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60話 歌姫の歌声

『所定の開始位置につきました』


 シリウスの声。周囲を確認、私のスタート位置は街の端っこだ。


「あっちがどういう戦い方で来るかとかまったくわからないしなぁ……」


 当たり前だけど、あちらのデータは全くない。それは向こうも同じはずだけど……


『先ほどの装備の様子から見て、中距離から近距離に特化した戦い方だと思われます、逆にこちらはスナイパータイプであるとバレているはずですので……いっその事こっちも近距離で戦いますか?』


 冗談っぽく笑うシリウス。


「うーん……まあ、いつも通りでいいでしょ」


 と、そこに向こうからの通信が。


『えっと……マイちゃんっていうのかしら? まさかアナタと戦うことになるなんて!』


 驚き半分嬉しさ半分といった口調の彼女。


「はい、こっちもびっくりです……あの、あなたの名前」


『ん、そろそろ時間だね、じゃあお互い頑張ろうね〜』


 通信を切られてしまった、名前聞けなかったなぁ……


『時間です、状況を開始してください』


 シリスウからの指示が入る。


「地形データ……これか、相手のスタート位置はこの辺りかな……」


 大体の予想を付けた後、マスターアームスイッチを入れ、全武装を使用可能状態に。取り敢えず射線が確保しやすい場所に移動しよう。


 私が機体を動かし始めたその時であった。


「……?」


 何か歌声が聞こえたような気がした。気のせいだよね?


『……これは? マスター、止まってください』


 何かを感じ取った様子のシリウス。


「何か感じたの?」


 今の歌声、シリウスにも聴こえたのだろうか……


『ええ……歌声の様なものを拾いました、解析します』


 私は再び機体を動かす。


 なんだろう、普通に聴こえるというより、心に響いてくるというか……この感覚は小隊(みんなの)歌声を聴いている時の感覚に近いかも。


『……捉えました、位置を特定。マップに表示します』


 モニターの隅に表示されているマップ情報が更新されてた。


「近い……」


 私はなるべくビル陰に隠れながら、その方向へ向かう。


『マスター? 近接線を挑むつもりですか……?』


「いや、そうじゃないけど。気になるでしょあの歌声」


 徐々に歌声は大きくなっていく。この声は……やっぱりディーヴァのパイロットさんのものだ。


 歌っているのは……多分ロシア語? なんて言ってるのかは全くわからないけど……


「綺麗な歌声……」


 歌詞がわからずとも、その歌声の美しさは理解できる、そして心がジンジンと疼く。


 私は自然とその曲のメロディーを口ずさむ。歌詞は分からなくてもメロディーはわかる。


 そうして、模擬市街地に私と彼女の歌声が重なり響き合った。



 気がつけば、彼女の機体"ディーヴァ"の目の前にいた。そして歌声は止まる。


『やっぱり、アナタもステラ因子を持ってるのね』


 オープン回線で彼女から通信が入る。


「……じゃあ、あなたも?」


 やはり、あの感覚は同じステラ因子を持つ者の歌声を聴くときに起きるものだったのか。


『アナタの歌声ね……実は昨日、アナタ達の隊舎の近くを通ってね、聴こえたのよ』


 昨日のトレーニングの事か……


『その後、アナタに会ってね。興味が湧いたの、でもまさかこの模擬戦に出てくるなんて……』


「……まあ、それは完全に偶然ですけど」


 ジャンケンで負けたから出る羽目になっただけなんだよね。


『私はもうアナタと歌えて満足なわけ、正直な話ここで降参してもいいけど……』


 そうして、彼女の機体は……大型の携行用機関砲を構えた。私は咄嗟にビルの陰に機体を隠す。


 ダン……! ダン……! と単発の重低音が鳴り響く。あの機関砲は間違いなく30ミリ以上の大型機関砲であろう。ここのビルでは破壊判定、もしくは貫通判定になる。


 一、二発くらいなら大丈夫だろうけど、これ以上はまずい。とりあえず距離を取ろう。


『……敵機! 急速に接近中!』


 砲撃が止んだと思ったら、今度は接近してきた……!


「くっ……! 仕方ない!!」


 私は短機関砲を構える。


『上方から来ます!!』


 上から……!?


 私は急いで上に視線を向ける。視界に入るディーヴァは……まるで蝶の様に優雅な跳躍をしていた。


「……ッ!!」


 私は操縦桿の引き鉄を引く、構え直した短機関砲から砲弾が連射されたが……射線の読みが甘かった。


 逆に向こう側の大型機関砲より発射された弾丸がこちらの短機関砲を穿つ。破壊判定を受け使用不可能になる。


『あの大型機関砲は装弾数が少ないと分析します、おそらくもう弾倉の交換が必要なはずです』


 冷静なシリウスの分析。それなら……!


 私はコンソールパネルを操作して近接用短刀……所謂コンバットナイフを出して、着地の瞬間を狙い投げる。


 勿論本当に投げているわけではない、コンピューターによる演出と判定が行われている。


 ナイフは機体には当たらなかったがディーヴァの大型機関砲に突き刺さる。


「これで厄介な飛び道具は壊した……まあそれはこっちも同じだけど」


 この近接距離で大型狙撃砲は使えない。短機関砲は破壊された、ミサイルは距離が近すぎる。頭部の20ミリでは致命的なダメージは与え辛い……なら……!


 ディーヴァは大型機関砲を地面に落とした。


 無事破壊判定を取れた。そうして……大きなチェーンブレードを構えた……やっぱりそうくるよね。


 こっちも長刀を構える。



 そうして、そこからは壮絶な近接戦となった。十分ほどの斬り結んだ末……


「……っはあ!!」


 チェーンブレードを弾く。大きな音を立ててそばに転がるそれから視線を外し、ディーヴァの方を見る。


『あ〜……まいった、降参降参』




 ……な、なんとか勝てた。

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