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58話 蝶と歌姫②

 そうして三日後、首都名古屋に京都を訪れていたエメリア王国の第二王女がやってきた。テレビは彼女の事を華々しく報道しており、隣国の王女がやってくるというイベントを盛り上げていた。


『本日、中部空港に降り立ったエメリア王国第二王女……』


「凄い盛り上がりっぷりだねぇ〜」


 と、基地の隊舎でテレビを眺めながらハルカはそう呟いた。


 間もなくエメリア王国の戦人機部隊がウチの基地にやってくる。私達試験小隊メンバーは、どんな機体がやって来るのかを見る為に全員小隊の隊舎にて待機していた。


「今のうちに向こうの部隊の機体データを確認しておきましょ」


 と、ジェイミーがテレビの報道を機にする様子もなくそう言った。テーブルの上には幾つかの資料が置いてあった。


「エメリア王国が正式採用している機体は“Sz-21 バーボチカ”、標準的な東側の戦人機ね。世代は古いけど傑作機として今でも多くの国で使われているわ」


 エリナがそう言った。


「東側の機体だから、西側(こっち)に流れてきてる情報は限られてるけど。それでも基本的なスペックや特徴は把握しておいて損はありませんわ」


 エリナは手に持っているタブレットを見ながら解説を始める。


 そうして、ニュースが流れていたテレビが暗転し、タブレットの画面が接続される。映し出される戦人機。


「なんか、騎士みたい……」


 バーボチカはまるで甲冑を被った騎士の様な出立ちをしていた。


 曲線が多く、直線的なデザインである米帝軍機とはまるで雰囲気が違った。


「世代的には紫雲と同じ第1世代の機体に当たるわね、だけど改良とアップデートを重ねて、現在運用されている機体は1.5世代機相当の能力を持っているわ」


 スラスラと解説を進めるエリナ。さすが戦人機のプロだ。


「操作性が安定していて初心者でも扱いやすい機体だそうよ、逆を言えば安定してるけど、それだけ……という事かしら」


 安定性があるが、特に秀でたものはないという事かな。


「それと、1世代機だから武装の搭載量も少ないわね……でも標準搭載されている近接用の強力なチェーンブレードは厄介ね」


 と、モニターに表示されるチェーンソーの様な武器。東側の機体によく装備されているらしい。


 確かにあれで斬られたらヤバそうだ。


「気をつけるべきなのはこのくらいですわ、流石に世代遅れ感も否めませんけど優秀な機体ですし、警戒するべきですわね」


 と、エリナは解説を終えた。


 今更だけど、なんでこんなに向こうの機体を分析しているのかというと、合同演習には模擬戦も組み込まれているからだ。私達も出る事になっている。


「気が重いなぁ……」


 訓練を重ねて来たとはいえ、やはりこういうのは自信が持てないというか……



 そんなこんなで隊舎で時間を潰す私たち。


「そろそろ時間ね」


 と、ジェイミーがつぶやく。私は窓から滑走路の方を見てみた。


「……あれかな」


 遠くの空にいくつかの輝点が。そのうち戦人機特有の排気音が聞こえて来た。


 ゴォォォォォッッ……という喧しい旧世代機特有の大袈裟な排気音、紫雲の排気音に似ている。


「あれがエメリア王国の戦人機部隊……」


 私の隣にいるハルカがそう呟く。五機ほどの戦人機が滑走路に着陸した。


「なんか……一機だけすごく派手な色の機体があるわね」


 と、エリナ。確かに他の機体は水色と白色の迷彩柄だが一機だけ派手な深い紅色をしていた、専用機かな……?


「三倍くらい早かったりして」


 ハルカはそんな冗談を言った。


「ないない」



 近くに寄って見てみたかったけどそういう訳にもいかない、まあ演習が行われる明日になれば嫌でも近くで見ることになるんだろうけど……


 そうして、その日はそのまま解散になった。


「あ、私コーヒー牛乳買ってくるから先行ってて」


 隊舎を出て、基地の外にあるバス停に向かう途中。私は基地内にある自販機でいつものコーヒー牛乳を買う為ハルカ、アカネと別れた。


 そして、コーヒー牛乳を買って。バス停に向かう為に基地内を歩いている途中の事だった。


「Вы там!」


 と、声をかけられる。聞き覚えのない言葉なんだけど……何語?


「アナタよアナタ!!」


 声のする方に視線を向ける、そこに居たのはこれまた綺麗な銀髪ロングの美少女であった。


「……えっと、私ですか?」


 彼女は私の方に近づいて来た。


 背丈は私よりも大きめだ、そうして私に負けず劣らずの大きめな胸。


「そうよ、アナタ基地の人……あぁ、パイロットなのね」


 彼女は私の胸に付いているウィングマークをみてそう呟く。


「そうですけど、あなたは?」


 私はそう尋ねる、彼女の胸にも同じくウィングマークがあった。多分予想はつくけど……


 彼女は呆れたような顔で「私の事聞いてないの?」と聞き返して来た。


「えっと……もしかして……?」


 エメリア王国軍の人ですか? と聞こうとする。


「そんなことより!」


 と、見事に質問を遮られた。


「空から見たわ!! あの大きなお城!! あそこにはどうやって行けばいいのかしら!?」


 ……名古屋城の事だろうか。というか結構クールな見た目によらずテンション高いなこの人。


 私が彼女に絡まれて困っていると、そこに一人の女性が駆けつけて来た。


 彼女は銀髪の少女に、聴きなれない言語で言葉をかけた後、私に頭を下げる。


 ……多分、同じエメリアの人かな。


「はぁ、お城見に行きたかったのに……まあいいわ、また会いましょ新米パイロットちゃん!」


 そうして、二人はそのまま私に背を向けその場を立ち去っていった。


「……なんだったんだろうあの人」

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