53話 見えざる敵
そんなこんなで、いよいよ音楽フェスが始まった。私たちの出番は最初の方、まだステージが温まりきってない状態で出なきゃいけないなんて憂鬱だ。
「さて! 続いては自衛軍の公認アイドルでありパイロットの卵! そんな珍しいアイドルがここ石川にやってきました!!」
という、進行の方の合図。ステージ裏に控えていた私たちはステージに出る。
「みなさーん! 初めまして!!」
まずは初めましてのご挨拶から、会場の反応はそこそこだ。これなら充分盛り上がっていけるだろう。
「それじゃー! 一曲目いきまーす!!!」
と、ジェイミーがステージ用のテンションでそう叫んだ。一曲目、私達の十八番であり、ユニット名でもある"Shooting Star!!!"。背後に設置させているスピーカーからイントロが流れ始める。
"Shooting Star!!!"……本当はアカネ入りの五人用のフォーメーションを考えていたんだけど。
アカネはしっかりと見てくれているのだろうか……パフォーマンスをしながらそんな事を考える。
そうして気がつけばラスト、最期のターンからの決めポーズ。悪くはない……今までで一番上手く出来たかもしれない。
間を開けず、二曲目がスタートする。エリナ作詞の例の電波曲。一曲目との落差に若干観客達は戸惑っていた様だが、最後はノってくれた。
「「「「ありがとうございました!!!」」」」
これで私達の出番は終わりだ。ステージ傍に引っ込む。
「以上、"Shooting Star!!!"の皆さんでした! 続いては〜」
そうして、私たち四人はお互いにハイタッチをした。ステージの出来は上々、観客の反応も悪くなかった。
「これで石川県での仕事もおしまいかしら?」
と、ジェイミー。
「いやいや……まだ訓練が残ってるでしょ」
飛行教導群による特訓があと二、三日も残っている。
「はぁ……憂鬱だ」
ハルカはため息をつきながら項垂れる、確かに特訓はキツい。流石に今日は休めるけど明日からまたビシバシ指導を受けなきゃいけないと考えると……
「あつ〜……汗かいた、シャワー浴びたい……」
私は衣装をパタパタさせ、少しでも涼しさを得ようとする。
「ともかく、早く戻りましょう」
エリナがそう呟いた。確かに……何がともあれ、まずは控室に戻らなきゃ……
〜〜〜〜〜〜〜
同日 東京府 小笠原諸島沖
「"ケルベロス1"より、反応があった地点に到着した」
一機の早期警戒戦人機が夕暮れ茜色の空を飛ぶ。
『レーダーに反応はない、誤情報じゃないのか?』
搭乗員は周囲の情報を確認しながら管制司令部にそう伝える。
『そんなはずは……地上のレーダーサイトは二十分前にゴーストの出現を観測している』
中央管制センターからの通信。
「そう言われてもねぇ……」
早期警戒戦人機、コックピット後部座席に座るレーダー管制員は繰り返し索敵情報を確認。
周りは至って静かなモノだった。眼下に広がるのは穏やかな海、聞こえるのは自機の排気音と波、そして風の音のみだ。
「……陽が沈む」
前部座席に座るパイロットは、落ちていく夕陽を見ながらそう呟く。
「……!? 何だこいつ……」
と、レーダー管制員の男が何かを発見する。
「どうした?」
「いや、六時の方向……こいつは、戦人機か? 何処から湧いてきた!? 急速に突っ込んでくるぞ……100秒後に接敵!」
と、パイロットにそう伝える管制員。
「何処の所属だ? IFFは?」
不明機の詳細を尋ねる、同時に機体を上昇させ回避行動を取る。
「不明……! クソっなんだこいつ、国籍不明機に告げる、貴機は日本皇国の領空を侵犯している! 直ちに引き返せ!」
不明機に通信を試みる管制員、英語で同じ内容を叫ぶが応答はない。
「こちらケルベロス1! 不明機が急速に接近中!! 指示を求む!」
『不明機? こちらでは何も捉えていないが……ゴーストではないのか?』
管制からの返答。
「何をバカな……現にこちらではレーダーで補足しているぞ!!」
全く噛み合わないやり取りに苛立ちを見せるパイロット。
「不明機目視圏内に入る!! ヘッドオンするぞ!! 左にブレイクして回避しろ!」
そうして視界に映るその目標。それは飲み込まれるように黒く漆黒のカラーリングをした戦人機、晴嵐であった。
「晴嵐……? どこの部隊だ! IFFは全く応答してないぞ……」
と、そこにピッピッピッ! という警告音が鳴り響く。
「クソっ! 反転してきた! ロックオンされたぞ!!!」
不明機よりレーダー照射を受けるケルベロス1。断続して鳴り響くアラート音はまるで悲鳴の様であった。
『どうしたケルベロス1! 何があった!』
「不明機からロックオンを受けた……クソ! あいつ撃って来たぞ! 正気か!?』
レーダーは不明機から分離する目標体を補足する、おそらく空対空ミサイルであろう。
背後から高速で接近するミサイル。
「チャフで回避しろ!!」
後部座席のレーダー要員は叫ぶ。しかし距離が近すぎる、間に合わない。
『ケルベロス1! 応答しろ!!!』
同時刻、中央管制センターの大型ディスプレイから、一つの輝点が消える。一機の戦人機が墜とされた瞬間であった。




