47話 コブラの隊章
そして、その後私達はこれから一週間過ごす宿舎に案内された。
南沖島で過ごしたのはリゾート風な別荘のような宿舎であったけど、ここのはいかにもな軍隊感が漂う場所であった。
荷物を置いた後、早速訓練が始まる。私とアカネはヘリで一足先に演習場まで連れて行ってもらう、他のみんなは機体の調整を終え次第にこちらに向かってくる予定だ。
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石川県 某所 自衛軍管轄第一演習場
「あれが……教導群が使ってる晴嵐?」
少し離れた場所に佇む晴嵐。馴染み深い単色青色のカラーリングではなく複雑な迷彩模様が施された塗装が施されている。
「一目で普通とは違う部隊だってわかるね」
アカネが呟く、確かにその通りだ。
威風堂々と佇む二機の晴嵐を眺めていると、視界の隅に基地の方向からXA-51とピーコック、そして普通の晴嵐が飛んでくるのが見えた。
三機は広々とした演習場の一角に着陸する。
「そろそろ時間です、お乗りください」
と、後ろから声をかけられた。私たちの背後にはここまで来るのに乗せてもらった、統合自衛軍の多用途観測ヘリが。
今回、私とアカネはこれに乗り空から演習の様子を見させてもらえる。
空から客観的に戦人機同士の戦いを見れる機会なんてそう無い。かなり貴重な体験だ。
私とアカネは指示に従いヘリに乗り込む。
ローターの回転音が強まり、やがてヘリは離陸。演習場の上空、訓練の邪魔にならない位置につき滞空する。
「手元のモニターに詳しい状況が写されます」
そう説明を受ける。このモニターと、実際に窓から見える景色で演習の様子を観察する。
『あー、マイ、アカネ? 聞こえる?』
そこに、ジェイミーからの通信が入る。
「うん、聞こえる、まずジェイミーからでしょ? 頑張ってね」
今回はユイナさん、そうしてもう一人のパイロットの方とまずはそれぞれサシで勝負する、こちらの今現在の実力を実際に戦って知りたいとのこと。
そしてその初戦はユイナさん対ジェイミー。
『ええ、私の力がどれだけ通用するのか試してみるわ』
そして、指定の位置につくピーコックとユイナさんの晴嵐。
「……」
思わず息を呑む私。見慣れている晴嵐だというのに、あれから放たれるオーラは尋常じゃない。
「単にカラーリングのせいってだけじゃないよね……」
ユイナさんの晴嵐の佇まいは、どこかユウミさんとも通じるところがあった。
「エースパイロットって、みんなあんな威圧感すごいの……?」
モニターを通じて彼女の晴嵐を眺める私。
その晴嵐の方にペイントされているコブラの隊章。日本最強を表すシンボル。
「ジェイミーおねえちゃーん! がんばってー!」
アカネの声援、そうして戦闘が始まる。演習場は余計な遮蔽物のない広々とした場所であり、今回は純粋に格闘戦での腕が試される。
最初に動き出したのはジェイミー、彼女のピーコックが両手に持った短機関砲で牽制射撃を行う。
ぱらららら……
と、乾いた発砲音、もちろん空砲。演習なのでいつもの如くコンピューターが当たり判定を行う。
それを……彼女の晴嵐はやすやすと躱してみせる、モニターの方には実際に演出として放たれる砲弾が表示されるが、一発も当たっていなかった。
『……ッ! 動きが早い……!』
ジェイミーの声がヘリの中に響く。
ひらりと砲弾を避けた晴嵐、今度はその晴嵐が片手に持った短機関砲をピーコックに向けた。
撃たれる……そう思ったが、晴嵐が狙ったのは……
ダンッ! ダンッ!
と、単発の射撃音が二発。
「!? 機関砲が……」
晴嵐が狙ったのはピーコックが両手に持つ短機関砲であった。その二挺の機関砲を単発の射撃で正確に狙い撃ったユイナさん。
「……私より狙撃能力高いんじゃ」
思わず呟いてしまった。
当たり判定受け使用不可能となった機関砲を乱暴に地面に落とし、予備の機関砲一挺と、背面の長刀を装備するジェイミーのピーコック。
「あれは……ジェイミーが得意なやつ……」
右手に長刀、左手に短機関砲を装備するジェイミーが得意とするスタイル。
左手の短機関砲を晴嵐に向け牽制を行いジリジリとピーコックは距離を詰める。
対する晴嵐はというと、至って落ち着いた雰囲気でピーコックの方に機体を向けている。と、その時……
「ユイナさんも長刀を抜いた!?」
ユイナさんの晴嵐も、背面に装備していた長刀を抜く、左手に短機関砲、右手に長刀。エリナと同じスタイルを取った。
『私と同じスタイルで勝負しようってワケ?』
と、エリナ。二機の間に緊張感が走る。
先に動き出したのは……やはりジェイミーであった。短機関砲をばら撒きつつ、飛行ユニットのエンジンを吹かし一気に加速。距離を詰める。
しかし、ユイナさんの晴嵐は……
「跳躍した!?」
ジェイミーの突撃をピョンと跳躍で躱す。急減速を行い、体制を立て直そうとするジェイミー。
晴嵐はピーコックの背後に綺麗に着地、ピーコックは振り返るが……動作が遅かった。
そして、晴嵐は右手の長刀をピーコックの首元に突き付けた。
『くっ……』
左手の短機関砲は丁度コックピットブロックに突きつけられている。
「これが……飛行教導群……」




