吟遊詩人の素っ破抜き(仮)
不意に降ってきた草案、今回の主人公は吟遊詩人。貴族相手ではなく民間受けのいい話を探して右往左往しては西へ東へ旅をする。酒場で酔っ払い相手に、寒村では娯楽に飢えた村民相手に、自身の弾き語りだけで自分の食い扶持を稼いで風の向く方へ。
今回は転生主人公想定とするが、書き方次第で現地主人公も難しくはないだろう。
[主人公]
・前世としては売れないミュージシャン志望。歌手として有名になる事に憧れて音楽の道を歩むも花開くことなく亡くなってしまう。その偏執を来世に持ち込むことになり、今度こそ歌手としての大成を夢に見るが...?
前世の設定を活かすポイントは楽器知識と自衛のための魔法習得のモチベーションなど。残念ながらバンドと言う概念がない事に凹むが、転生した後に拝聴した英雄譚の弾き語りに心を打たれて新たな可能性として将来の選択肢として保留。保有しているチートと英雄譚の弾き語りのが民衆受けが良いことにより、彼の生き方がある程度固まることになる。
・自出としては位の低い貴族の三男坊以下。本命とスペアの確保はしているから放置されてる立ち位置。貴族設定を活かすポイントは、貴族家の蔵書とリュートなどの初期装備。平民出身より懐具合が段違いに温かいのだ。それと兄弟関係のトラブルを話に盛れるのも偉い。
・保有チートは【サイコメトリー】
ずばりモノから情報を読み取る能力。英雄譚のネタを探す事に関しては非常に相性がいい。例え武器としては機能しない折れた剣でも、それが覚えている所有者の思想、生き方、死に際のドラマを見てきている可能性があるからだ。名のある英雄ではなく、無名の英雄たちの物語を鬻ぐ。他の同業者より物語を集める能力が高いのだ。
...高いのだがこの能力、他人の秘密を暴くことにも非ッ常に有用に働く。執務室の羽ペンが知る不正の証拠。地下室の扉が知る不倫現場。路上に石が知る殺人現場の犯人。etc...。吟遊詩人するより陰謀に巻き込まれやすいのだ。如何に使うか、使い方を決めるかの力量は作者次第になる。
[素っ破抜く]=[秘密や他人の隠し事などを突然あばいて明るみに出す。]
既に墓の下まで持っていって塩漬けになってる秘密すら暴かれる(しかも全く予想もしない糸口)から始末に負えない。
・以上の行動をする主人公。他人からの評価はずばり変人である他ない。
森の中で破棄されてる武器や防具の欠片を探す。武器屋に行けば店に置いてある武器より廃棄品の方にお金を払う。展示品に触れれば涙を流して停止する。都市の障壁の前で号泣。貴族様に耳打ちすれば顔色が変わる貴族様。死亡した冒険者のタグを触れれば他の冒険者を糾弾するetc...。
[お披露目]
山場としては主人公の弾き語り。サイコメトリーで獲得した情報に自身の解釈や偏見を盛り込んで仕立てて奏でる。読み込んだ第一人称視点の物語を第三者視点での語りに仕上げる。文面や演出は作者の腕次第になるが、作中作をぶち込めるポイントが多くなるので、一作品に多数の物語をぶち込めたい人にはたまらないのではなかろうか?
[ヒロイン]&[戦闘パート]
この作品のヒロインの役割は“主人公に出来ないことができる”事に尽きる。
その身分はド定番奴隷か忠誠心MAXの従者でもいいが主人公の護衛が可能である戦闘要員が望ましい。主人公が戦闘要員でない事。そして後年にヒロインの活躍を主人公が英雄譚に興す事など、その役割とポジションイングは非常に大きなウェイトを持つ。
容姿や種族、性格に出自は自由が利くが主人公への忠義や信仰は持ち合わせねばならない。
勿論女性である必要はない。繰り返す、女性である必要は、ない。
[日常パート]
事実上のメインパート。物語の都合上、後々になる程面白い話が増やせる。
・リュート
家を出る時に貰ったリュート。見栄もある貴族の贈り物、そりゃ平民(に見える主人公)が持ってればトラブルの種である。窃盗した容疑に窃盗された被害、玄が不調ならお店に赴くなどイベントに事欠かない。王都の楽器屋で作られたものなら王都来訪も熟せるだろう。
また、このリュートにはもう一つ大事な役割がある。サイコメトリーによる備忘録だ。故に主人公はこのリュートを手放さない。
・ネタ集め
サイコメトリーするためのアイテムを探すパート。
英雄譚:ダンジョンの中や自然の中に残ってる遺留品。武器屋に引き取られた破損武器や防具。英雄の所縁の地。辺境都市を覆う城壁。etc
貴族の暗部:貴族の邸や別荘。
・サイコメトリー
主人公の生活を支える能力兼トラブルメーカー。主人公がトラブルに首を突っ込むタイプならとにかく活躍する。同時に武器防具から取り出した物語は英雄像からかけ離れた秘密もそれなりにあり、そして実家である貴族家の秘密を一番多く握ってもいる。
...しかし貴族の恥を歌うには目をつけられるリスクが高く、なまじ秘密を知りすぎるとそれはそれで狙われる。しかし脅迫ロールプレイも乙なものであるのは確かである。
発生した殺人事件や盗難事件、英雄の知られざる一面などを知って頭を抱えるシーンなどどうだろうか?
・弾き語り
話終えた後で“それは〇〇(英雄の名前)の話じゃないか!”と言われる。実際は話を聞いた同業者が有名な英雄に紐づけて弾き語り、それが広まったパターン。著作権?何それ美味しいの?、である。対処の仕方は作者にお任せ。
[葛藤]
ここまで書いた主人公を見直すと思うのだ。“こいつすげー自分勝手だ”と。
前世から地続きで人生を歩んでいるとは言え出身は貴族、そして偏執的な音楽狂いだ。この主人公の葛藤など精々が玄と音が弾き語りに合うか否か程度だろう。
他にあるとすれば、
“集まったは良いけど表に出せない貴族の恥をどうしよう?”とか
“面白い英雄譚見つけたと思ったらオチが面白くないどうしよう?”とか、そんなものである。
逆に言えば、主人公の葛藤は己の中で完結する。ある意味人間らしいのではなかろうか。
[終点]
ネタを集めながら旅を続けるのも年齢的、肉体的な限界がいつかくる。前世でもその日暮らしが常だった主人公はそうなったときどうするか、ある程度決めてる。“その日が来るまでに一生分のネタを集めれておけばいいじゃない”と。困ったことに彼に備わったチートがそれを実現できるだけのポテンシャルがあったのだ。
物語の終点としては主人公がヒロインの英雄譚を奏でて終わるのが綺麗でいいかもしれない。主人公の役回りはあくまで語り部。語り部は主役になり得ないのだ。