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63話 大規模反抗作戦

キィィィィィィン……


 中京基地、忙しなく幾多の戦人機が離陸を行なっている。ウチのホームに所属するグリフォン隊が前線の支援の為に出撃しているのだ。飛び立つ戦人機は皆一様に緊迫した雰囲気を纏っていた。


 これ程基地内が慌ただしいのは初めてだ。これが"有事"と言うものなのだろう。今更ながら事の重大さを感じさせる。


「状況はかなり厳しいわね」


 険しい口調でそう呟くジェイミー。私たちは隊舎で待機していた。


「既に、東京一帯はゴーストの勢力下にあるそうよ。まさか奴らが戦人機を使って襲ってくるなんで完全に想定外だからかなり対応に遅れが出たみたい」


 と、エリナ。


 使って……か、というより多分"それ"自体がゴーストなんだろう。


 頭の中でアカネと戦った時の事を思い出す、あの時アカネが乗っていた黒い紫雲。今だからわかるけどあれはゴーストそのものだ。


 虫みたいな形をしていたのに、今じゃ相手も立派な兵器みたいな形になっている、一体ゴーストという存在は何なんだろう?


「各地の部隊が支援に向かっているけど、攻めるというより退避の支援の為みたいね」


 退避の為……か、もう東京という地は見捨てられてしまうのだろうか。


「ねえ、マイお姉ちゃん……」


 と、それまで大人しくしていたアカネが私に近寄ってくる。重い空気に耐えられなくなったのだろう、私は優しく彼女を抱き寄せる。



 私達は沈黙と緊迫した空気の中隊舎内で時を過ごす。そうして、隊舎に置かれている内線に連絡が入った。


「はい、わかりました」


 内線を取ったエリナ、おそらく司令からの呼び出しだろう。


「……」


 私はチラリと隅の方にいるハルカに目を向ける。彼女はずーっとあんな調子だ。


 どうも家族と連絡がつかないらしい、最悪の事態を想定してしまっているのだろう。


 家族……か。


 私、綾瀬マイには両親がいない。数年前に事故死してしまった。


 中学生まで東京の家で叔母さんと暮らしていた。といっても叔母さんは多忙であまり家にはいなかった。


 高校生になって私が名古屋に引っ越しするのを機に叔母さんも別の場所に移り住んだ。


 だから東京は私の故郷だけど……あそこに家族はいない。


 だけど、ハルカは違う。あそこはハルカの故郷で……あそこにはハルカの家族がいる。


「……ねえ」


 彼女に声をかけようとしたその時だった。がちゃんと電話を乱雑に切ったエリナが私達の方を向く。


「行くわよ」


 やはり、司令からの呼び出しか。それにしてもタイミング……



 私たちは隊舎を出て司令室に向かう。一体どういう要件なのだろうか。まぁこんなタイミングなんだし確実に東京関連の事だとは思うけど……


「失礼します」


 ドアをノックし部屋に入る。司令室には緊迫したような雰囲気が漂っていた。


「あー、みんな来たね」


 千駄木司令は内線でどこかに連絡をしていたようだ。電話の受話器を置き私達の方に向き直る。


「……説明するまでもないと思うけど、いま向こうの方がかなり大変な事になっています」


 いつになく真剣な面持ちの司令。そうして彼女は「これほど大規模な(いくさ)は関西戦役以来ですね……」と呟く。


「既に東京周辺は完全にゴーストの勢力圏下、このままだとジワジワと前線ラインが押されて……最悪の事態になるかも知れません」


 最悪の事態、あまりにも重い言葉だ。


「そうなる前に自衛軍は総力を上げた大規模な反抗作戦を立案中です」


 そこで言葉を切り、私たちを見渡す司令。


「上はアナタ達を作戦の要にする事を決定しました」


 そうして、飛び出てきたのは……驚きの作戦概要であった。


「私たち……ですか?」


 ハルカが司令の言葉を反芻する様にそう呟く。


「知っての通り、これまでの戦闘でアナタ達の歌声の"有効性"については証明されつつあります」


 これまでの戦闘、名古屋で初めてXA-51に乗り込み。初めて歌った事。南沖島での大型ゴーストとの戦闘。


 私たちステラ因子を持つ人の歌声は確かにゴーストに有効、だけど……


「あんな大規模な戦場でどうしろっていうのよ」


 ジェイミーの至極真っ当な意見。今まで経験してきた戦場と規模が違いすぎる。


「現在、中央戦略情報部による詳細な作戦が組まれています、それ待ちですが……アナタ達は必ずこの戦いの要となるでしょう」


 そう言うと千駄木司令は私たちから視線を外す。


「……今更な話ですが、本来アナタ達の様なまだ幼い子供を戦場に行かせるなんて大人のやる事じゃありませんよね」


 と、申し訳なさそうな司令。今までの小競り合いとは比べ物にならない規模、多分それが引っ掛かっているのだろう。


 だけど、それを聞いて私たちは笑ってしまった。


「本当に今更だな」


「ですわ、でも私たちはとっくに覚悟を決めています」


 ジェイミー、エリナは「何をいまさら」みたいな雰囲気でそう言った。


「私も! お姉ちゃんと一緒なら何処でもいけるよ!!」


 元気よく叫ぶアカネ?


「私だって……」


 ハルカは私の方をチラリと見た。


「最初にあそこで……XA-51に乗って、それからマイちゃんの歌を聴いて、その時から色々あったけど……」


 私はその言葉に頷く。


「私たちは私たちに出来ることをするだけです!」


 今は、自分達の歌でこの日本を守る。それが私たちShooting Starの役割だ!

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