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55話 休息①

「……」


 パラパラと資料集を捲る私。もう何度も読み込んでいるので大した情報は無いけど……何となく気分が落ち着かない。


 あの後。私とハルカ、アカネはそのまま寮に帰宅した、基地にいても何も出来る事はないし。


 寮につき、寮の管理人ユイさんの出迎えを受ける、なんだか久しぶりのような気がした。一週間も経っていないのに。


 そうして、自室に戻る。この部屋も久し振りなような気がする。机の引き出しから資料集を取り出す。


「なんだか、懐かしいや……」


 これを見ると、記憶を取り戻したあの日の事を思い出す。


 名古屋にきて、事故に遭いかけ記憶を取り戻し。自分がどういう存在なのか理解する。


 そうして、色々な人と出会いここまでやってきた。


「……」


 私は資料集の表紙を眺める。


 ……ここに載っている情報はこの世界とは別の物、蒼グレでの情報が、この世界において必ずしも役に立つとは限らない。


 そうわかってはいるけど、なんだかじっとしている気分でもなかったので改めてそれを見返した。


「……ホント、私にどうしろっていうのさ」


 私はこの世界で何をするべきなのだろうか。


「はぁ〜……」


 資料集を放り投げる、どうにも気分が落ち着かない。こういう時は……


 私はベッドから起き上がり、部屋の窓側に置いてあるキーボードに向かう、音が漏れないようにヘッドホンを繋げ、椅子に座った。


「こういう時は、こうするに限るよね」


 そうして私はある曲を弾き始めた、新曲に使おうと前々から温めていた曲だ。


 気分が落ち込んでいる時とかは、よくこうして無心で曲を弾いてる。こうしていると色々と不安なことを忘れることができる。


 〜♪


 ヘッドホンを通じて、耳に弾いている曲が伝わってくる。まだ未完成で荒削りな曲だが、自分では結構気に入ってる。


 全体的に控えめで主張が抑えめな曲調。こういう曲にはどんな歌詞が合うかな、ハルカだったらどんな歌詞を乗せるのだろうか……


 そんな事を考えながら曲を弾き終える。気がつけば気分はだいぶ落ち着いていた。


 私はキーボードの電源を落とし、再びベッドに寝っ転がる。枕元に置いてあったテレビのリモコンを持ちテレビの電源を付けた。


『京都を訪れていたエメリア王国第二王女……』


 ニュースでは、日本を訪れているという隣国の王女様について報じていた。適当にチャンネルを回す、面白そうな番組はやっていない。


「んっ〜……お風呂入ろ……」


 テレビの電源を落とし立ち上がる。部屋を出てお風呂場に向かう。



「はぁ〜……」


 シャワーから出る温かいお湯を浴び、身体を流す。


 その時、ガラリとお風呂場の扉が開かれる。誰だろうと思いその方向を見てみる。そこにいたのはユウミさんだった。


「あ、マイちゃん帰ってきてたんだ」


 と、彼女は声をかけてきた。


「はい、私もハルカもアカネもさっき帰ってきたばっかで」


 彼女は私の隣に立つ。


「どうだった? 向こうでの訓練は」


 と聞いてきた。


「そりゃ……色々と大変でしたよ」


 私はそう答えた、ユウミさんは苦笑いしながらシャワーの蛇口を捻る。


「まぁ、教導群の訓練はスパルタだからねぇ」


「ホント……キツかったですよ」


 思わずそう愚痴ってしまう、でも実際かなりキツかった。


「そういえば、ユウミさんってユイナさんとどんな関係なんですか?」


 ライバルだとは聞いている、それにユウミさんが教導群のスカウトを蹴った事も。


 私は色々と気になり聞いてみた。


「ん? まぁ昔からの腐れ縁というか……前にあの人と同じ部隊だったことがあってさ」


 そう静かに語り出すユウミさん。


「……あの人には色々お世話になったんだよ」


 先輩後輩みたいな関係なのだろうか……


 もっと深く聞いてみようか迷ってるうちに、ユイナさんはさっさと頭と身体を洗い「じゃ、私は行くね」と言い残し湯船にも浸からず去っていってしまった。


「早風呂ってレベルじゃない……」


 お風呂場にポツンと残された私。ユウミさんが去った後のお風呂場はどこか寂しさと静かさを感じさせた。



〜〜〜〜〜〜〜



「ハルカ〜、入るよ?」


 私は彼女の部屋のドアをノックする。部屋にいるはずなのになぜか反応がない……


「ハルカってば……って、寝てるし」


 ベッドの上ですぅすぅと寝息をたてる彼女。可愛らしい寝顔を隠す事なく私に晒している。


「はぁ……曲聞いてもらおうと思ったんだけど……」


 さっきキーボードで弾いた曲、パソコンに繋げ録音しデータとして保存していた。ハルカに聴かせる為だ。


「明日にしようかな……」


 寝ているなら仕方ない、私は部屋を出ようとする。


 そこで、ふと部屋の机の上に置いてある写真立てが目に入った。


「…….ハルカのお父さんとお母さん」


 机に近づく。


 写真に写っていたのはハルカとその両親。ハルカの部屋にはしょっちゅう出入りしてるから見るのは初めてじゃないけど……


「……親、か」


 そこで、私はマイとしての自分の境遇を思い出す。今まであまり考えることはしてなかった、というよりあまり思い出したくなかった。


 マイ(わたし)はハルカほど家庭環境が恵まれているわけではない。だからこういうのを見るとちょっと羨ましくなる。


「部屋に戻ろ……」


 写真立てを机に戻し、部屋を出ようとする。


 ……しかし、部屋散らかってるなぁ。今度部屋を片付けるように言わないと。


 だが、その時だった。運悪く床に転がっていたダンボールの空き箱に足をとられてしまう。


「あっ……ぶな」


 その場所は丁度ベッドの近くだった。ハルカがすやすやと寝ているベッドに倒れ込む……


 あれ、この体勢、側から見ればハルカの寝込みを襲おうとしているみたいに見えて……


「ハルカちゃーん、晩御飯できたわよ……って、ま、ま、マイちゃん!? あのっ……お邪魔だったかしら!!」


 ドアを開け部屋を覗き込むユキさん、なんだか物凄い勘違いをしてドアをバタンと閉め去っていった。


「……ま、マイちゃん?」


 いつの間にか起きていたハルカ。



 どうしてこうなった……?

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