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56話 休息②

 五日ほど経った、特にその間何かがあったわけではない。


 小笠原沖での戦闘の情報は、もちろん一般には公開されていない。日本においてゴーストの出現が観測されたとの報告もない。至って平和な日常が続いた。


 私達試験小隊は一度だけ、小さなミニライブをしたくらいで他にあまりする事も無かった。


 訓練で学んだことを忘れないように基地のシミュレーターで模擬訓練を行ったりもしたけど特に実機を動かす様な事もなかった。



「で、これが新しく作った曲」


 私はスマホで音源を流す、それを大人しく聴くハルカとエリナ。


 私達は今、寮の共有スペースで新曲について話し合っていた。この前ハルカに聞かせるつもりだったけど、結局色々あって有耶無耶になってしまったあの曲だ。


 スマホからはピアノの音源が流れる。


「……ふん、面白みのない曲」


 と、そこにセリカがやってきた。あまり寮では見かけないから珍しい。


「代々木さん、いたんだ」


 ハルカがそう言った、多分彼女も私と同じことを思ったのだろう。私は曲を止め、スマホを机に置いた。


 セリカ……ここに来た当初はショートヘアーだったけど、今は髪を肩のあたりまで伸ばしてる。だから随分と雰囲気が違った。


「あなた達って、アイドルだったのね」


 セリカがつまらなそうな口調でそう聞いてきた。


「……ちょっと違うけどね」


 と、私は答える。正確には戦乙女、歌の力でゴーストから日本を守る存在……まあ勿論その辺りは軍事機密なので言うわけにはいかない。


「まあいいけど」


 そう言って彼女は去っていった。


「なんなんですのあの人は」


 エリカがトゲトゲしい口調で聞いてくる。


「いや……同級生だけど」


 ハルカがそう答える。


「そうではなくて!」


「……知らないの? ほら、代々木セリカって」


 私が聞くと、エリカは「いいえ知りませんわ、誰ですの?」と首を振る。


 私はエリカに彼女の事を説明してあげた。


「元アイドル……なるほど、それであんな生意気なのですね」


 いや、彼女が生意気なのと元アイドルなのはあまり関係がないと思うけど……


「それにしても、代々木さんってなんでアイドル辞めたんだろうね」


 唐突にハルカがそんな事を言った。


 確かに、彼女は人気絶頂だったある時間。特にスキャンダルとかがあったわけでもないのに所属していたグループを抜けて電撃引退。


 色々と憶測が流れたけど、本当の事は全く分からずじまいで彼女は芸能界を去っていった。


「まぁ……色々あったんじゃない?」


 と、私は言った。ここで私たちが色々勝手に憶測で話すのも良くないだろう。


 それにしても……つまらない曲か。元トップアイドルの娘に言われるとちょっとヘコむ。


 私は「はぁ……」とため息をつく。まあ確かに、正直前の二曲と比べてまあり自分でもしっくり来ていないというか。


「この曲、もう一度練り直してみるよ」


 私は二人にそう伝えた。ハルカもエリナも何も言わずに頷いてくれた。


 そのまま、私は部屋に戻った。ハルカとエリナはどこか食事に出かけた、私も誘われたけど気分が乗らなかったのでお断りした。


「ふぅ……」


 スマホをベッドに放り投げる。暑い、エアコンのリモコンは……


 机の上にあったリモコンで冷房をつける。


「……アカネは今何してるのかな」


 そこでふとアカネの事を思い出す。今日は基地にいるんだっけ。ジェイミーが連れ出したんだけど……


 私はベットの上に投げたスマホを回収して、ジェイミーにメッセージを送る。


「今なにしてるの? ……っと」


 送信。


「あ、すぐ返ってきた……アカネと基地でのんびりしてる?」


 てっきり訓練でもしてるのかと思ったけど違ったようだ。


 なんだかみんな呑気だなぁ……まあ、する事がないから仕方ないんだけど。



 仕方ない、じゃあ私は新曲の練り直しでもしようかな……


 そう思い、キーボードの前に座る。そうして暫く手書きの譜面と睨めっこする。


「……」


 ダメだ。何故かわからないけど、どうやってもしっくりこない。


「喉乾いた、お腹すいた……」


 私もハルカ、エリナと一緒に外に食べに行けばよかったと今更後悔する。


 こういう時に無理に集中しようとしてもいい曲は出来上がらないだろう。一度切りあげよう。


 ぐぅ〜……と、私のお腹から情けない空腹の悲鳴が鳴く。


 ちょっとコンビニでも行って気分転換しよう……



〜〜〜〜〜〜〜



 コンビニで菓子パンやアイスを購入して、寮に帰る途中の事だった、寮の近くにある公園。中を突っ切ると近道なので公園に入りスタスタと歩いていると、ふと誰かの歌声が聞こえた。


「……この声って」


 私の肌がピリッとした。こんな感覚になるのは……間違いなくステラ因子を持っている娘が歌っているのだろう。


 私は歌声のする方に行ってみた。


「あれ? この曲……」


 よく聞いてみれば、この曲は私が作ってる最中の曲であった。何故世の中にも出していないこの曲が……


 しかも、聞き覚えのない歌詞まで付いている。一体どういう事なのか。


 私は歌声のする場所に辿り着いた。そこにいたのは……


「代々木さん?」


 歌っているのはセリカだった。

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