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59話 蝶と歌姫③

「……」


 帰り道のバスの中。私はあの銀髪の美少女のことを考えていた。


 不思議な雰囲気の人だった。なんというか独特というか……あの人、エメリアの戦人機パイロットなんだよね? だとしたら明日の合同訓練でまた会うことのなるのか……


「……マイちゃん考えごと?」


 通路反対側の席に座っていたハルカの声。


「え? あぁ、いやさっきエメリアのパイロットさんに会ってさ……」


 私はそう答える。


「不思議な雰囲気の人だったなぁ……って」


「へぇ、どんな人なの?」


 と、ハルカは聞いてくる。


「ん〜……凄くクールな見た目の美人さんなのにテンションは高めで……」


 彼女のことを改めて思い出す。


「マイちゃん、また女の人をナンパしたの?」


「……いやいや、どうしてそうなる!」


 ハルカの微妙な視線が突き刺さる。


「まあいいけどさ」


 なんとなく微妙な空気が流れる。


 私はチラリと隣ですやすやと眠っているアカネを見る。


「私一緒に……お姉ちゃんと歌いたい……」


 寝言でそんな言葉をこぼす彼女。


 私はそっとアカネの綺麗な紅髪を撫でる。次のライブは、アカネと一緒にやりたいなぁ……


「……んっ」


 気持ちよさそうな声を出すアカネ。


 なんだかんだ言って、私はアカネの事を放っておかないというか。他人って感じがしないんだよね……


「次は一緒だよ……!」



〜〜〜〜〜〜〜



 その日の夜、私は奇妙な夢を見た。


 私は、大都市の上空にいた。ここは……東京?


 なんとなく直感でわかった。ここは東京だ。


「なにあれ……」


 そうしてその街並みの中に……空も貫きそうな高さの巨大すぎる大樹が聳え立っていた。そうして……その周囲には大量のゴーストが。


 ゴーストは共鳴し、まるで歌うかの様に鳴き声をあげていた。


「……役割……あなたの……」


 そしてその時、頭の中に聞き覚えのある声が響く。この声……どこかで……


「また……会いましょ……今度は……一つに……」


 そうしてその声は徐々に聞こえなくなっていった。



「……」


 気がつくと、目が覚めていた。夢なのに何故かハッキリと先ほどまでの体験が頭の中に残っていた。


「変な夢……」



〜〜〜〜〜〜〜



 そして翌日。エメリア王国軍との国交回復五十周年行事の一環である記念合同演習を迎えた。


「こうやって……他の国の軍隊と飛ぶのって初めてだなぁ……」


 レーダーとモニターで周囲を確認する。現在、戦人機による編隊飛行訓練中である。


『操縦に集中してください、ルートを外れそうです』


 シリウスに叱られる。いけない、集中しなきゃ……



 そうして、飛行訓練を終え例の大規模な演習場にエメリアの部隊と共に着陸する。


 演習に参加するのはグリフォン隊、そして私達試験小隊。演習場には十数機ほどの戦人機が集結する。


「Sz-21バーボチカ……」


 私はエメリアの部隊に視線を向ける。四機のバーボチカ、そしてそのうちの一機は見惚れるほど綺麗な紅色をしている。そしてその機体の肩には……蝶を模したと思われるエンブレムがペイントされていた。


『エメリアから提供されたデータによると、あれはエメリアが独自改修したSz-21だそうです、機体のコードはディーヴァ、特殊な試作機らしいですがそれ以上は不明です』


 シリウスが説明をしてくれる。


「ディーヴァ? 歌姫って意味だよね……なんでそんな名前なんだろ」


 気になる。私はモニターに映る紅のディーヴァを見つめる。


『マスター、この演習は日本の偉い人達やエメリアの王女様も見ています、しっかりとお願いします』


「はいはい、わかってるって……」


 まったく、このAIはお小言が多いなぁ……


 と、その時だった。オープン回線でその紅のディーヴァからなんと通信が入った。


「やっほ〜! 昨日ぶり!」


 そしてワイプでモニターに表示されたのは……昨日の銀髪の美少女さんであった。


「え……あ、あなただったんですか!?」


 まさか、あの機体に乗っているのがこの人だったなんて。


『いや〜、まさかこっちもアナタが来るとは思わなかったよ。こんな偶然ってあるんだね』


 軽い口調でそんなことを言う彼女。


『それよりさ、聞いた? 最初はソッチとコッチで一機出して決闘だって』


「あぁ……はい、聞いてますけど」


 最初に行われるのは親善試合的な対戦であった、もちろんその事は事前に聞いている。そうして……その親善試合の代表が何故か私になってしまった事も……!


 元から試験小隊より代表を出す事は決まっていたらしい。今朝話し合い……結局決まらなかったのでジャンケンで負けた人が代表! なんて流れになって……私が代表になった。


 国の代表って……重すぎるんですけど! 女子高生に背負わせるものじゃないよねこれ!?


『……あ、時間。それじゃね!』


 と、話したい事だけ話して一方的に通信を切る彼女。ホント賑やかな人だ。


『時間ですマスター、市街地演習場に向かってください』


 シリウスの指示。親善試合を行うのは私とハルカ、ジェイミーが試験を受けたあの市街地を模した場所だ。


「……え?」


 その時、モニターには同じく擬似市街地に向かう紅のディーヴァが……


『よろしくね〜!』


 と、通信が入る……いや、アナタが相手なの!?

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