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49話 鬼

 その後、私とアカネは一足先に基地に戻る。


 他のメンバーはそのままあの二人の指導を受けるそう。今は帰還の途中、ヘリの中でアカネと先程の演習について話をしていた。


「ユイナってお姉さん、凄かったね」


 隣に座るアカネがそう呟く。


「そうだね」


 アカネは演習途中、ずっとユイナさんの動きに魅せられていた。


「動き方が……凄く迫力があったというか、鬼みたいだったよ!」


 鬼、か……たしかに、あの動きを見たらそう思うよね。


 実際、彼女の動き、格闘機動は桁外れのモノだと思う。その勢いのある動きは鬼そのものだ。


「鬼神……」


 ユイナさんに付けられたあだ名だ。あの人はそれに相応しい強さを持っていると思う。


 見た目は、優しげな大人の女性なのに、いざ戦人機に乗るととてつもなく荒々しい動きをする。


「なんというかギャップが凄い……」


 あの人の動きはユウミさんとはまるで違った。ユウミは優雅に舞う様に戦う。ユウミさんとユイナさんが戦ったらどっちが強いのだろうか……


 頭の中で、二人の格闘戦を想像してみる……想像しただけで、とんでもないことになった。


「明日は私も戦えるんだよね?」


 ハルカは期待を抑えきれない様子でそう言った。


「うん、機体がくればね」


 なんというか、この娘は相変わらず無邪気だなぁ。


 私と最初に交戦した時もそうだった。あの漆黒の紫雲で私とやり合い、そうしてその後機体から出てきたアカネ。


 私の歌を無邪気に褒める表情は今の彼女の表情と同じであった。


「はぁ……気が重い」


 あんな化け物と明日は私たちが戦わなければならないなんて……私は気が重いよ……


 その後、テンションの高めなアカネに若干うんざりしつつ基地に戻る私達であった。



〜〜〜〜〜〜〜



「おつかれさま〜」


 演習を終え、基地に戻ってきた三人を格納庫内で出迎える。


 機体から降りて一箇所に集まる三人。三人は一様に硬い表情をしていた。


「……どうしたの?」


 と、私が聞くと。


「どうもこうもうないわよ、何あのバケモノは……」


 と、ジェイミーが呟く。


「ヤバかったね〜……」


 苦笑いするハルカ。


「訓練もキツいし、こりゃ一週間大変だ……」


 そうしてハルカは地面にへたり込む。どうやらあの後、厳しくしごかれたみたいだ。


「なんというか、あの人って戦人機を動かす為に生まれてきたみたいな人だったね」


 私の隣にいたアカネがそんな事を言った。


「ユウミさんといい、ああいう人たちって操縦の時どんな考えしてるんだろう……」


 思わずそんな事が口に出てしまった。



「……」


 そんな会話の中、やはりエリナは大人しいままだった。普段の威勢はどこに行ってしまったのだろうか?



〜〜〜〜〜〜〜



 そんなこんなで、その日は終わった。シャワーを浴びて夕食を食べた後、私たちは大人しく宿舎の自分達の部屋に戻る。


 外に食べに行こうとも思ったけど流石に今日はそんな気分にはなれない様だった。


 私たちに割り振られた宿舎の部屋は一部屋だけ。部屋の中には二段ベッドが三つあるだけのとても簡素な部屋であった。



 すぅすぅと寝息が聞こえる、もうみんな寝たのかな。流石に疲れてる感じだったし……


 私は何となく寝れずにいた。明日の事もあり若干の緊張を覚えながらベッドの上で落ち着きなく何度も寝返りをうっていた。


「はぁ……」


 おもわずため息が漏れてしまう。


「マイちゃん……寝れない?」


 と、下から声が。


「ハルカ? 起きてたの?」


 小声で返す。下のベッドに寝ているのはハルカだ。


「うん……なんとなく寝れなくて」


「ちょっと外に行こうか……?」


 私がそう提案すると、ハルカはそれに「行こっか」と答えた。


 そうして、ベッドを起き上がり私たちは部屋を出る。



 宿舎を出てすぐ、入り口近くにあったベンチに私たちは座り込む。途中の自販機で買ったジュースを飲みながら私たちは空を見上げた。


「月、綺麗だね」


 と、ハルカ。


「そうだね……」


 オレンジジュースを飲みながら私はそう応える。


「……エリナちゃん、なんか変じゃなかった?」


 唐突にハルカが切り出す。


「うん、確かに」


 やはりその話か。私もなんとなく気にはなっていたけど……


「やっぱり、お姉さんと何かあったのかな」


 夜空を見上げながらそう呟くハルカ。


「まあ、多分そうでしょ。そうじゃなきゃあんな微妙な反応しないって」


 今日のエリナはやはり、どこか変だった。


「ユイナさんとの対戦の時さ、エリナ近接格闘で勝負つけようとしたじゃん? あの時も何処か動きが固かったというか……」


 私は気が付いた事を行ってみる。


「エリナちゃんって、空中での格闘戦苦手だし、わざわざそれを挑むのも変だったよね」


 と、ハルカ。確かにそれは私も思っていた。なんか、無理やり相手と同じ土俵で勝負をしようとしてたというか……


 うーん……やはり、いつもの彼女らしくない様な気がする。


「お姉さんとなんかあったのは確実だろうけど、私たちがそれに踏み込んでいいものか……」


 私はそう言った。ハルカもそれは思っていたのか、考え込む様な仕草をして押し黙ってしまった。


「……戻ろうか」


「そうだね……」

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