以下ループ。というのが真相。主人公が何代目かは筆者が決める事。
その他
・何度も読み返している内に筆記に使用しているものがページによって違うことに気づく。(→分岐した未来の軌跡。初めの内は現代に売っているシャーペンやボールペンだが、芯やインクがなくなれば現地のものを使わざるを得ない。その筆記具、この場合はインクだろうか。インクの質が地域によって違うものであるなら色合いや線の細さによって変わってくる。
・地図とノートの内容から、先に転移系の魔法や道具か高速で移動できる乗り物の存在を疑う。(→存在してもいいが、無い方がノートの違和感の演出に一役買える。
具体的には地点Aと地点Bが移動すると数年単位で離れていたりする、など。その癖地点Aと地点Bで起こる出来事が事細かく記載されているなら疑問を抱かせるには十分だろう。
・この主人公が過去に送ったノートを原因として致命的なエラーが発生するなら、その展開も面白い。そのエラーこそを物語のラスボスに据えてもいいだろう。
[お披露目]
お披露目ポイントはほぼほぼ上記のまま。この謎の大学ノートはなんぞや?からの予言の書じゃーん!の流れが話の掴みである。そこからノートの内容の検証に入るが、呼び出した国のお偉いさんの名前だったり、転移した街の配置や看板が示す職業などがいいだろう。
また、ノートの性質上パーティではなくソロで動く方が自由が利く。が、そこは主人公の性格に委ねてもいい。
[ヒロイン]
ヒロイン枠は多岐に渡る。集団召喚ならクラスメイトの可能性もあるし、現地人かもしれない。
ただこのシュチュエーションで一番面白いポイントは、ノートに嘗ての自分の伴侶の記載がある場合である。何せ実質的にかつての自分の奥方(=自分の好みの女性)なども出てくる場合があるからだ。なんならノートにはそれに嫉妬する記載があるかもしれない。嘗ての自分が愛した相手なのだ、今の自分が惚れ込んだとしても特に矛盾はない。勿論ノートに記載がない人を選ぶのも良いだろう。
[日常パート]
ノートそのものは暗号ではないので普通に日本語で読める。魔法やアイテムによるヒントや答えがそのまま書いているので、強力な魔法やアイテムの取得難易度は低い。逆に取得難易度が高くなるのは攻略本に書いてない部分。つまり未知に挑む場合である。
しかし文化や文明は一つの流れの元にある場合が多い。未知に挑む場合でも攻略本の中に書かれた他の地域の文化がヒントになる場合もあるだろう。
[戦闘パート]
ある意味攻略本の本領パート。自分が習得した魔法や技術の試験からモンスターの効率的な倒し方から剥ぎ取りポイント等々。何ならノートに記載されているお勧め魔法に対して違う自分からの賛辞や修正なども書き込みがあってもいいかもしれない。そこから魔法やスキルを選ぶのも攻略本の活用としては満点だ。
ボス相手なら文字通り猛威を振るうだろう。...が、攻略本に書かれてないなら苦戦を強いる頃ができる。極端に生活圏が違ったり、突然変異だったり。また攻略本に頼りすぎてピンチに陥ったり。あくまで、“未完成な”攻略本なのだから。マンネリ化してきたなと思ったら、ぶち込んでみてもいいだろう。
[葛藤]
攻略本を活用するに関して不安を覚えるのは、現代人に於いて攻略本とは当然ながら【ゲームを効率的且つ自分の目的とするエンディングに至るためのもの】であること。それは転じて【現実を攻略するための攻略本に対する質疑】に他ならない。
言うなればこれは、『自分が望む人生を歩むためのレール』でもあるのだ。自分と趣味趣向が全く同じ他人という自分が歩んだ軌跡は、若しかすると今の自分が望んだものなのかもしれない。しかしそれは他人である自分が歩いた轍なのだ。
では、今の自分はどうするのか?嘗ての自分が歩んだ轍を踏むのか、全く他の道を選ぶのか。それが最大の葛藤項目になるだろう。
まぁそれはそれとして、番外やオルタナティブとしてそのルートを描くのも面白いかもしれない。嘗ての自分であれ、今の自分であれ、枝分かれしたIFは話のネタとしては持ってこいだ。
[終点]
葛藤の項目でもあったが、既存のエンディングに向かうか新規ルートの開拓に向かうかで終点は大きく変わる。既存ルートの枝分かれを描くのもいいし、それにより攻略本の充実を図るのもそれはそれで面白い。
だが、一番いいのはやはり新規ルートの開拓だろう。それをノートに記載して次の自分に送る。そして次の自分がまた新たな世界を開拓するのが綺麗に終わる流れではないだろうか。
[終わりに]
凡そ書いてみておもったのだが、この草案はどちらかと言えば外伝やIFなどの方が充実するものである。代を重ねる度に厚みを増すノート。二冊目が出来たり、ある時増えすぎた情報を纏められたり、同じルートを辿った個所の情報量が過多になったり。
また、冒険者になった主人公や錬金術師、料理人、宮仕えなどになった主人公の記載もあるだろう。場所や国などが違えば情報も変わってくる。それだけ枝分かれた世界を俯瞰的に見せることができるのが、この草案の良いところではないだろうか。それを活かせるか否かは作者に委ねられる。
言うなれば、書き方そのものも十人十色。寧ろ多くの人に書いて欲しいと思わなくもない。
何せほら、私は所詮一読者でしかないのだから(脱兎