48話 姉妹対決
「……ま、マジで?」
なんなのあの動き……とんでもない。どんな入力操作を行えばあんな動きが出来るのであろうか。
『はぁ……完敗ね』
「おつかれ……」
まさしく、化け物みたいな動きだったなぁ、これがユイナさん……
そうして、次はハルカと教導群、もう1人のパイロットの方の戦い。
こちらもユイナさんに負けず劣らずの優秀なパイロットのようで、ハルカもよくやってはいたが負けてしまった。
『つよいよー!』
愚痴をこぼすハルカ。
「まあよくやった方だって」
実際、ハルカは良いところまで行っていた。あの娘って、一応私達の中じゃ一番のパイロット。敵いはしなかったが動きは悪くなかった。
『……ふむ、君はかなり筋がいいね』
と、対戦相手のパイロットに褒められるハルカ。
「ハルカお姉ちゃん褒められてるよー!」
嬉しそうなアカネ。
しかし、あのハルカでも敵わない。ユイナさんもそうだが、教導群は本当に化け物揃いなようだ。
そうして最後。エリナさんとユイナさんの戦い。
「……」
思わず息を呑んでしまった。位置につく二機の晴嵐。片方は青色、もう片方は派手な迷彩柄。同じ機体だが纏っている雰囲気がまるで違う。
そして、二機の間にはピリッとした緊張感のようなものが。
「えっと……エリナ」
『話しかけないで、集中したいから』
こ、怖いよエリナ……
睨み合う晴嵐。頭部に角があるのも相まってまるで二体の鬼が対峙しているかのようだ。
エリナの晴嵐の装備は標準的なもの、短機関砲二挺、そしてハルバードの様な大型の近接武器。
エリナは長刀より、あちらの方が使いやすいという事で機種転換の際メイン武装にハルバードを装備するようになった。
そうして、ユイナさんとエリナの戦闘が始まる。互いに同じ機体、果たしてどんな戦いになるのだろうか……
エリナは、ジェイミーの様に最初から突っ込んで行かず、ゆっくりと様子を伺う。ユイナさんもそれに応えるかの様に、距離を空けながら動かずに佇んでいる。
なんだか随分と性格が出るなぁ、と思った。
そして、最初に動き出したのは……ユイナさんの晴嵐であった。
『……ッ!』
エリナの声にならない声。ユイナさんの晴嵐は長刀を抜きジリジリ距離を詰める。
『……近接格闘戦になったら間違いなくこちらに勝利はありませんわ……なら!!』
と、エリナの独り言。成る程、あのハルバードは使うつもりはないというわけか。
たしかに近接格闘戦では確実に敵う相手ではないだろう。しかし距離を取ったからって勝てる相手とは思わないけど。
「短機関砲を構えた……そこからどうするの?」
漂う緊張感の中見守る私たち。エリナは二挺持ちではなく一挺持ちでユイナさんと応戦する様だ。
そうして、エリナは両手でしっかりと構え、短機関砲から砲弾を放つ。
あたりに響き渡る短機関砲特有の砲撃音。
ユイナさんはそれを左のステップで交わす、まるで撃つタイミングがわかっているかの様だ。
『当たるとは思ってませんでしたけど……!』
バックステップでさらに距離を取るエリナの晴嵐。これ以上は無駄だと思ったのか砲撃を止める。
『これならどうかしらッ!』
エリナの晴嵐、翼下より二発の空対空ミサイルが放たれる。
二発のミサイルは急加速、ミサイルほぼ一瞬でユイナさんの元までたどり着く、しかしそれを頭部の20mmCIWSで冷静に対処。
頭部の機関砲、20mmCIWSはあの様に飛来するミサイルに対して迎撃の為に使われる。正面から飛んでくるなら簡単に迎撃されてしまうはずだが……
しかし、エリナの目的は別にあった様だ。ユイナさんがミサイルに対処している間にエリナは空中に飛び上がる。
それに追従する様に、ユイナさんの晴嵐も空に飛び上がった。
『お姉様との決着をつけるのにこの地面は狭すぎますわ!』
空での格闘戦を挑もうというワケか。
「わー……すごい」
感心するアカネ。二機の晴嵐は互いに背後を取り合おうと動く。互いの飛行軌跡がぐるぐると混ざり合シザーズと呼ばれる状態になる……だがそれは長く続かなかった。
「あっ……」
エリナの機体が背後についた瞬間、ユイナさんの晴嵐が急激なピッチアップ、大きく迎え角を取りそのまま後方に一回転、バーニアを細かく調整し、所謂クルビットと呼ばれる機動をとる。
一瞬で状態は逆転、背後についた瞬間ユイナさんの晴嵐から30mm砲が連射される。
状況は決した。
『……ッ、負けましたわ……』
悔しそうなエリナ。
「勝負あったか……」
それにしても凄い機動だ。クルビットなんてこの目で見るのは初めてだ……あれが教導群エースの動きというわけか……
空から見せられて、改めてユイナさんの動きがどの様なものであるのかが分かった。陸で見てたらあまり理解出来なかったであろう。
「〜〜〜ッッ!! すごいすごい! 私も飛びたい!!」
興奮気味なアカネ、よっぽどユイナさんの動きに魅せられたのであろう。
「よく頑張ったよエリナ……」
『ええ……』
私の慰めに、力なく応えるエリナ。よっぽど悔しい様だ。
「はぁ……明日は私があの人と戦うかもしれないのか……」




