8話 リゲル、大地に立つ②
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……ッ!大事なことを忘れてた!
私は入ってきた後部ハッチの方を振り向く、そこには……
「ひっ……」
大きな大きな蟻のような化け物が音も立てずこちらを覗き込んでいた。
こいつが"ゴースト"、人類の敵……なんでグロテスクな生き物なのであろうか。
「……!?」
ハルカもそれに気がつき床にへたり込む、その時だった……
『そこにいる貴方達!こっちに入ってきて!』
と、高めの透き通るような女の子の声が響き渡る、私達は声のした方向へ振り向く。
「あれ……あそこ開いてたっけ?」
リゲルの胸部コックピットハッチが開け放たれていた。
「結局こうなるのか……」
私は小声で呟く。
……ここまで来たらもう覚悟を決めるしかないのだろう。ハルカの手を取りコックピットの方へ向かう。
「ちょ、ちょっと……」
戸惑いを見せるハルカ。
その間にも、ゴーストはゆっくりと此方に歩みを進める、まるでこちらを舐めきってるかの様だ。もう何処にも逃げられないだろうとでも思っているのか。
「はやく……私はこんなとこで死にたくない……第一話で出オチみたいに死にたくない……!」
私たちは機体の胸部になんとかよじ登りコックピット部を覗く。内部は機械の青白い光に包まれていた。
「結構広い、座席も二つある……この機体複座型だったかな……」
と、私が記憶を呼び起こしてると。
「ねぇ……! 早く入ったほうが……」
ハルカが不安そうな面持ちでそう言った。
「そ、そうね」
私は後部の座席に座り、ハルカは前の方に座る。
プシュゥー……
と、音を立ててコックピットハッチが閉まる。するとモニターが起動、周囲の光景が投影された。
「わっ……凄い、全部の方向に景色が映るなんて……」
全天周囲型のモニターに驚きの声を見せるハルカ。
『ようこそ!!』
その時、先程と同じ声がコックピット内に響く。
「え……?」
私は周囲を見渡し、そのうち声の主を発見した。声の主である"彼女"はモニターの中に存在した。
『私はパイロット支援用AI、リゲル。2人とも危ないとこだったわね』
と、モニターの中の水色ツインテールの少女はフフンと鼻を鳴らし、ドヤ顔でそんなことを言った。
AI……蒼グレでも出てきたけど、こんな人間的だったっけ?
「えっと……」
ハルカが何かを問いかけようとしたその時、ピィー!というアラート音が鳴り響く。
『あなた達はなにもしないでいいわ、特に余計なことをしでかしそうな雰囲気の前のあなた!手元にある操作パネルだけは触らないように! ……て、あぁ!!』
「……?」
私は前を覗く、ハルカがパネルに手を当てている光景が目に入った。
「あれ……?触ったらマズかった?」
《Pilot registration completed.》
という表示が出る。
「パイロット……登録……完了……」
画面が切り替わりある単語が表示される。
《GUNGRAVIA TYPE-1》
「ガング……レーヴィア……」
私が読み上げる。するとハルカがあたふたして、
「ヤバいって!なんか変なとこ触っちゃった!」
と、騒ぐ。
『はわわ……何してくれちゃってんのあなた……!』
リゲルと名乗った少女は慌てたような口ぶりでそんな事を言った。
「ねえ! そんな事よりあの化け物こっちに向かってきてるけど!!」
私は目の前に迫る危機を知らせる、こんなくだらないお決まりみたいなやり取りしてる場合じゃないでしょ今は!
『わかってるって! 2人とも何かにつかまってて!』
リゲルの指示、とりあえず私は座席にしがみついた。
『輸送機のマスターコントロールをハック……固定ボルトのロック解除……発進オッケー』
「リ、リゲルちゃん?」
ハルカが不安そうに呼ぶ、だが次の瞬間。
『XA-51リゲル! 行きます!!!』
ゴォォォォォォというブースト音、そして機体からグッと重力を感じ……
「きゃあぁぁぁ!!!!」
XA-51は入り口のアンノウンを頭部で吹き飛ばし、そのまま勢いよく外に飛び出した。
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『輸送機が街に落ちた!』
その頃、首都上空ではゴーストとの戦闘が繰り広げられていた。
「被害は!?」
晴嵐を駆るユウミは僚機に報告を求める、あれだけの巨体が堕ちたともなると、大きな被害が出ているかもしれないと考えた彼女は息を呑み返答を待つ。
『……避難は完了済みの地区だし……奴さんは完全無人機だから人死にはないと思うが……今確認する!』
「……あれには米帝からのプレゼントも載ってる……そいつも確認してこい!」
指示を出すユウミ。
(上が米帝から貰ったお荷物のせいで、こんな面倒ごとを背負わなきゃならないとはねぇ……)
ため息を漏らすユウミ、操縦桿を倒し徐々に高度を下げ道路に着陸しレーダーの情報を見る、周囲に三匹のアルファ級ゴーストを確認。
「いくら前触れもなく突然現れるとはいえ、いきなり首都に飛び出してくるなんて……こいつら、もっとこっちの事情も考えて欲しいよホント」
今から三十分前、名古屋区内に一匹のゴーストが確認、以降徐々に数は増えていった。出現が観測されてから二分後にはグリフォン隊が緊急発進をし、ゴーストの対処に当たった、ユウミもすぐ基地に戻り、この戦闘に加わる。
大きな蟻のような姿をしたその化け物は間髪を入れず、真正面に現れ突っ込んできた。
「雑魚が……! 私の街を荒らすなってのよ!!!!」
斜線上に余計なものがないか確認、なるべく民間の建物への被害は避けねばならないからだ。
そしてユウミは操縦桿に付いているトリガーを押す。
パパパパパパパッ……!
という、甲高い連続した発砲音、飛行ユニットのパイロンに装備されている"九四式30mm短機関砲"が音を立てて砲弾をばら撒く。ゴーストは蜂の巣になりたちまち息絶えた。
ピーッ!
そこにアラート音、しかしユウミはそれより早く機体を動かす。
「舐めんなッ!」
先程まで機体がいた場所に振りかざされるゴーストの攻撃。それを簡単にかわしたユウナは兵装選択システムを操作して長刀を装備。
「でりゃぁ!!!!!!!」
勢いよく振り翳しゴーストは真っ二つになり断末魔をあげて絶命。
「ラスト!」
コンソールを操作し、空からこちらに襲い掛かろうとしていた最後の一匹をロックオン、間髪を入れず近距離用空対空ミサイルが飛行ユニットの翼下から放たれる。ミサイルはゴーストに命中し爆散。
「これで大体はやったか……?」
レーダーを確認、周囲に敵影はなかった。ユウナはレーダーを広域モードに切り替え、味方機とのデータリンクシステムを使いながら首都周辺の状況を確認した。
どうやら区内に散らばっていた雑魚は殆ど味方機によって掃討されたようだ。
「輸送機の近くに二匹……サンダー! そっちはどうなってるの!?」
だが、残りの二匹が輸送機の近くに存在した、ユウミは先ほど確認に向かったサンダーに状況報告を求める。
『メビウス……! いや……なんかよく分からんことになってる……あんたもこっちに来て欲しい!』
と、サンダーからの通信。
「……? わかった、今から向かう」
ユウミは足元のペダルを踏み、飛行ユニットのターボファンエンジンを作動、そして一気に跳躍、輸送機の方角へ飛んでいった……