54話 緊張
翌日、私達試験小隊に突如、帰還命令が下った。あまりにも突然のことで混乱する私達。
「訓練を打ち切らなきゃいけないのは残念だけど、事情が事情だし仕方ないかぁ……」
と、ユイナさんは言った。なにやら事情を知っていそうだけど……
『一体どうしたんだろ? 私達昨日のライブで何かやらかしちゃったかな?』
と、ハルカ。私達は今まさに戦人機で名古屋へと戻る真っ最中であった。
『まさか……ライブは完璧でしたわよ』
エリナがそう答える。
「……」
私には心当たりがあった、蒼グレと同じ展開ならば、ここから先の展開が正念場となる事だろう。
『マスター、どうかされましたか?』
シリウスが私の緊張した様子を感じ取ったのかそう聞いてきた。
「ん……いや、なんでもないよ」
そうして、数十分程で中京基地にたどり着く、やはり戦人機ならひとっ飛びで直ぐに到着出来る。
機体を格納庫に入れた後、私達は司令室へと呼び出される。
「なんか、ピリピリしてない?」
ハルカがそう言った。確かに、基地全体に僅かながら緊張感が漂っているような気がする。
「何だかものすごく嫌な予感がしてきましたわ……」
と、エリナ。
「ジェイミーは何か知らないの?」
ハルカはジェイミーにそう問いかける。
「知らないわよ」
そう答えるジェイミー、そんな会話をしてるうちに基地司令室へと辿り着く。なんだか久し振りなような気がしなくもない。
「失礼します」
ドアをノックし中に入る。千駄木司令はいつものように机に向かっていた。
「試験小隊五名、小松基地より帰還しました」
ハルカがそう報告をする。
「あぁ、うん。ご苦労様」
千駄木司令が顔を上げてそう言った。
「えっと、なんでまた急に帰ってこいなんて?」
取り敢えず私は聞いてみる、大体の予想は付いているんだけど。
「それなんだけど……実はかなりピリピリした状態になっててね」
と司令は言った。
「実は昨日、東京の小笠原諸島近くでゴーストの出現反応があったの。それで警戒の為に戦人機が確認に向かったんだけど……」
司令の話を大人しく聞く私たち。
「そこにいたのは、国籍不明の戦人機。しかも躊躇いもなくこっちの戦人機を墜としてきた」
戦人機が……? 予想が外れた。単に確認されたのは新種のゴーストだと予想していたのに……
「国籍不明? どういうことですか?」
ハルカが質問する。
「ええ……どこの所属かもわからない機体……ただ、墜とされた機体から回収されたデータによると。攻撃してきたのは晴嵐、パイロットの最後の言葉とも一致するわ」
墜とされた……そう聞いて私はブルリと震える。それに晴嵐が攻撃してきた? 晴嵐は日本皇国独自の機体だ。どこにも輸出はされていないはずだが……
「一体どういう事? 味方が攻撃してきたってわけ?」
と、困惑気味のジェイミー。
「わからないわ、IFFの応答は無かったそうよ」
司令はそう答えた。
「……」
押し黙るみんな、状況が飲み込めないのだろう。それは私も同じであった。やはり少し展開が違う。
蒼グレだと、ここで新種のゴーストが確認される。今迄よりもかなり強力なタイプで、このゴーストにより日本、世界各地にゴーストの脅威がさらに広がる……というものだった。
そして、この後の東京での展開もその新種のゴーストが関係していた。
だけど、まさか出現したのが戦人機とは思わなかった。しかも晴嵐。一体何が起こっているのであろうか。
「まあ、そんなこんなで色々とややこしい状況だから皆んなにはひとまず帰ってきてもらったわけ」
司令はくるりと椅子を回し、私達に椅子の背中を向けそう言った。
「状況はわかりました……」
ハルカがそう言った。
「まぁ、みんなとは直接関係ないと思うから。ひとまず小隊メンバーは待機……つまり、特にやることもないから、今日は帰っていいよ」
司令はそう言った。たしかにそんな状況で私達が出来ることも無さそうだ……
そうして、私達は司令室を去る。
「国籍不明の戦人機ね……」
と、ジェイミーが呟く。
「なんだか雲行きが怪しくなってきたわね」
確かに、若干不安になってくる展開だ。
「どこの部隊? 晴嵐ってことは日本の機体なんだよね?」
ハルカはうーん、と考え込む。
「……案外、ゴーストの新種だったりするかもしれませんわね」
エリナの言葉……あ。そういえば。
そこで、私は前に経験したある出来事を思い出す。南沖島でアカネと交戦した時の事だ。
あの時現れた黒い紫雲……アカネが乗っていた機体だ、ゴーストの反応がする戦人機。
あれは一体何だったのだろうか、ただの戦人機とは到底思えないけど……
「……」
正直、あの時の出来事は未だに現実味が湧かない。本当に何が夢でも見ていたんじゃないかと思ってしまう。
でも、機体の記録には残っていたし、シリウスにも同じ記憶が残っている、夢じゃなかったんだよね……
私はチラリとアカネを見る。先程からあまり喋っていないけど……
「ふわぁ〜……」
大きなあくびをする彼女、どうやら眠いようだ。
「考えすぎかなぁ……」
私はボソリと呟く。
「マイちゃん何か言った?」
「ん、いや何でもない……」




