6話 4人目と入学式
そして翌日、今日は私が通う事になる"百合ヶ浜女学園"の入学式であった。
「2人とも制服とっても似合ってるわ〜!」
ユキさんがそう褒める。百合ヶ浜の制服は伝統的ながらオシャレなアレンジが施されたセーラー服であった。
「ありがとうユキさん!」
嬉しそうに返すハルカ。
「馬子にも衣装ってやつ?」
「? 私ユウミさんの孫じゃないですけど……」
みたいなくだらないやりとりをした後、私達は寮を出て学園に向かう、ここから学園までは歩いて10分ほどの距離にある。
多分この後……
通学路の中程まで差し掛かった頃、私たちの目の前に何やらおかしな光景が入り込んできた。
「……あの人、なにしてるのかな」
ハルカが不思議そうにそう呟く。そこには1人の少女が塀の上にいる猫睨みつけていた。
「そこの駄ネコ! ワタクシのお財布を返しなさい!!!」
金髪ドリルでいかにもお嬢様、的な雰囲気を漂わせているその女の子は猫に向かって喚いていた。
「ふにゃ〜」と猫は余裕そうに欠伸をした。手元には高そうなブランド物の財布があった。
「ねぇ! どうしたのあなた!」
ハルカが彼女に駆け寄る。
「はぁ……?」
と、怪訝な様子でハルカを見る彼女。しばらく間があった後、その娘はイライラした様子で口を開いた。
「この猫にワタクシの財布を盗まれましてよ……!!」
と、怒鳴る彼女。
「はぁ……」
私はため息をつきながらその猫に近づき……
「にゃー♡」
私の方に飛びかかってくる猫、私はその子をキャッチし抱きしめる。
「……これでいい?」
自慢じゃないが、私は何故か猫には好かれやすい体質だ、これは前世もそうだった。そして蒼グレのマイも。
名前だけでなくそんなところも似ていたからマイに感情移入しまくってたんだよなぁ……
「……」
彼女は財布を回収した後ワナワナしながら私の方を睨みつけた。
「あなた!お名前は!?」
「……綾瀬マイですけど」
私は名前を名乗る。
「……綾瀬マイ! 貴女の名前は覚えましたわ! これで勝ったと思わないことね!!」
彼女は何故か怒りを私にぶつけ、そばに停まっていた、いかにも高そうなセダンの後部座席に乗りこの場を去っていった。
「……あはは、あの娘どうしたんだろ?」
ハルカが苦笑いしながら呟く。
「……赤坂エリナ、か……」
そう、その人物こそ蒼グレ四人めのメインキャラクター、"赤坂エリナ"その人であった。
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「皆さんの学園生活が充実したものになることを……」
入学式、壇上では学園長がありがちな挨拶を述べている。
「クラス一緒だったね……!」
隣に座っていたハルカが小声で私にそう言った。
「はぁ……」
わかってはいたけど、これから一年ハルカと同じクラスなのかと憂鬱な気持ちを隠せずため息をついた。
「あっ……! あそこにさっき猫に財布取られてた人いるよ……!」
ハルカが前の方に指を指す。そこには先程私に謎の宣戦布告をしてきた"赤坂エリナ"がいた。
「……あの人も同じクラスだったね」
そう、彼女"赤坂エリナ"もまた私たちと同じクラスであり、そのせいでまた絡まれかけた。
「色々めんどくさそう……」
そんな憂鬱な私の気持ちとは裏腹にハルカはワクワクした様子でエリナのことを見ていた。私はその光景を見てさらに気分を重くしながら入学式の時間を過ごしたのであった。
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「綾瀬マイです、東京から来ました、よろしくお願いします」
……こんなものでいいだろうか、我ながらつまらない自己紹介だと思ったが仕方ない。
パチパチパチ……と、クラスメイトのまばらな拍手。私は周りを見回す、何故だかみんな視線を合わせてくれない。
この派手な見た目のせいかな……
この学園の生徒は真面目な娘が多いみたいで、私みたいなギャル的な見た目をした娘はあまりいなかった、一応この見た目に合わせて制服とかを着崩してみたけどそれが余計だったみたいだ。
不良とでも思われてるのかな……
チラリと前にいるエリナの方を見た。席は名前順なので、赤坂の苗字を持つ彼女は私の前の席に座っている。
「……ふんっ」
こちらを振り向かず、不機嫌そうな声だけを漏らす彼女。すっかり敵視されている。何がそんなに気に食わなかったというのか……ってかこんなやり取り蒼グレじゃなかったぞ?
そしてクラスメイトの自己紹介は進んでいき……
「次は……湯島さん」
ハルカの番になった。彼女は「はい!」と、元気よく返事をしながら立ち上がる。
「私! 湯島ハルカ!! マイちゃんと同じく東京から来ました、あ、マイちゃんとは友達で……」
元気よく自己紹介していく彼女、っていうかもう友達認定されていたのか……
そして彼女は趣味や座右の銘を言い、軽めのギャグでウケをとって自己紹介を終える、クラスメイトの拍手は私の時より大きかった。
ああいうのをコミュ力強者って言うんだろうな……
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入学式、そして軽い自己紹介も兼ねたホームルームも終わり私は教室を出て帰路につく。
「……」
正門まで来たところで改めて後ろを振り返り、その独特のデザインの校舎を眺めてみた。
私立百合々浜女学園、中京都内ではそこそ歴史のある女子高であり、私立校特有の設備の豪華さや有名デザイナーにデザインを依頼したというモダン風でおしゃれな校舎、自由な校風で制服は可愛らしくアレンジが施されたセーラー服、学力もそこそこで人気は高めな学校だ。
前世の私は至って普通の県立高校に通っていたのでかなりの新鮮味を感じる。
「これから一年、ここで過ごすことになる……」
そう、一年……
蒼グレは二クールで一年間の物語を描いていたアニメだ。今からちょうど一年後、最悪の結末を迎えるのは一年生の春休み頃だった筈だ。
「……! 一年じゃない、違うでしょ私……」
そうだった、私はその最悪の結末を回避すると決意した筈。
「春休みを乗り越えて2年生になってやる……」
そんな事を呟いてると、遠くから私を呼ぶ声が聞こえた。
「マイちゃーん!」
ハルカだ、彼女は走って校舎玄関口から飛び出してこちらに向かってきた。
「先帰っちゃうなんてひどい! 一緒に帰ろうよ!」
彼女はプンプンと怒りながらそう言って私の手を握った。
「ちょ……なにを……」
私は困惑、すると彼女は「これなら逃げられないでしょ?」とニコニコしながら言った。
「……やれやれ」
そうして、私は覚悟と決意を胸にしてハルカと寮への帰路についた。