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64話 乗り換えイベント

 私とハルカはその後、格納庫に向かった。千駄木司令曰くプレゼントがあるとの事。


「タイミング、ピッタリすぎない?」


「うん、見計らったみたいだね」


 基地の格納庫。私の目の前に威風堂々と立っているのは……青を基調とした洋上迷彩の様な模様がペイントされている戦人機であった。


「これが……晴嵐改」


 そう、この機体こそ日本皇国統合自衛軍が開発した晴嵐……をさらに改良した新型も新型機。


「1人だけ旧型機って、格好つかないでしょ?」


 と千駄木司令、サプライズらしいけど。いいのだろうか、聞いたところによるとこの晴嵐改は評価試験中の予備機らしい。


 見た目はあまり大差は無いけど、内部のアビオニクスのアップデート。新型エンジンの搭載……etc、様々な改良が施されている。


「よいしょ」


 私はタラップを上り、開かれたコックピットの内部に入る。


「はぁ……なんか新車みたいな匂いがする……」


『中々変態じみた事を言いますね、マスター』


 聞き慣れた声が聞こえた。


「こっちに移っても相変わらずだね……」


 シリウスのテンションはいつも通りだった。


 私はコンソールを弄り機体をチェックする。


「基本的なシステムは紫雲と変わらないんだね」


 先程、分厚いマニュアルを渡されているけど基本的に同じ国の機体なので、正直読まなくても対応できそうな感じはある。


『マスターの紫雲は魔改造機でしたから、あの機体はほぼ二世代機と言っても過言ではありません』


「まあね」


 先日の、石川県小松基地での訓練前。私の紫雲に搭載された新型長距離標準装置。それと同型の物がこの晴嵐改にも載せられている。


「あれって、テスト運用だったんだね」


 わざわざ入れ替えて貰ったのに、すぐに機種転換とは忍びないなとは思っていたけど、訓練でのデータ蓄積などが行われていて無駄ではなかったようだ。


「マイちゃーん! どう!?」


 下にいるハルカが手を振りながら私にそう叫ぶ。


「うん、バッチリだよ」


 私は操縦桿を動かして、機体の右手でサムズアップする。


『マスター、マニュアルにも書かれていますがこの機体には"ガングレーヴィアシステム"がインストールされています』


 と、シリウス。


「あー、チラッと見たけど。あれどういう機能なの?」


『猿でもわかるように説明すると、ステラ因子による歌声……ステラボイスと呼びますが、その力を最大限まで拡張するシステムです』


 と、丁寧に説明してくれる彼女。XA-51にも搭載されているシステムだ。


 …… ガングレーヴィアシステムって、蒼グレにも出てきたんだよね。でもあっちだと、XA-51のリミッターを解除して機体能力を底上げする機能だったような。


 なんだか全くの別物になっているような気がする。


「ていうか、どういう理屈なのそれ?」


「聞きたいですか? 説明に一時間ほどかかりますけど」


 ……遠慮しておこう。


「まあとにかく、これでうちの小隊も機体が揃ったね」


 モニターで周囲を確認。格納庫内にある五機。


 米帝の機体を使っているハルカとジェイミーは別として。五機のうち三機は晴嵐だ。


「……はぁ、明日か」


 小隊は明日、前線基地となっている自衛軍の浜松基地へと向かう。


 浜松基地をはじめとした前線基地には現在、東京奪還作戦に参加する部隊が続々と集結しているとの事。


「……」


 私は目を閉じて、蒼グレでの東京戦役について思い出す。ここまでかなり、あっちとは相違があるけど大まかな流れなどは共通している。


 蒼グレにおいて、東京戦役は物語の重要な転換点であり……悲劇の始まりでもあった。


 結論から言えば、東京奪還作戦は失敗した。そうしてメインキャラクターからも物語初の戦死者が出た。


 東京は焦土と化し、故郷、両親、仲間を失った主人公ハルカはその後、徐々に狂っていく。


 あの作品がバッドエンドを迎えたのは間違いなく東京戦役がフラグとなっている。


 全部が全部同じじゃない、ここまでかなりの違いがあるし……わかってはいるけど、やはり原作の展開が頭から離れない。


 大切な物を一気に失ったハルカはゴーストと自衛軍に大きな恨みを抱き……ダメだ、あまり考えたくない。


 アニメでの気が触れてしまったハルカと、私の知っている優しくて元気なハルカ。二人を同じだとは考えたくない。


『マスター? 急に黙ってどうしたんですか?』


「いや、何でもないよ」


 ……とにかく、私は私に出来ることをする。あんな悲劇はこの世界の出来事じゃない。


 私はコックピットを出て、下に降りる。


「ねえねえ、どうだった? 新しい機体」


 下で様子を見ていたハルカが、無邪気な子供のように私にそう聞いてくる。


「──っ!」


 私は気持ちを抑えきれず、ハルカを抱きしめる。


「ちょ、え……ま、マイちゃん!?」


 動揺して恥ずかしそうにする彼女、だけど構うもんか。


『大丈夫、私が何とかするから……私が……」


 そう、私がこの世界に転生したのは多分。この目の前にある娘、ジェイミーにエリナ、アカネ。それ以外にもたくさんの人……


 きっとそういう事だから。運命を変えてみせろって事なんだろう。


「マイちゃん、どうしたの……?」


 私は、気が済むまで彼女の温もりを感じた。


 東京戦役、本気で乗り越えなきゃ……!

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