7話 リゲル、大地に立つ①
入学式から一週間、私は何だかんだハルカと共に行動する事が多かった。この娘、何だかすごく私に積極的な気がする。
もしかして私に惚れたな?やれやれ、私って罪な女……
そんなこんなで学校にもそろそろ慣れてきた頃、ついに運命の日がやってくる。
「ねえマイちゃん、どこか寄ってかない?」
「嫌」
今、私とハルカは寮への帰路についていた。
今日、アニメ通りならこの街にゴーストが現れる、そして私たちはそれに巻き込まれることになる。
どうにかして初搭乗イベントは避けたい、そもそも私とハルカが"あれ"に乗りさえしなければ、蒼グレのような悲惨なバッドエンドは回避できるはずだ。
「マイちゃん、何か怒ってる?」
蒼グレでは、この日の放課後、大型のショッピングセンターに寄り道したせいで戦闘に巻き込まれる。ならとっとと寮に帰る、それが最善策のはず。
「別に怒ってるわけじゃ……」
そう答える私。その時ゴォォォォォ……という聞いたことのある音が聞こえてきた。
頭上を通過する戦人機の編隊、そして、街中にサイレンが鳴り響く。
「ゴーストの出現が観測されました、避難警報を発令します、住民の皆様は落ち着いて所定のシェルターに避難を開始してください……」
きた……
私は身構える、この日、この時間、名古屋にゴーストが出現する。蒼グレと同じだ。
緊張感を覚えるサイレンとアナウンスが鳴り響く。周りにいた人たちは慌てた様子で避難を開始しており五分後には周囲から人の気配は消えていた。
「私たちも早くシェルターに行こうか」
私はハルカにそう声をかける。
お人好しで親切な主人公は、小さい子やおじいちゃんおばあちゃんの避難を手伝って今の今まで避難せずにいた、私もそれを手伝い避難が遅れた、はやく逃げなきゃ戦闘に巻き込まれる……
「そこの二人! はやくシェルターに……」
避難誘導を行なっていた警察官らしき人物からの声かけ。
「湯島さん、私たちも早く向こうのシェルターに……」
しかし、私がそう言っても、何故かハルカは動こうとしなかった。
「ねぇ、あの飛行機こっちに向かってきてない……?」
と、ハルカがある方向に指をさしてそんな事を言った。
……え?
私はその方向を見る、すると、大型の輸送機が翼のエンジン部から黒煙を上げ私たちがいる住宅街に向かってくるのが見えた。
落ちてくる輸送機、そんなのまるで蒼グレ一話だ。おかしい、それが墜落するのはこんな住宅街ではなくもっと離れた場所だったはずなのに。
「なんで……?」
私は絶句した、記念すべき一話の初搭乗の場はこんな所じゃなかったはずなのに。
堕ちてくる場所を避けたはずなのに……
私はその飛行機……いや、輸送機がどうなるか知っている。ハルカを"あれ"に乗せるわけにはいかない。
「……いいから! 早く避難! 早く!!!」
私はハルカの腕を引っ張りシェルターに連れて行こうとする。その間にも輸送機は高度を下げ不時着のコースをとっていた。
「……ッ!このままじゃ……」
そして、輸送機は地面を擦り……
ズガァァァァアアンンン!!!!!!!!
と、あり得ないほど喧しい音と衝撃を立てて、私たちがいる場所からは少し離れた場所に建物を巻き込みながら不時着。
「……っぁ!」
私は不時着で発生した地響きに足を取られ転んでしまう。
「……中の人……助けなきゃ!」
ハルカがそんな事を言いながら瓦礫の山に横たわる墜落、いや強引に不時着した輸送機に向かっていった。
あいつ……ほんと行動力バカすぎ……爆発するかもとか考えないの……?
私は立ち上がり彼女を追いかける。
あの娘は多分、あれを民間の旅客機か何かと勘違いしてるのだろう、そういう知識は無さそうだし軍用機である事も気がついていない筈だ。
もう多分この流れは変えられないのだろう、私は覚悟を決めハルカの後をついていった。
輸送機は原型を留めていたが、数カ所から煙が上がりいつ燃料などに引火して爆発するか、非常に危険な状態であった。不時着に巻き込まれ瓦礫と化した家々からも所々火の手が上がり、その光景は戦場を思い起こさせる物であった。
(大丈夫……なはず、爆発しはない、しないはず)
(蒼グレじゃ、何もなかったんだし……)
わかっていても、怖いものはやはり怖い、これは仕方ないよね……
輸送機はかなりの大型機だ、軽いジャンボジェット機くらいはあるかな、まあ"あれ"を載せる為のものだし当たり前だけど。
「誰かいませんかー!」
私たちは衝撃で破損し開け放たれた後部の大きなハッチから中に入る、軍用機の中って、なんかすごく重苦しいというかごちゃごちゃしてる。
しばらく進むと、"それ"は姿を表した。
「これ……」
ハルカが息を呑む。そこには……
アメリカ帝国軍が開発した試作戦人機"XA-51"、そう、第一話以降ハルカが搭乗することになる機体が横たわっていた。
「なんでこんな所にロボットが……?」
ハルカが驚きの声を漏らしながらその機体をジロジロと見つめる。
これが……本物の戦人機……
私も実物をこんなに間近で見るのは初めてだ、ニュースで写真を見たり、空を飛んでいるのを見かけることはあるけど……
"XA-51"は機体をロックボルトで固定され、頭部をこちら側に向け、仰向けの状態で窮屈そうに格納されたいた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
『……誰だろう』
少女は目を覚ます、機体の高感度センサーを使い周囲を確認すると、頭部の方に2人の女の子がいる。
『……?』
不思議そうに首を傾げる少女、と、そこにアラート音がなり機体のレーダーがゴーストの接近を感知。周囲には二体のゴーストがおり、このままでは彼女らが襲われる危険性が高かった。
『このままじゃ……あの2人を助けなきゃ』
そして彼女は"生まれて初めて"の人助けの覚悟を決めた。